国際的共闘&分業の扉を開けよ 鍵は「知財マネジメント」

■「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか 画期的な新製品が惨敗する理由」(妹尾堅一郎著、ダイヤモンド社)

   少し前のことになるが、タイトルが刺激的であり、また、「知財」に興味があったこともあり、思わず本書を手に取った。本書の問題意識は大きく二つである。一つは(タイトルのとおり)「日本には技術力があるのに、事業で勝てない」こと。技術で勝っても事業で負ける。技術で勝って、知財権(特許等)をとっても、事業で負ける。技術で勝って、国際標準をとっても、事業で負ける。なぜ日本企業は勝てないのか、ということである。もう一つは、主に日本の製造業の産業競争力の崩壊である。液晶パネル、DVDプレイヤー、太陽光発電のセル、カーナビといった商品は、いずれも当初は日本の製品が市場を席巻するものの、市場規模の拡大と軌を一にして日本のシェアが急落している。何が起きているのか、どうすれば良いのか、ということである。

「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか 画期的な新製品が惨敗する理由」
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欧米企業とNIEsやBRICsによる巧みな「からくり」

   著者は、国際市場における大量普及と日本のシェアの正反対の関係の裏には、欧米企業とNIEs(Newly Industrializing Economies=新興工業経済地域)やBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5か国)といった地域や国々の企業との巧みな協調関係を通じた「からくり」があると指摘する。すなわち、単なる技術力だけではなく、協業的な協調力がないと現在の競争には勝てず、この協調力の欠如こそが日本が「技術で勝って、事業で負ける」パターンに陥ってしまった理由であるとする。ではどうすれば良いのか。著者の結論は、研究開発戦略と知財戦略と事業戦略の「三位一体」の事業経営こそが「勝利の方程式」であり、それが上手く行えなかったときには「惨敗の方程式」が待っているとする。

   本書は、この「勝利の方程式」の理解のために、まず、イノベーションの概念や考え方を整理する。経済学者のシュンペーターが提唱したイノベーションとは、「新結合」の概念を軸に、①新しい財貨の生産、②新しい生産方法の導入、③新しい販売先の開拓、④新しい仕入先の獲得、⑤新しい組織の実現(独占の形成やその打破)――といった5つのポイントを示したものであった。著者は、日本の製造業は、特にプロセスイノベーション(上記②の新しい生産方法の導入に該当)とプロセスインプルーブメント(「カイゼン」活動に代表される斬新的な改善)の両輪に加え、日本企業間の切磋琢磨を通じ、1970年代、80年代の世界市場を席巻したが、その後の貿易摩擦や現地生産へのシフトをきっかけにイノベーションのモデル自体が欧米ではすでに新しいモデルに移行してしまっているとする。具体的には、「垂直対水平」、「インテグラル対モジュラー」、「クローズ対オープン」といった概念を通じて現在のモデルを俯瞰し、具体的な成功事例としてアップルやインテルの戦略について議論する。

アップルやインテルの成功の本質

   著者は、アップルやインテルの成功の本質は、国際的な「イノベーション共闘」であるとする。日本のかつての成功モデルとの大きな違いは、当初は「プレミアム品」である「新製品」を、国際分業を通じて一気に世界市場に普及させる「ディフュージョン」のプロセスを経て社会全体への新しい価値をもたらした点であり、また、この「ディフュージョン」を「自前」ではなく、国際的な共闘と分業を通じて一気に行う点である。そして、この共闘や分業を優位に進める鍵が標準化をはじめとする「知財マネジメント」なのであるが、筆者は、日本で「知財マネジメント」と言うといまだに良い技術について「単に知財権を取得すれば済むという風潮」が残っており、「知財マネジメント」の役割等が整理・理解されていない現状を憂慮するとともに、今後の「知財マネジメント」のあるべき姿を提示する。

   90年代以降の世界をリードした経営者の一人であるIBMのサミュエル・パルミサーノ会長は、「ゲームのルールを変えたものだけが勝つ」と言い続けてきた。日本企業の「惨敗の方程式」は、別の言い方をすれば、新しくなってしまったゲームに旧態依然の戦い方で挑んでいるだけかもしれない。逆に、ゲームのルールを変えれば良いというものでもない。新しいゲームは、多くの人が参加し、楽しんでくれるものでなければ定着しない。この点、インテルやアップルの仕掛けた新しいゲームは、その商品の良さに加え、国際共闘・国際分業を通じて多くの人を楽しませてきたのだろう。日本企業もいつまでも負けているわけにはいかない。まずは今のゲームを理解し、「反撃」に向けた取組に期待したい。

銀ベイビー 経済官庁 Ⅰ種

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