2020年 11月 24日 (火)

楽譜は何を伝えているか(4)

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   人間は文明というものが意識される以前から、おそらく、言葉を使うことを覚えて「人間」になった瞬間から、音楽を演奏したり聴いたりして楽しんでいたと思われます。地球に現れた最古の文明とされるいくつかの文明の発祥の地、メソポタミア、エジプト、インダス、中国などでは、音楽は日常のさまざまな場面で利用され、親しまれてきたはずです。

   まことに人類の文化の歴史は果てしなく長く、文明が勃興した地域も世界各地にあるのに、先週取り上げた古代ギリシャや古代ローマも含めて、なぜ誰も「楽譜」を発明できなかったのでしょうか?いや、しようとしなかったのでしょうか?

  • タブラチュア。楽器の演奏には便利だが、音楽そのものを記譜してはいない
    タブラチュア。楽器の演奏には便利だが、音楽そのものを記譜してはいない
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カラオケ行く前に楽譜を見てメロディー覚えるか?

   音を出す楽器、という点において、古代文明はすでに十分に先進的でした。先週取り上げたオルガンのルーツは古代ギリシャ文明にありますし、電子楽器を除けば、現代のアコースティック楽器、つまりオーケストラで使われるような楽器の類は、ほぼ全て古代から存在したのです。弦を張り、それをこすったり弾いたりして音を出す弦楽器、管に息を通して響かせる管楽器、そしてもっとも原始的な叩いたりこすったりして音を出す打楽器。もちろん現代の楽器は進化し、洗練されていて音も大きく、きれいな音色を持っていますが、「音の出る仕組み」だけに注目すれば、紀元前何世紀・・という古い時代の楽器もほぼ同じ仕組みを持ち、ざっくり言えば、「似たようなもの」だったのです。加工精度も決して悪くはなく、それなりにちゃんとした「楽器演奏」が存在したであろうことも推測できます。

   それならば当然存在するだろう・・・と現代人なら考えてしまう楽譜は、演奏や音楽教育にとって欠かせないアイテムなのに、存在しないのです。

   繰り返しますが、何千年にもわたって、なぜ人間は楽譜を発明しなかったのでしょうか?

   いくつかの理由と、あまり機能的ではないが、それに代わるものがあった・・というのがどうやら答えです。

   まず、楽譜を生み出した欧州の音楽は、現在のクラシック音楽に引き継がれていますが、「ハーモニーを作る」俗に言う、「ハモる」ことをマストとしています。しかしながら、世界の音楽はほとんどメロディーだけの単旋律のものが多く、そういったメロディーだけの音楽は、口伝でも十分伝えられる、ということです。実際に、我々も「メロディーだけ覚える」ということはカラオケ好きでなくても、無意識に行っています。

   カラオケの画面ですが、歌詞は表示されますが、楽譜は出てきません。しかし、カラオケに行って「知っているお気に入りの歌を歌おう」というときに、事前にその曲の楽譜を見てメロディーを正確に覚えてからカラオケに行こう、と考える人はどれだけいるでしょうか?私自身を含めて、そんな人は滅多にいません。少し歌のメロディーが怪しくても、「知っている範囲内で歌ってしまおう」と考えるのが常で、歌詞は間違えたら嫌だからカラオケ画面は見るけれど、メロディー譜はいらないや・・と考えるのが通常です。もちろん、「楽譜が読めない」という人でも、カラオケでは簡単に歌えます。

   古代人も、おそらく同じ考えかたで、現代の我々が、プロの歌手の歌っている歌をテレビやラジオで聞いてメロディーを覚えるのと同じように、周囲の人々や、歌の上手な人が歌うのを聞いて「耳コピー」すれば十分、と考えていたのだと思います。

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でプルミエ・プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目のCDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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