「食べられないコメ」がマットレスに変身 CO2抑制に寄与する素材開発

   各地の米どころから新米が出荷されている。既に新米を食べた人も多いのではないだろうか。

   福岡県大川市の家具メーカー・モーブルは、食用に適さない古米や米菓メーカーなどで発生する破砕米、 飼料としても処理されない非食用米を使ってマットレスを開発している。モーブル商品企画プロモーション部の丸山大稀氏を取材した。

完成したコメ由来のRICEWAVE。お米由来の素材を使うことにより焦げやすく、開発に苦労したという
ライトウェーブの製造工程。特殊な製造方法により洗えてヘタリにくい特徴がある
構想に1年かけて実用。うなぎの遡上(そじょう)を助けるお米由来の「魚道」
Read more...

メーカーの責任として環境負荷少ない素材に

   モーブルは「LITEWAVE(ライトウェーブ)」という、蒸れにくく通気性に優れた同社独自の素材を持つ。ライトウェーブには「洗える、消毒できる」「ヘタリにくい」「通気性・保温性」などの特徴があり、スポーツシーンやホテル、グランピング施設や保育園など、様々な用途やシーンで採用されているという。

   代表の坂田道亮氏は、趣味のトライアスロンでパフォーマンスを上げるには睡眠が大事だと実感したことから、マットレス発売を検討した。しかしライトウェーブは、100%石油由来の樹脂だ。焼却処分の際、二酸化炭素(CO2)が発生するという問題がある。

   メーカーとして、ライトウェーブを販売し続けていくのであれば、より環境に負荷をかけない自然素材を使った商品に昇華させたい思いが、代表の坂田氏にはあった。

   植物などの再生可能な有機資源を原料に作られたプラスチック材料「バイオマスプラスチック」は、焼却時は同様にCO2が発生するが、原料となる植物の光合成で同じ量のCO2が吸収され、排出量と吸収量の総量はプラスマイナスゼロとなる。近年、気候変動問題の要因でもあるCO2の増加を抑制する材料として注目されている素材だという。

   坂田氏は2018年、ブラジル産のさとうきび由来のバイオマスプラスチックに出会った。マットレスの製造過程で、これを石油の代わりの原料にできないか試作した。 しかし、商品化には至らなかった。

配合比率25%を目指す

   その後、国内で廃棄されてしまう古米や破砕米を使った「ライスレジン」というバイオマスプラスチックがあると知り、商品化の試作を行った。しかしコメ由来なので、配合比率を上げると焦げやすかったり、がちがちに固まってクッション性が損なわれるという問題があった。配合の調整に半年近く費やし、やっと10%ライスレジンを使ったクッション材を作ることに成功。コメをつかったライトウェーブは、「RICEWAVE(ライスウェーブ)」と名付けられた。

   このライスウェーブを使った一般向け商品として、2つ折りクッションを2022年6月に発売。モーブルでは今後、マットレスやソファの商品化や、配合比率を25%まで上げることを目指し、現在も試作を続けているという。

   こんな事例も生まれた。静岡県浜松市の漁協で、うなぎの遡上の補助「魚道」にライスウェーブが応用されたのだ。従来は、魚道に人工芝を使っていたため海中へのマイクロプラスチックによる汚染が懸念されていた。そこで、お米由来の素材を使いたいとライスウェーブに白羽の矢が立ったのだという。モーブルが浜名湖養魚漁協協同組合と連携し、構想に1年かけて実用化した。

   難点は、通常の樹脂材料と比較すると材料費用が高くなること。「一般顧客に受け入れてもらいやすい価格に抑えていきながら、環境への取り組みを引き続き伝えていく企業努力が必要」だと、丸山氏は言う。

   「ライスウェーブを作っている工場では、ポン菓子をつくっている時のようないい香りがする」と丸山氏。ぜひお米の香りに包まれるマットレスを使い、環境問題を考えてみてはどうだろう。

(ライター・永井 玲子)

注目情報

PR
追悼