2024年 4月 20日 (土)

仕事に身が入らなくなった社員を辞めさせたい

   不況でボーナスのみならず、給料もカット。住宅ローンの返済や教育費がかさみ、生活に不安を感じている人も多いのでは。ある中小企業の人事部には、これまで業績を上げてきた中堅社員が、仕事に身が入らなくなっているようだと相談があった。

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「もう限界ですわ」とサジを投げる課長

――IT系中小企業の人事です。営業部門の課長から、入社5年目のA君について相談がありました。話によるとA君は最近、仕事への集中力を書き、ミスが目立つようになってきたということです。
   お客さんへの請求書を他社のものと間違えて出したり、アポイントの時間を間違えたり。基本的に真面目な性格で、他人の話にはきちんと耳を傾けるので、先輩社員を含めて周囲の人たちが注意して3ヶ月が過ぎました。
   しかしその間も、お客さんへ提出するもののミスは防げているものの、社内チェックの段階ではミスが減らず、先輩社員からは「もう彼は諦めた方がいいんじゃないですかね」という声が挙がる始末。
   人事の記録によると、A君は有名大学を優秀な成績で卒業し、これまで着実に業績を上げてきました。同期社員はもちろん、同世代の中でエース級と見られてきた社員です。そこで昨年度から、これまで伸び悩んでいた市場の新規開拓要員に抜擢されたところでした。
   今年度から新しく上司となった課長は、以前の彼の姿を知らず、
「いやあ、われわれではもう限界ですわ。他の部署に異動させるか、辞めさせてくださいよ」
と言います。同期内でも「あいつは仕事ができないらしい」と噂が広がり、浮いてしまっているようです。
   確かにA君にそのまま仕事をさせていると、常にフォローが必要になって同僚の仕事の効率が落ちてしまいます。だからといって、当社は大きな会社ではないので、異動させる部署にも限りがありますし、いまの状態では引き受け手を頼みようがありません。
   これから本人と面談する予定ですが、どういう方向で話をするのが会社にとってよいものでしょうか――

社会保険労務士 野崎大輔の視点

退職を前提にキャリアカウンセリングの場を設ける

   「他部署に配置転換をして様子を見ては?」と言いたいところですが、その余力が会社にない場合には、退職勧奨の対象とするのも現実的には仕方がないでしょう。そうでなくても、業績評価下位20%を退職勧奨の対象とする会社もあると聞きますし、最近ではこのラインがさらに上がっているようです。

   ただし、会社には採用した責任があります。転職の際にキャリアカウンセリングを受けられるよう、必要な能力を持った人との面談をさせたり、専門の会社を紹介してあげたりするのもよいと思います。本人の経験と出来る仕事を棚卸し、今後のキャリアや人生を考える機会を与えるということです。人は自分に最も合った生き方を見つけた時にこそ、輝きを発するものです。そのような場を見つけるためにも「飼い殺し」のような形をとるのが、本人にとって必ずしもよいこととは限らないのです。

臨床心理士 尾崎健一の視点
プライベートを含めて不安を聞き取り原因を探る

   これまで出来ていた人が、なぜミスをするようになったのか。その変化が気になります。長年仕事をしていれば、浮き沈みはあるものです。特に、同じ仕事を長年繰り返している人はいざ知らず、新しい領域に挑戦させられる優秀な人材であれば、壁にぶち当たって成果が一時的に上がらなくなることはありうるでしょう。それを乗り越えられるかどうかは、その人材の底力によるものですが、上司や同僚など周囲の人に支えられて乗り越える人も少なくありません。

   なぜ仕事に身が入らなくなったのか。仕事上の問題なのか、職場の人間関係によるのか。プライベートに問題はないのか。背景を探ることで、事故やミス、不正の予防につながります。管理職の仕事は、「仕事」と「人」のマネジメントの両面が必要です。数字を集計して足切りするだけなら、人間がする必要はありません。本人が不安になっていることに幅広く耳を傾け、必要に応じて休養させて職場に戻ってきてもらうことを考えてもよいと思います。

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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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