2021年 8月 5日 (木)

渡辺美里「tokyo」
自信に溢れた30年前の若者の街

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   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

   一枚のアルバムには、様々な「時間と時代」が記録されている。その作品が生まれた時代や人々の生活、そのアーティストの置かれていた環境やその時の心情。本人の意識がどうであれ、その時代を映し出すドキュメントとして存在している。

   2020年11月25日に発売された渡辺美里のアルバム「tokyo」の30周年盤は、改めてそんなことを感じさせてくれた。オリジナルは90年7月発売、彼女にとっては6枚目のアルバム。週間チャートは一位。その年の年間チャートでは4位の大ヒットアルバムである。

   そうか、30年なのか、と改めてしみじみとした感傷に捕らわれてしまった。

  • 「tokyo」(ERJ、アマゾンサイトより)
    「tokyo」(ERJ、アマゾンサイトより)
  • 「tokyo」(ERJ、アマゾンサイトより)

変わり果てた2020の東京

   きっと日本の都市の中で最も歌のテーマになっているのが「東京」と言って間違いないと思う。「花の都・東京」は戦前の歌謡曲から舞台になっている。戦後の焼け野原だった時代には復興の証しとして歌われ、高度経済成長の下では地方都市から上京してくる若者たちの光と影の物語を綴ってきた。

   ただ、渡辺美里の「tokyo」を聞いていて、そんなに古いことを思い出したわけではない。30年前なのだからむしろ最近の部類に入るかもしれない。

   それでいて「隔世」の感があったのは、2020年の東京が、あまりに変わり果てている気がしたからだ。

   渡辺美里の「tokyo」がレコーディングされたのは。1989年11月から90年の4月にかけて。80年代の終わりから90年代の初めに行われている。

   日本の経済が空前の好景気を謳歌している時だ。株価が3万8957円という史上最高値をつけたのが89年12月だった。日本の大手不動産会社がマンハッタンの象徴でもあるロックフェラーセンターを買収したのも89年10月だ。その頃の東京がどうだったか。六本木で捕まらないタクシーを止めるために一万円札をひらひらさせたという話は東京の都市伝説だろう。

   アルバム「tokyo」には、まだその頃の東京の若者たちの機運が生き生きと歌い込まれている。

   アルバムの一曲目が「Power~明日の子供」だ。作曲はtkとしてプロデューサーで一時代を築く直前の小室哲哉、作詞はその曲だけでなく全曲が美里自身である。彼女は1966年生まれ。制作している時は23歳だった。

   「光の子供達はまっすぐに歩いてゆく
明日の子供達はまっすぐに歩いてゆく」

   4曲目の「POSITIVE DANCE」はこうだ。

   「この時代 動かしていくのは
錆びついた 常識や力より
はみだしてる 青春のほうが強いはず」

   渡辺美里は、1985年、18歳でデビューした。デビューした時のキャッチフレーズは「ロックを母乳に育ちました」である。80年代前半にアイドル全盛期を作った松田聖子や中森明菜とは違う同世代感覚。アルバム「tokyo」の中には自分の高校時代のことを歌った「恋するパンクス」もある。高校時代に松田聖子がデビューするきっかけになった集英社の「ミス・セブンティーン・コンテスト」に応募した時に、審査委員からの「好きなアーティストは」と訊かれて「セックスピストルズ」と答えて彼らを絶句させたというエピソードは有名だ。

   70年代には海外の音楽だったロックを10代の女の子たちの音楽として開花させたのが彼女だった。その最初の大輪となったのが、86年の「My Revolution」だったことは言うまでもない。

タケ×モリ プロフィール
タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーティスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。

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