2024年 4月 26日 (金)

B787で発火したリチウムイオン電池 トヨタはHV搭載に慎重だった

   最新鋭中型旅客機のボーイング787型機のバッテリーから発火する事故が相次いでいる問題で、2013年1月16日(米国時間)、米国連邦航空局(FAA)がバッテリーシステムの改修が完了するまでB787型機の運航を禁止する緊急耐空性改善命令(AD)を出した。これを受け、日本の国土交通省も1月17日に日本航空(JAL)と全日空(ANA)に対して同様の指示をした。

   787のバッテリーは、民間航空機としては初めてリチウムイオン電池を採用している。リチウムイオン電池は発火性の高い材料を使っているため、自動車業界では導入に慎重な姿勢も出ていた。

FAAの運航禁止指示は34年ぶり

米ボストン空港でトラブルを起こしたJAL機に搭載されていたリチウムイオン電池。黒く焼損していることがわかる(米国家運輸安全委員会、NTSBウェブサイトから)
米ボストン空港でトラブルを起こしたJAL機に搭載されていたリチウムイオン電池。黒く焼損していることがわかる(米国家運輸安全委員会、NTSBウェブサイトから)

   FAAがこうした形で運航禁止の指示を出すのは1979年のDC-10型機以来約34年ぶり。

   DC-10に対する指示は、米アメリカン航空機が米シカゴ・オヘア国際空港を離陸直後にエンジンが脱落して墜落し、乗員・乗客271名と地上にいた2名が死亡した事故を受けてのもの。この時は、エンジンと主翼をつなぐパイロンと呼ばれる部分の不具合が原因だったが、今回の指示はバッテリーの不具合に関するものだ。ADでは、バッテリーの不具合が解消されない場合、「基幹システムや構造にダメージを与え、電気機器室で火災が起こる可能性もある」と警告している。発火の原因は、現時点でも調査中だ。

ニッカド電池に比べて半分のスペースで済む

   787では、777型機のような従来の機体では油圧や空気圧で動かしてきた機器の多くを電気で動かすため、電力の使用量が大幅に増加している。このことを背景に、従来機ではニッケルカドミウム(ニッカド)電池を採用してきたが、787では民間航空機としては初めてリチウムイオン電池を採用した。このリチウムイオン電池を製造したのは、日本のジーエス・ユアサコーポレーション(GSユアサ、京都市)。GSユアサ社は05年の段階で仏タレス社を通じて787向けにリチウムイオン電池を供給することが決まっていた。

   当時のGSユアサの発表では、(1)ニッカド電池に比べてエネルギー密度が2倍あり、同じ寸法であれば2倍の電力を供給できる(2)75分間で90%充電が可能(3)管理装置を搭載し、二重の安全性を保証している(4)角形密閉(メンテナンスフリー)構造で航空機の通常の使用環境よりもはるかに厳しい環境にも耐える設計となっている、といった点をアピール。まさに「小さいスペースで多くの電力が供給できる」という点が787の特性とマッチした形だ。

   だが、リチウムイオン電池には、材料として使われている有機溶媒に発火性があるという問題点が指摘されてきた。

米国では「シボレー・ボルト」で発火のおそれ

   こうしたことから、自動車業界では導入に対応が分かれれていた。

   09年夏に発売された三菱自動車の電気自動車(EV)「i-MiEv」(アイミーブ)や、11年春に発売されたホンダのシビックハイブリッド(3代目)にはGSユアサ製のリチウムイオン電池を搭載した。日産も、10年に発売したEV「リーフ」に、NECと共同開発したリチウムイオン電池を採用している。

   ただ、ハイブリッド(HV)車の分野で先行してきたトヨタ自動車は慎重だった。リチウムイオン電池の開発は自体は、かなり早い時期から行っており、02年発売のガソリンエンジン車、ヴィッツ「インテリジェントパッケージ」には、エンジン停止時にエアコンを動かすためのバッテリーとしてリチウムイオン電池が搭載されていた。だが、量販ハイブリッド車に搭載されたのは10年近く後の11年5月に発売された「プリウスα」。かなり「後発組」だと言える。コスト面や安全面から、HV車にはリチウムイオン電池を避けてニッケル水素電池を長く採用してきたとみられている。

   米国でもリスクが指摘されている。12年1月には、米ゼネラル・モーターズ(GM)のプラグインHV車「シボレー・ボルト」に搭載したリチウムイオン電池(韓国LG)に発火のおそれがあるとして、自主改修を発表している。

   なお、富士経済の12年の予測によると、車載用バッテリーの生産が伸びるとみられていることから、リチウムイオン電池の市場は16年には10年比2.7倍の2兆4028億円に大きく成長すると見込まれていた。

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