2024年 3月 19日 (火)

新聞記者は会社官僚制の中で埋没 だから新しいニーズを掬えない
(連載「新聞崩壊」第9回/新聞研究者・林香里さんに聞く)

来店不要なのでコロナ禍でも安心!顧客満足度1位のサービスとは?

   日本の新聞記者は担当部署が2、3年で変わり、専門記者が育たないとよく言われる。その一方で、「地域の問題など身近な話題もカバーしきれていない」という批判も根強い。ロイター通信で記者経験がある東京大学大学院・情報学環准教授の林香里さんに、望ましい「新聞記者像」について聞いた。

――林さんは、新聞社が「身近な話題を取り上げること」の重要性を強調しています。

    800万とか1000万部を発行するマンモス全国紙は、組織化されていないニーズを掬(すく)いきれていません。しかし、社会が複雑化、細分化している現代では、組織や制度からこぼれ落ちてしまう部分が多く、その部分にこそ多くの問題が生じているように思います。生活世界における子育てや介護学校の中の問題なども、実際そういうところが多いように思います
   もう何十年も政党政治は形骸化していて、労働組合もダメだ、となると、だれが社会のさまざまなニーズを掬い上げるか。そこにはメディアの役割があると思うのですが、現実はなかなかそううまくいかない。むしろ、マスメディアは、何か大きな事件が起きると、ワーッといっせいにその方向に流れていってしまう。「マイノリティの問題を探し出す」とかなんとか言っているどころじゃないのが現実みたいですね。

多くの記者は、「認められないネタは、やらない方がいい」

「おもしろいジャーナリズムを目指すなら、小さくなって、とんがって出直すという選択肢もあるのではないか」と語る東京大学大学院・情報学環准教授の林香里さん
「おもしろいジャーナリズムを目指すなら、小さくなって、とんがって出直すという選択肢もあるのではないか」と語る東京大学大学院・情報学環准教授の林香里さん

――新聞は、掬いきれていないことが多い、ということですね?

   新聞で取り上げられると、「新聞が取り上げてくれた!」と喜ぶ当事者はまだまだ多いわけですが、裏をかえせば、普段は目を向けてもらえていない、光の当たっていない問題が多いということです。困難な難病治療、複雑な家庭事情、不公正な労働条件、先の見えない介護労働などなど。たくさんありますよね。新聞については、投書欄もバイアスがかかっている感じがするし。結局、一般読者は新聞に自分たちの存在を認知してもらいにくいことにフラストレーションがたまっている。新聞は規模が大きすぎて、どこか「新聞メタボ」で市民生活に鈍感な状態におちいっているのではないでしょうか。

――新聞は政治・経済に偏りがちで、その狭間を拾うのは不得手。何故そういうことが起こるのでしょうか。

   トヨタのニュースであれば「トヨタを取材する」正当性(大義名分)の元に取材ができるし、麻生内閣も「支持率が落ちた」となれば、それだけで正当性ができて、すぐに取材ができる。記者クラブもある。ですが、まったく新しいニーズというのは、会社の中では「何故それが大事か」を、まず説明しないといけない。新聞社自体が大きな官僚機構ですから。そうなると、初動にすごいエネルギーが必要になります。多くの記者は、「認められないネタは、やらない方がいい」と、危ない橋を渡らなくなってしまう。外から見ていると、そういう悪循環のシステムができあがってしまったように思えますね。記者一人一人の責任や能力の問題というよりは、記者が巨大システムの中で埋没してしまって自分の意志をもてなくなっている。みんな忙しくて、目先のことに囚われてしまっている。いまはある意味で日本全体がそんな状態かもしれません。でも、記者という仕事は、必ず心のどこかに「余白」を残しておかないと、他人の痛みを感じ取ることができないのではないでしょうか。記者が会社員と違うのは、そういう種類の感受性を要求される仕事だということもあると思います。

――「新しいニーズ」のひとつが、インターネットだと思うのですが、新聞社の中では「ネットは悪の巣窟」のように思われているらしい。

   本当にイヤだと思うのは、ネットに対する固定的偏見です。ネットにも変なのはありますけど、それを言うなら「マスメディアにも変なのあるでしょ?」って思います。沢山の人が「ネットの弊害が…」みたいなことを言ってきますが、私はそういう単純な図式は絶対に認めたくない。ネットを排除したり、媒体に序列をつけたりすることは、マスメディア側にも百害あって一利なし、です。

――記者が専門性を持つべきだという議論についてはどう思いますか。

   どの世界にも最低限の知識やスキルは必要ですが、新聞社の場合、ジェネラリストが多すぎるのではないでしょうか。記者さんと仲良くなって「一緒に問題考えようよ」って思っても、2-3年経つとすぐに異動してしまう。もちろん、定期的にローテーションする人がいてもいいとは思うんですけど、情報を扱う企業としては、専門性にも配慮した方がいいですよね。「いまの時代、どんな読み物にもしっかりとした専門性がないと、なんかつまんないですよね。
姉妹サイト

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中