2024年 4月 19日 (金)

「日本国債暴落」への引き金ひくのか 消費増税「再延期」の本当の影響

   日本の格付け会社の格付投資情報センター(R&I)が、日本国債の信用度を示す格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に変更した。

   安倍晋三首相が10%への消費税率の引き上げを再延期すると表明したことを受けての判断で、財政健全化に有効な手立てを打ち出さない限り「格下げは避けられない」と言及。厳しく評価したようにもみられる。懸念される国債暴落はあるのか、ないのか――。

  • 消費増税の再延期でも、日本国債は暴落しない!?
    消費増税の再延期でも、日本国債は暴落しない!?
  • 消費増税の再延期でも、日本国債は暴落しない!?

格付けは、いずれも「据え置き」に

   安倍晋三首相が2017年4月に予定していた消費税率の10%引き上げを、2年半再延期すると、16年6月1日に正式に表明したことを受けて、国内外の格付け会社はそれぞれ見解を示した。

   米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は同日付で、「日本国債の格付け評価への影響はないと判断している」との見解を公表。増税時期を先送りしたとはいえ、安倍首相は2019年10月に消費税を引き上げる意向で、「財政再建に向けた決意が後退するとは考えていない」と指摘。日本国債の格付けを、上から5番目の「Aプラス」、中期的な見通しは「安定的」に据え置いた。

   一方、米ムーディーズ・インベスターズ・サービスは2日付で、「信用評価上ネガティブ(弱含み)」との見解を示した。「増税延期と財政出動の組み合わせは、政府の財政再建の目標達成に向けた能力と意思に対する疑念をさらに強める」と、日本国債の格付けを評価するうえで「マイナスの要因になる」としたものの、格付けは上から5番目の「A1」のままだ。

   また、英米系のフィッチ・レーティングスも「財政再建の政治的公約の信頼性を損なう」と警告するにとどまっている。

前回の延期の格付けへの影響は

   そうしたなか、格付投資情報センター(R&I)は6月6日、日本国債の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に引き下げた。消費増税の再延期で「財政再建の先行き不透明感が高まった」と判断した。

   今回、格付け会社が格付けの見通しを変更したのは初めて。R&Iは、「当面の国債消化に問題はないが、日銀による買い入れにも限度があろう。金融緩和の出口で国債市場に相当のストレスがかかり、金利上昇につながるリスクを懸念している」と指摘する。

   「厳しい」評価にみえる見通しの変更だが、格付けそのものは上から2番目に高い「AAプラス」のまま。他社と比べても、S&Pやムーディーズの格付けが上から5番目、フィッチも6番目というから、たとえ1段階引き下げたとしても「低い評価」とはいえないかもしれない。

   消費税の税率10%への引き上げが延期されたのは今回が2度目。前回、消費増税が延期されたのは2014年11月。このときには、延期の発表から1年以内にS&Pやムーディーズ、フィッチのすべてが日本国債を格下げ。S&Pが「Aプラス」、ムーディーズ「A1」、フィッチは「シングルA」と、現在の水準に引き下げた。

   「政府が2015年10月に予定していた消費増税を先送りし、それを穴埋めするだけの財政健全化策を打ち出せていないこと」(フィッチ)が、格下げの理由だ。

消費増税の再延期、国債暴落の引き金になるのか

   政府はこれまで、2017年4月の消費増税を前提に、2018年度にプライマリー・バランス(基礎的財政収支)の赤字幅を名目GDP(国内総生産)比で1%程度に縮小したうえで、2020年度にはプライマリー・バランスの黒字化を図るという財政健全化の道筋を示してきた。今回の消費増税の再延期で、その展望が不透明になったのだから、格下げされても仕方ないところ。それにもかかわらず、「格下げ」には至っていないのは、なぜか――。

   第一生命経済研究所経済調査部、主任エコノミストの藤代宏一氏は、「最近は世界経済の見方が変わってきました」と指摘する。「2013年ごろまでは欧州の債務危機があり、おのずと政府債務に目が行きました。そのためネガティブに捉えられがちでしたが、債務危機を経て、最近は行き過ぎた財政規律は経済成長の足を引っ張る可能性があるとの意見も増えてきました」と説明。今回の消費増税の再延期が、国債暴落の引き金になることがないことは、「すでに市場(長期金利が安定して推移していること)が証明しています」と話す。

   とはいえ、どこかのタイミングで日本国債が格下げされる懸念は拭えない。格下げによって長期金利が上昇(国債価格は下落)することで、海外投資家やヘッジファンドなどが投機的に日本国債に「売り」を仕掛けることも想定される。

   前出の藤代氏は、「政府債務の残高が世界一多いことは確かですが、それがすぐさま国債価格の暴落につながるとは限りません。日本は他の債務が多い国と比べて輸出も多く、『稼ぐ力』があります。他にも債務が多い国がある中で、いきなり『日本売り』が起こることは考えづらい。国債暴落が起こるときはすべてがダメになるときで、現状その心配はありません」と話す。

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