2021年 12月 7日 (火)

きつね丼 平松洋子さんは「しなだれる油揚げ」に豊穣の秋を思う

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   GINZA 11月号の「小さな料理 大きな味」で、平松洋子さんが「きつね丼」の飾らないうまさを、レシピつきで書いている。旨くて巧い、丼も文章もプロの味である。

   短いエッセイは新米の話で始まる。

「ご飯のおいしい季節です。豊穣の秋がやってきた。この当たり前のように繰り返されてきた言葉を口にできることが、こんなにうれしい。ごく普通の日常が巡り来るのはすでにそれ自体がかけがえのない幸せなのだと、去年の春からずっと思ってきた」

   コロナ禍による不自由を託ちながら、程度の差はあれ多くが「当たり前」の貴さを実感したことだろう。平松さんは、田んぼ一面の黄金の実りに思いを馳せて、刈り取った稲を天日干しする「はざかけ」の作業に触れる。陽光と風にさらすことで、モミの水分がほどよく抜け、コメの品質が上がるのだという。

「秋の穫れたてを言祝(ことほ)ぎたくて、新米を研ぐ。まずそのまま炊いて白米を堪能したら、その次に小丼に進みたくなる。また白米に戻るのだけれど、その通過地点に小丼がいてくれるのがうれしい」

   白米、小丼、また白米。自らの意思で挟んだ小丼を、「いてくれる」と表現するあたりが平松さんらしい。小丼を甘辛の味に仕上げると、コメの甘さがぐんと引き立つという。あえて構えず、彼女が手近な材料でさっと作るのが「きつね丼」である。

   きつね蕎麦を引くまでもなく、料理できつねといえば油揚げのこと。残る材料はタマネギと卵だけで、工夫を凝らすまでもないシンプルさが魅力らしい。

  • 冨永はミツバを散らして自作した
    冨永はミツバを散らして自作した
  • 冨永はミツバを散らして自作した

かつ丼の影武者に

   2人分のレシピは以下の通りである。

   (1)だし(2/3カップ)醤油(大さじ1と1/2)酒(同1)みりん(同1/2)砂糖(小さじ1)を小鍋に入れて火にかける

   (2)沸騰したら薄切りのタマネギ(1/2個分)と1センチ角に切った油揚げ(1枚分)を加え中火で煮る。

   (3)味が染みたら溶きほぐした卵(2個分)を回し入れ、全体をごはんにかける。

「甘じょっぱい汁をたっぷり含んでじゅわじゅわのスポンジになった油揚げが、炊きたてのご飯にしなだれかかる。黄色の卵のなかで、そっと巣ごもり」

   これを食すたび、平松さんはいつも同じ思いに至るそうだ。「かつ丼に似ている」と。新米の季節だけでなく年中、「かつ丼欲がむくむくと浮上したとき」も、きつね丼の世話になっているという。

「黄色い小丼は明るい月を映すかのようだ。チョイと唐辛子をふりかけると、にぎやかな秋祭りもやってくる。秋風の吹き渡る田んぼいちめん、どっさり刈り取った稲を乾かす『はざかけ』の風景の美しさを思いながら、今宵はきつね丼」

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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