2021年 9月 19日 (日)

厚労省官僚の「疲弊」が限界に達している

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■『ブラック霞が関』(著・千正康裕、新潮社)
■『日本国憲法論 第2版』(著・佐藤幸治、成文堂)

   2013年4月掲載の当コラムは、「『日程国会』でブラック企業並み? 疲弊し辞めていく若手・中堅の苦悩」と題して、過酷なその実態について、『日本の国会』(大山礼子著 岩波書店)などを引きながら論じた。遺憾ながら、状況はますます悪化の一途をたどっている。特に、評者が霞ヶ関の中で、たいへんな状況にあると推察するのが、厚生労働省である。格差社会が問題になる中、厚労省の仕事はますます増大しているし、厚生行政は、地方自治体に仕事を委任しているものも多く、独自性を強める地方自治体との調整も複雑化していると考えられる。厚生労働省で働く方々には、まさにその重要な仕事を担うという強い使命感を感じることが多いが、それも限界に達しているのではないか。

一部の「超人」が組織を引っ張る

   2019年9月30日に18年半勤めた厚生労働省を退官した千正康裕氏が世に問うたのが、『ブラック霞が関』(新潮社 2020年11月)である。「第1章 ブラック企業も真っ青な霞が関の実態~政策の現場で何が起こっているのか~」や「第2章 石を投げれば長期休職者に当たる~壊れていく官僚たちと離職の背景」は衝撃的ではあるが、厚生労働省での労働の過酷な実態をまざまざとあらわしている。また、「第5章『できる上司』と『偉い人』が悩みの種~霞が関の働き方改革の壁~」で、「スーパーサイヤ人ばかりが引っ張る組織」との表現がポイントをついている。「サイヤ人」とは、マンガ『ドラゴンボール』に出てくる、とにかく戦闘能力の高い超人のことだ。24時間365日対応ができる職員が本省の組織を引っぱるため、多様な人材が活躍できないでいる現実を率直に指摘する。しかし、昭和の時代はともかく、平成を経て、令和の時代はダイバーシティ(多様性)が優れた組織のキーワードだ。霞が関のパフォーマンスが下がれば、国民生活にも悪影響を及ぼすのは、コロナ禍の現状をみても明らかだ。第6章は霞が関(行政)への業務改革の提言、第7章は永田町(国会)への改革提言となっている。「神は細部に宿る」とはよく言われるが、現場の実態を踏まえたこまやかな改革が求められている。

NHKでも取り上げられた

   この関連では、11月26日のNHKニュースおはよう日本で「厚生労働省の若手官僚に密着、長時間労働の実態は」が特集された。その後、12月10日には、NHKのウエッブ特集「コロナで激務に ~霞が関の官僚にいま何が~」もアップされて、かなりの反響を呼んでいる。この中で、厚労省の事務方トップの事務次官が取材に対し、「長時間労働が続くと、十分な分析がされないまま政策が立案されていくのではないかということが心配です。今回の新型コロナへの対応を見ても、どういう方針で対応するかが十分にまとめきれず、結果的にほとんど綱渡りになってしまったこともあったと思います。今、厚生労働省が大変な局面にある中で、業務を重点化し、優先順位を見定められるよう管理職のマネジメントを強化しないといけません。若い人の声を聞いて組織の改革に取り組みたいと思います」と発言していることが目を引いた。そして、NHKの取材記者は、「コロナ禍で官僚たちが国民のために集中して働けるよう、霞が関の働き方を根本から見直す必要があると感じます。」という。

大きな「構造改革」が必要だ

   この問題には、現場レベルの改革とともに、大きな「構造改革」も必要だ。平成の時代に、行政改革、司法制度改革が行われたが、国会改革はほとんど進展していない。憲法の碩学佐藤幸治京都大学名誉教授は、本年9月に出版された『日本国憲法論(第2版)』(成文堂)において、あらためて「国会は実質的な議論を行う場というよりも、手続や審議日程が最大の政治的駆け引きの対象となる『日程国会』(それを支える「国対政治」)と称される、世界の主要な立憲主義国では例をみない事態が長く続いてきた」と指摘し、「積極国家化にともなって、現代の議会のなすべき仕事は飛躍的に増大してきている。日本国憲法の基本的発想に沿って国会が期待に応えようとするならば、古い会期制的発想から脱却し、衆議院議員の総選挙の時期を基準とする『立法期』制度の導入に踏み切ることが重要な第一歩となろう」という。加えて、前述の『日本の国会』で大山礼子駒澤大学法学部教授は、「内閣にある程度、国会審議への関与を認め、内閣を矢面に立たせること」が最も重要な改革だとしていた。これらの改革が行われれば、霞が関が不規則な国会業務で疲弊することは大幅に減らせるだろう。

   ミクロの業務改革とともに大きな「構造改革」が、この令和の世に実現することを切に願う。

経済官庁 AK

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