【次の百年に踏み出した宝塚歌劇(2)】「星担」「雪担」って? 一部ファンの掌中から羽ばたくか

   昨年百周年を迎えた宝塚歌劇。5月には「NHKスペシャル」が特集を組んだ。「トップスター」を切り口に、ファンが熱狂する理由をひも解こうという内容で、ファンにはおおむね好評だった。番組では記念すべき年の元日の宝塚を切り取って楽屋口の光景が流れた。トップスターが到着し集まったファンの前に立つと、「せーの」の掛け声とともに「あけまして、初日、おめでとうございます。行ってらっしゃーい」と声がそろう。トップスターはそれを受けて「行ってきまーす」と返すと、手をふりながら楽屋に消えて行った。いわゆる「入り待ち」の風景である。

   生徒(劇団員)たちの楽屋の出入りを待って送り迎えをする「出待ち」「入り待ち」は宝塚ではごく日常の風景だ。ほかに「お稽古待ち」(宝塚ではいろいろなものに"お"が付く。お衣裳、お手紙...など)というのもある。雨の日も風の日も寒い日も暑い日も、ファンはタカラジェンヌとの一瞬のふれあいのために楽屋口に集まる。これを仕切るのは生徒たちの個人的なファンクラブだ。出待ち入り待ちのシステムやルールは東西によって、あるいは組によっても多少違うが、これも長い年月をかけてファンたちの手によって自主的に整えられてきた。

楽屋の出入りを待って送り迎えをする「出待ち」「入り待ち」はごく日常の風景
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「ファンクラブ」の存在感

   ファンクラブは「個人的」であって、劇団などが運営する公式のものではない。しかし、劇場を訪れてみれば、その存在感は圧倒的だ。多いところでは1000人を超すといわれる規模の組織をとりまとめ、チケットの手配や「お茶会」(生徒とファンの交流会)の開催までを行う。それは、少人数の強力なリーダーシップだけで成り立っているのではない。ファンの一人ひとりが、求められるマナーを理解しているからこそファンクラブが成立し、それが伝統となってファンの間の秩序が維持されている。

   時代とともにファンクラブのあり方は変わってきてはいるが、すべては応援している生徒のため、というのが基本であることは変わらない。ある卒業生(OG)が、「待たないでください、といえば、一人も待っていない。お行儀がいいんです」と話していた。

珍しくなくなった男性客の姿

   応援する対象は一人に絞られることが多く、観劇は贔屓の生徒が所属するひとつの組が中心となりがちだ。ファンたちはそれが星組なら「星担(ほしたん)」、雪組なら「雪担」と呼ぶことがあり、その〝担当〟を通じて、仲間意識で結ばれていく。そこには年齢の壁もないし、意外なことに、男女の壁もないのである。もちろん、贔屓を持たず全組の公演を楽しむファンも少なからずいる。

   宝塚の観客の90%は女性といわれるが、最近は男性客の姿もよくみかけるようになった。以前のように、彼女に無理矢理連れてこられたという感じではなく、一人で熱心に見ている男性や、グループで観劇している男子学生などもいる。公式グッズを販売する「キャトルレーヴ」でブロマイドを選んでいる若い男性を見かけることも増えた。彼らのほとんどが娘役のファンであるのは当然といえば当然か。

   一部ファンの掌中の玉のようだった宝塚だが、その窓は少しずつ開いているようにみえる。

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