【書評ウォッチ】サビ残なくせば500万人分の雇用創出 「過労死」が告発するもの

   ブラック企業だけではない労働過重の問題を考えた本が文庫化された。『過労死は何を告発しているか』(森岡孝二著、岩波現代文庫)は、働きすぎのメカニズムや会社のあり方を追究する。サービス残業をなくせば500万人分の雇用が生まれるとも試算。アベノミクスの成長戦略とは反対の方向から働き方を見つめ直す問題提起に、聞く価値がありそうだ。【2014年1月26日(日)の各紙からⅡ】

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ブラック企業以外にも


『過労死は何を告発しているか』(森岡孝二著、岩波現代文庫)

   日本のでは労働時間が守られているはずだ。そう思ったら大間違え。「1週間について40時間、1日について8時間を超えて労働させてはいけない」(労働基準法32条)とされてはいるが、これを尻抜けにする悪名高い条文(36条)もある。

   労使が書面による協定を結んで労働基準監督署に届け出れば、時間外でも休日でも労働させることができる。三六(さぶろく)協定と呼ばれ、おかげでこの国の労働時間は事実上あってないようなものだ。

   本は、情報公開訴訟で明らかになった企業いくつかの実例をあげている。1日15時間、1カ月160時間、3カ月で400時間の延長がそれぞれ可能な企業、中には1年で1600時間も延長できる会社も。どれも札つきのブラック企業とはされていない大会社ばかりだというのだから、その根は深い。

過労死対策は雇用対策

   もう一つの問題は、残業代がごまかされるサービス残業。これには公式の統計がない。経済学者で大阪過労死問題連絡会会長の著者は、日本全体のサービス残業を2012年で107億7004万時間と推計。こんなことは止めて正常な雇用で補ってはどうかというのは、過労死対策が雇用対策につながる一石二鳥の面があるからだ。

   アベノミクスにのって解雇規制がなし崩しにされそうな気配の中、「ちょっと待てよ」と声をあげた本でもある。「規制が必要なのはむしろ当然。著者の熱い想いが伝わってくる一冊」と、毎日新聞読書面の評者・中村達也さんも指摘している。

   『ホームレス歌人のいた冬』(三山喬著、文春文庫)が読売新聞に小さく。朝日新聞の歌壇ページに「ホームレス 公田耕一」と名乗る人の歌が載った。9カ月間に28首。大反響をよんだが、新聞紙上の呼びかけや雑誌記者の追いかけにもかかわらず投稿は途絶えた。

   本は元朝日記者の著者が探し歩いた記録だが、追跡だけでなく自身の思いが投影された内容だ。「写楽のように消えた」公田さんは、どこへ行ったのだろうか。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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