2021年 6月 19日 (土)

壮大な社会実験は世界をどこに導くか

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■『デジタル化する新興国』(著:伊藤亜聖 中公新書)

   2000年代に入ってから、世界のデジタル化は着実に進んできた。インターネット利用者数は、2001年の約5億人から2010年には約20億人、2016年には約35億人。また、携帯電話の加入者数は、2001年の約10億人から2016年には約74億人。おそらく、現在では、世界人口の約5割がインターネットにアクセスでき、ほぼ世界人口と同じくらいの携帯端末が普及しているとみてよいだろう。(数値は総務省「情報通信関連白書(2017)」)

   とりわけ、新興国のデジタル化のスピードはすさまじい。本書によると、2000年のインターネットユーザーの78%がOECD諸国に住んでいたが、2009年にはOECD諸国のユーザーの比率が50%を割り、その後一貫して非OECD諸国のユーザー比率が高まっている。2010年から2017年までに増えたインターネットユーザー16.6億人の89%、14.7億人は非OECD諸国に暮らしているという。

一気に解決される社会の課題

   本書では、新興国に視点をあてて、デジタルの力を活用して課題を解決し新たなサービスが育つ可能性と、デジタル化によりもたらされる労働市場への影響や監視の強化といった脆弱性が、様々な角度から具体的に検討される。著者は中国経済の専門家。広東省深圳市のほか、世界の様々な地域を訪れて、「モバイル・インターネットが生活を塗り替える姿」、「デジタル技術による社会変革」を目の当たりにしたという。

   本書の冒頭では、インドを走る「コネクティッド・三輪バイク」が紹介される。スマートフォンに国際SIMカードを差し込んで、配車アプリを起動して目的地を入力。サービスは、通常のプランのほか、相乗りで割引となるプラン、三輪バイク、二輪バイクなど。目的地に到着するとスマートフォンのアプリを用いてクレジットカードで決済。

   情報通信と携帯端末の普及は、信用を創造するプラットフォームの登場で、新興国が抱えてきた取引相手の信用問題を緩和・解消する。配車アプリでより安全に・安心して車に乗れるのはその一つの例。本書では、他に、プラットフォーム企業が仲介者となって取引を保証すること(エスクローサービス)による電子商取引の普及、銀行口座はもたないが携帯電話をもつ人々が通信会社の口座内にお金を預ける形で広がるモバイルマネーなどが紹介される。

   筆者は、「新興国の強みは最終ユーザーとの接点」にあり、「多数の人口を抱える」ことで、「新たなサービスが育つチャンスがある」という。「デジタル化の時代にあっては、大学の研究室や大企業の研究所における研究開発に加えて、広い社会における導入と実装の現場と回数に注目する必要」があり、新興国は、デジタル経済の「巨大な実験場として機能し始めている」とする。

デジタル化の「いいとこどり」は可能か

   他方、基幹的技術やインフラで先進国企業が優位性を保つなかで新興国企業が先進国企業をどこまで追い上げることができるか、デジタル経済がはたしてどのくらい(質の高い)雇用を生み出すことができるか(雇用について筆者はそれほど悲観していないようだ)といった課題もある。

   また、本書では、2014年から2017年にかけて、政治的自由のスコアが低い国でインターネットを通じた決済の利用が進んでいるデータが示されている。従来、インターネットの普及等が「より豊かで透明性の高い社会」や「国境や検閲のないネットワーク空間」につながるのではないかと期待されてきたところがあるが、最近では「権力側がデジタル技術を活用して社会の関心と世論をつぶさに観測し、管理・統制を強めている」ことが懸念されている。

   デジタル化とこれからの働き方や雇用のあり方、便利さと社会の安全・安定の確保や個人情報保護との関係は、先進国、民主主義国にも通じる問題だ。デジタル化でフェイクニュースが作られやすくなったというような問題もあるが、誰がフェイクと認定するのか話はそれほど簡単でもない。アプリケーションの開発は短い期間で導入・実装が繰り返される。基幹的技術やインフラでの先進国企業や大国間での競争も激しい。見方によっては世界全体で壮大な社会実験を行っているようにもみえる。現在生じている大きな変革にどのように向き合うか。よく考える必要がありそうだが、答えはそう簡単でもなさそうだ。

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