アップル「寝ていてももうかる」に微妙な風 iPhone SE3中国で「酷評」

   ファーウェイが米政府の規制で身動きが取れなくなり、「寝ていてももうかる」と中国で揶揄(やゆ)されているのがアップルだ。ハイエンドセグメントでは独り勝ちとなり、今月発売した第3世代の「iPhone SE」(以下SE3)は、シャオミやOPPO、vivoなど中国勢が強いミドルエンドに攻勢をかけるキラー端末とみなされている。

   2022年3月18日に発売されるSE3の主要なアップグレードは2点。端末の処理能力に関わるチップが、上級モデルの「iPhone 13」と同じ「A15 Bionicチップ」に格上げされた。5G(第5世代移動通信システム)に対応し、より高速な回線を利用できるようになった。

   コロナ禍で5Gが一気に普及した中国では、日本以上に5G対応の有無がスマホの評価を左右する。アップルは、2021年秋に発売したiPhone13で5Gに対応、大ヒットしたことを念頭に、64GB モデル・3499元(約6万4000円)から購入できるSE3を「最も安価な5G対応iPhone」と売り込んでいる。

   しかし、2つのアップグレードは事前リークで既に織り込まれており、それ以外の大きなサプライズがなかった。このことから、SE3は「新しい酒袋に古い酒を入れただけ」「iPhoneの下位互換」と厳しい反応が多い。

3月8日、アップルが新製品発表会で新型「iPhone SE」など発表(提供:Brooks Kraft/Apple Inc/AFP/アフロ)
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ファーウェイが失ったシェア奪う

   新しもの好き、ブランド好きの多い中国で、イノベーションの象徴であるiPhoneは長らく圧倒的な地位を維持していた。2014年発表のiPhone6は中国市場での発売日が遅れたことから、米国やオーストラリア、日本の店舗に中国人が長蛇の列を作った。しかしその後はファーウェイを筆頭に中国メーカーが台頭。風向きの微妙な変化を読めなかったアップルは2018年秋に10万円超えのiPhone Xを発売し、中国人に「高すぎる」とそっぽを向かれ、アンドロイド端末へ乗り換えるきっかけをつくってしまった。

   アップルはこの数年、ハイエンド端末でファーウェイとつばぜり合いを繰り広げて来た。だが、ファーウェイが米政府の規制で2021年以降急激にシェアを落とすと、独り勝ちの状況に。シャオミやOPPOなど中国メーカーもハイエンド端末に力を入れているが、今のところアップルの敵ではない。昨年秋に発売したiPhone 13も中国市場で販売を伸ばし、2021年第4四半期にはファーウェイが失ったシェアの多くを奪い取った。


2020年、2021年の第4四半期(10-12月)の中国でのスマホ市場シェアの推移。iPhone13の売れ行き好調で、アップルの独り勝ちが際立つ(出典: https://www.counterpointresearch.com/apple-reaches-highest-ever-market-share-china/)

2020年、2021年通年のシェアの推移(出典: https://www.counterpointresearch.com/apple-reaches-highest-ever-market-share-china/)

「見栄っ張り」は変わらない

   ファーウェイというライバルが消えたアップルは、シャオミやOPPOの勢いをそぐことに力を割けるようになった。2年ぶりとなるiPhone SEのアップグレードは、中国メーカーの牙城であるミドルエンドを侵攻する戦略的端末だとみられてきた。

   だからこそ、SE3の価格がSE2より200元高い3499元~(約6万4000円)と発表されると、消費者は落胆した。SE3は3000元を切る価格で勝負に出るとの期待が膨らんでおり、そういったリークも多かったからだ。

   今のところ、SE3については機能、価格の両方で「期待外れ」との声が大きい。ただ、iPhone X以降、中国では目新しさに乏しくても価格が安い方が結果的に売れている。SE3は確かに期待ほど安くならなかったが、2021年9月に発表されたiPhone13 mini(発売時定価5199元~)、iPhone 13(同5999元~)に比べると、2000元(約3万7000円)前後抑えられている。

   中国の若者は「体験やイノベーションを重視する」「個性を表現したい」と分析されているが、「見栄っ張り」「人気のある物が好き」という国民性も簡単には変わらない。結局のところは、ブランド力のあるアップルにとって、「手ごろな価格+5G」を両立させたSE3は、ミドルエンドの中国勢に対抗するための最適解であり、かなりヒットするのではないだろうか。

【連載】浦上早苗の「試験に出ない中国事情」

浦上早苗
経済ジャーナリスト、法政大学MBA兼任教員。福岡市出身。近著に「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。「中国」は大きすぎて、何をどう切り取っても「一面しか書いてない」と言われますが、そもそも一人で全俯瞰できる代物ではないのは重々承知の上で、中国と接点のある人たちが「ああ、分かる」と共感できるような「一面」「一片」を集めるよう心がけています。
Twitter:https://twitter.com/sanadi37

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