コロナ病床ひっ迫で「野戦病院」作って 武漢は10日で巨大病院できたのだから

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   新型コロナウイルスの感染が急拡大するなかで、医療機関で治療してもらえない感染者が急増している。こうした事態を重く見た人たちの間から、「臨時の医療施設を」「野戦病院を作るべきだ」などの声が上がっている。

   コロナ発生地の中国・武漢ではたちどころに巨大な入院治療施設ができたことはよく知られている。日本は発生から1年半を経過しているにもかかわらず、政府の対応が遅れたままだ。

  • 2020年2月、中国・武漢に完成した火神山医院(写真:ロイター/アフロ)
    2020年2月、中国・武漢に完成した火神山医院(写真:ロイター/アフロ)
  • 2020年2月、中国・武漢に完成した火神山医院(写真:ロイター/アフロ)

体育館や企業の研修施設

   朝日新聞によると、関西経済連合会は2021年8月18日、体育館などを使った臨時の医療施設「野戦病院」を設置すべきだという提言書をまとめた。関経連の松本正義会長が西村康稔・経済再生相に対してオンライン会談で伝え、自治体が施設を設置するための資金の支援も求めたという。

   提言書では、「自宅療養者を減らし、感染初期に抗体カクテル療法を効率的に施す体制を築くことによって、重症化率を下げ、医療崩壊を防ぐことが求められる」と指摘。体育館のほか会議場や展示施設などにベッドや医療機器をそろえ、看護師が常駐する軽症者向けの施設を早急につくるべきだと訴えたている。

   政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長は19日の参院内閣委員会で、「宿泊療養施設や臨時医療施設の増設はぜひやって頂きたい」と述べた。また朝日新聞によると、日本医師会の中川俊男会長も18日の定例記者会見で、大規模イベント会場や体育館を臨時の医療施設として活用することが必要だとの考えを示した。宿泊できる場所ということで、企業の宿泊研修施設なども視野に入れているといい、医師会側は医療従事者の派遣などで協力することを検討しているという。

「搬送困難事案」続出

   デルタ株による感染拡大で、東京都では自宅で療養するコロナ患者が2万人を超えた。中等症でもなかなか入院できない例が増えている。重症者を受け入れる病院はもはやパンク寸前。救急車で運ばれたものの、搬送先が見つからない「搬送困難事案」は8月9日から15日までの間に全国で3361件。この約半数がコロナ患者だという。

   日本では国民皆保険制度で保険料を強制的に徴収され、そこに公費をプラスして、「国民皆医療」が保証される形になっている。ところが、今や保険料を納めているのに、医療機関で診てもらえない人が大量に発生するという異常事態になっている。厚生労働省のウェブサイトでは、国民皆保険制度の特徴として「医療機関を自由に選べる」ことを強調しているが、現状はそうなっていない。

   毎日新聞によると、立憲民主党の枝野幸男代表はすでに8月10日、新型コロナウイルスの感染急拡大で宿泊療養先のホテルが不足している問題に関し、「国有・公有地にプレハブ(宿泊療養施設)を建て、医療従事者に何とか集まってもらうだけでも、自宅訪問するより少ない医療従事者の力で対応できる」と提案している。

   枝野氏は「首都圏などを中心に医療が受けられない状況が現実化しているが、東京で感染者がぐんと増えてからすでに1週間以上たっている」と指摘。病床が逼迫(ひっぱく)する医療機関や自宅療養に代わる受け入れ先を整備するよう、政府に求めたという。

病床2600を急造

   こうした「臨時の医療施設」で、だれもが思い出すのが、中国・武漢につくられた「野戦病院」だ。

   朝日新聞によると、コロナ発生直後の昨年2月、工期10日ほどの「超突貫工事」で約1000床の急増医療施設「火神山医院」が完成、人民解放軍に引き渡された。病院の面積は2.5万平方メートルと東京ドームの半分程度。工場であらかじめつくった部品を組み立てるプレハブ建築だった。

   同市内では同じころ「雷神山医院」(病床数約1600)もつくられ、二つの新設病院の病床数は計約2600。感染拡大を防止した。

   これらの病院建設の背景については、『コロナ後の世界は中国一強か』(花伝社、20年7月刊)が詳しい。著者の矢吹晋さんは横浜市立大名誉教授。中国問題の専門家だ。

   矢吹さんによると、野戦病院には、全国から4万2000人の医療スタッフが動員された。うち3000人が人民解放軍の防疫部隊に属する要員だったという。「事前に用意されたマニュアルなしにはとうてい不可能な突貫工事と動員であり、中国軍の生物兵器作戦に対する警戒心の一端が知られる」と説明している。

   同書によると、武漢郊外では2014年から15年にかけて、旧日本軍が遺棄した化学兵器の廃棄作業が行われていた。『陸軍登戸研究所〈秘密戦〉の世界――風船爆弾・生物兵器・偽札を探る』(明治大学出版会)によると、戦前、日本軍の細菌戦の実験は中国湖南省洞庭湖の西側で行われていたという。

アラートが出ていた

   武漢の「野戦病院」に人民解放軍が深く関わっていたことからも分かるように、非常時における医療体制の構築には、事前の準備や政府の指導力が欠かせない。コロナは1年半前に発生し、何度も緊急事態宣言を繰り返しながら今日に至っている。医療体制の再構築を図るには十分な時間があった。

   とりわけ、デルタ株については、あらかじめ危険性が大々的にアナウンスされていた。インドでまん延し、英国に波及した時から専門家によって、「従来株よりもはるかに強力」というるアラートが発せられていた。しかし、水際作戦をすりぬけ、4月末には日本に侵入。専門家は2~3か月後に急拡大すると心配していたが、いったん第4波が収まったことや、東京五輪が迫っていたことから対応が遅れ、急拡大を招く結果となっている。

   中国・南京では先月、空港勤務者9人にコロナ感染が確認されたが、即座に、市民約900万人に対しPCR検査が約10日間で3回ずつ行われ、約200人の陽性者を特定したという。

   こうした検査の面でも日本は立ち遅れている。新たな変異株として、国際的に関心が高まっているラムダ株に関して、ペルーからの来日者の陽性が判明したにもかかわらず、同便乗客への検査が遅れるという不手際があったことが報じられている。

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