2024年 4月 20日 (土)

未来が壊れた世界で 東畑開人さんが説くメンタルの奥義は、様子見

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   週刊文春(5月7日・14日合併号)で始まった新連載「心はつらいよ」で、臨床心理学者の東畑開人(とうはたかいと)さんが、挨拶がわりに「コロナ禍とメンタルヘルス」について説いている。芸能ネタなど「ホットで無害なニュースをバッサバッサと切っていく連載」を夢見ていたそうだが、初回がコロナというのはむしろ「らしく」ていい。

   まずは連載を始める経緯や気構えを交えて自己紹介をひとしきり。そして...

「カウンセラーであり学者であるという、あまりに真面目過ぎるこれまでの人生を反省して、中年期以降は第2人格でお気楽に生きていこうと思っていたのだ」と告白する。

   東畑さんは1983年生まれ。京大の教育学研究科で博士課程を修めた臨床心理の専門家だ。新連載で「別の自分」を打ち出すつもりが、コロナにより夢は砕かれ、専門ど真ん中からの文春デビューになってしまったと、こういうわけだろう。そして本題である。

「明日の予定くらいはわかっているけど、来週がどうなっているのか誰にもわからない、そんな事態がずっと続いている。それでも、毎日を生きて、日々を暮らしていかなくてはいけない。まったく見通しが立たない。私たちは今、そういう世界を生きている」

   ひとたび専門領域に踏み込むと、Tシャツからネクタイ姿に転じたように、文体までが落ち着いて引き締まり、ぐいと引き込まれる筆致になる。文章は正直だ。

  • 「おうちで様子見」の結果、人車とも少ない大型連休中の渋谷=冨永写す
    「おうちで様子見」の結果、人車とも少ない大型連休中の渋谷=冨永写す
  • 「おうちで様子見」の結果、人車とも少ない大型連休中の渋谷=冨永写す

動かずに待てるか

   見通しが立たない世界について、東畑さんは「心にとっては致命的だ」という。

「というのも、普段の私たちは、まるで予言者みたいに、未来を片目で見ながら暮らしているからだ...先がある程度見えているから、今を安心して生きることができる。日常には未来が含まれている」

   未来が壊れると、人は茫然自失となり、日常が粉砕される。失恋、親友の裏切り、解雇通告などなど...コロナ禍も同じだという。

「私たちはまさしく壊れた未来を前に混乱している。電車は動くし、スーパーに食品はある。だけど未来だけがない。だから、日常はあるようで、なくなってしまっている」

   未来が壊れた人は基本的に興奮しており、軽い躁状態にあるそうだ。頭が回転して、何かしなけりゃと思う。動かずにはいられなくなる。例えばスーパーでの買いだめである。

「そういうときに起こしたアクションは、大体うまくいかないし、むしろ事態を悪くすることも多い...『思い立ったが吉日』というけれど、それは安定した日常での話だ」

   未来は見失われても、確実にやって来る。「緊急事態では、未来は手繰り寄せるよりも、待つ方がいい」...ここで必要な気の持ちようは「様子を見る」に尽きるという。しかし、危急の時に「様子を見る」には勇気が要る。その点「一緒に様子を見よう」と言ってくれる人がそばにいれば、不安は軽くなる。「1+1=0.5」となるのが不安の本質らしい。

「連日、首相や知事がメディアに出続けているのも、それが理由だ...Stay Home するには、つまり見えない未来を動かず待つためには、それを下支えする安心感が必要なのだ。それが今うまくいっているのか、いっていないのかは、私にはよくわからない」

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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