「野菜の日」にフードロス削減考える 規格外品活用した極薄の野菜シート

   SDGs17の目標でもあり、世界各国が解決に向けて取り組んでいるフードロスの問題。環境省「食品ロスポータルサイト」によると日本国内では、家庭や事業者において、2019年に年間およそ570万トンの食料品廃棄が発生したと推計されている。さらに、この値に計上されていない規格外の野菜や果物の廃棄があるという。穀物であれば備蓄もできるが、野菜などの生鮮食品は長期保存が難しいため、廃棄せざるをえないのだ。

   J-CASTトレンドは、フードロスの削減を20年以上も前から取り組んでいるアイル(長崎県平戸市)の早田圭介氏を取材、詳細を聞いた。早田氏は、フードロスを解決する一助になると国内外から注目されている「VEGHEET(ベジート)」を手掛けている。

カラフルなべジートは巻いたり、はさんだり、トッピングにしたり。乳児の離乳食や嚥下困難なシニアの食事にも利用できる
にんじんやだいこん、かぼちゃ、トマトなどさまざまな野菜を使った野菜シート「べジート」
べジートの製造風景
アイル代表取締役・早田圭介氏
べジートは最長5年の賞味期限で防災食にも活用されている
栄養素一覧
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地元のために考案

   早田氏はかつて、野村証券の同期入社の中でトップセールスの営業パーソンだった。しかし平戸市で食品卸売業を営んでいた父が病気になり、1993年、28歳の時に家業を継ぐために会社を辞め地元へ戻った。

   まず、半年かけて役所で地元平戸市のデータを集めた。当時はインターネット普及前だ。家業を継ぐにあたり、高校を卒業すると県外へ出ていく人が多く18歳~25歳までの若い世代が少ない半面、35歳からは平戸に戻ってきた人たちで人口が増えると分かった。しかし働き口がないので、再度去っていく構造も同時に見えた。

   また地元では農業や漁業といった第一次産業は強いが、製造業が圧倒的に弱い。早田氏は、「一次産業と製造業を掛け合わせれば、地元で働き口が増えて人が戻ってくる。消費も増えるのではないか」と考え、食品製造会社を地元で創業する目標を立てた。

   そこで家業を立て直しながら北海道から沖縄まで、画期的な食品の技術調査に赴いた。1998年に出会ったのが、熊本の海苔(のり)メーカーが作る、「ベジート」の先駆けとも言える野菜シートだ。野菜シートを作る海苔の製造機械は3000台あるが、4月~9月のオフシーズンは使われていなかった。

   食感こそ改良の余地があったが、(1)栄養価をそのまま残しながら野菜を長期保存できる、(2)カラフルで食卓を彩る食材、(3)海苔の不作で苦しむ生産者の救世主になる可能がある、といった点が画期的だと思った。そのうえ、多額の設備投資をせずに製造できる。「すごいビジネスモデルが構築できる」と思い「震える程の衝撃を受けた」と早田氏は振り返る。そして海苔メーカーが中心となって設立した会社に出資。自ら取締役となり、仕入れと販売を担当した。

   ある日、仕入れのため長崎のニンジン生産者の畑に行くと、収穫後にもかかわらず、一面がオレンジ色。聞くと、市場や農協で受け取ってくれない規格外ニンジンだと言われた。「何てもったいない」。早田氏は、こうした畑で捨てられている野菜を活用できないか農家に相談し、ベジートへの利用につなげる。これが、結果的にフードロスの解決に結びついた。

   実は「ベジート」の前は、「野菜のり」との名称だった。だが「野菜のり」だと、当初は実際の海苔の4倍ほどの価格だったので必ず比較され、「高い」と言われ続けた。そこで、「海苔ではなく、あくまで野菜をシート状にした世界初の食材」として販売しようと、2017年に商品名を変更。19年には商標登録した。

栄養成分を損なわずに野菜を有効活用

   早田氏が野菜シートと出会った当時は、1週間程度で変色するため、アルミ包材を使用しなければならなかった。また、紙を食べているような食感で、2002年に10万パックを売り上げるもリピート購買がなかったという。

   2004年、原価を安くする目的で中国に工場を建設した直後に海苔業者が倒産。早田氏は製造技術もノウハウも無いまま引き継いだ。長崎県内の短期大学と共同研究を実施し、食感の改良に成功。事業化が見え、2006年に「アイル」を設立した。

   その後、数回の資金調達に成功するのと合わせて、設備を拡充し新工場で量産体制を確立。ベジート自体も、海外の展示会に出品して「環境に配慮した商品」と高い評価を受けた。2018年には、イトーヨーカドー全店での販売を開始。22年2月にはくら寿司や、「デパ地下」で総菜を販売する「RF1」の恵方巻きに採用され、4月からはダイソーでの取扱いが始まるなど広がりを見せている。年内にはインドネシアに工場を建設予定で、いずれは海外での販売が7割を超えるような計画を立てているという。

   「ベジート」の原材料は野菜と寒天のみで、保存料や着色料は加えていない。賞味期限は常温で最長5年。栄養成分や食物繊維を損なわずに、体積と重量をそれぞれ10分の1以下にできる。しかも、物流コストを安く抑えられる。

   早田氏によると、野菜の種類によるが、生産される野菜全体の30%程度が規格外となっているという。2050年には世界の人口が100億人になり、食糧危機が具体的な問題になると言われている。規格外の野菜が「ベジート」として、将来世界の栄養源になりうる可能性がある。

(ライター・永井 玲子)

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