2024年 3月 29日 (金)

「親の介護で転勤ムリ」 会社の都合で押し切ってよいか

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   広域展開する組織にとって、転勤は不正防止や人材育成の点から欠かせない。しかし若手を中心に、仕事のために地元を離れるのはイヤと、転勤の打診に難色を示す人も増えているそうだ。

   ある会社では、個人的な事情で転勤を断った社員に、ベテラン人事担当者が「特別扱いなんて不公平だ」と不満を漏らしているという。

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「いちいち配慮してたら会社は回らない」

――小型機械の商社の人事です。全国に支店があり、定期的に人事ローテーションを行っています。これまで転勤命令に従えない社員は、自己都合で退職していました。

   ところが、この夏に東京支社から大阪支社への転勤を内示したA君から、

「申し訳ないが、親の介護の都合で転勤できない。しかし、どうしても会社を辞めたくない」

という申し出が来ました。

   A君の家庭は奥さんと母親の3人暮らしで、数年前に母親が病気で寝たきりになったため、奥さんが仕事を辞めて付きっきりで介護に当たっているということでした。

   当社では、全ての社員に転勤がありうることを入社時に説明していますし、社内規定にも明文化しています。人事部のベテランの先輩に相談すると、

「いちいち個人的な理由に配慮してたら、会社なんて回っていかない。だいたい、Aだけ特別扱いなんて不公平じゃないか。いままで辞めたヤツらはどうなるんだ」

と一蹴します。確かに、A君の転勤を取りやめたら、別の候補者を立てて打診し直さなくてはなりません。

   しかし女性の同僚は、介護で苦労している家庭が身近にあるせいか、「ただのワガママじゃないんだし、事情を聞いて会社が配慮するのは当然じゃない?」と首を傾げています。

   聞き取りをしてみると、介護などの都合で転勤命令が出されると困る、という人は他にもいるようです。こういうケースは増えそうですが、どう対応すればよいのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
転勤拒否は原則としてできないが、育児介護は例外

   会社の転勤命令を正当な理由なく拒否した場合には業務命令違反となり、解雇となる場合もあります。一方で育児介護休業法は、労働者に就業場所の変更を伴う異動をさせるとき、育児や介護を行うことが難しくなる場合には、会社は配慮しなければならないと定めています。

   したがって人事としては、Aさんの介護の状況と意向を聴き取り、転勤した場合に代替手段が本当にないのかどうか確認する必要があります。どうしても転勤が困難という結論に至れば、例外的に転勤を取りやめる判断をせざるをえないこともあるでしょう。転勤できないことが判明した場合、会社によってはキャリアコースを変更するなど、転勤可能社員との待遇の差をつけることがあるようです。

   なお、会社の転勤命令に業務上の必然性がなかったり、労働者の生活に著しい不利益を与えるような場合には、権利の濫用として無効とされます。「あいつは気に食わないから、転勤命令を出して困らせてやれ」というようなやり方は認められません。

臨床心理士・尾崎健一の視点
誰もが働きやすい会社なら、やっかみは起きにくい

   個人の都合に配慮してあげたいと思っても、その人にしかできない専門性もあり、会社としてどうしても転勤してもらわざるをえない場合もあるでしょう。その場合には、会社としての支援策を示して社員と交渉するという方法もあると思います。たとえば、Aさんの転勤の期間を事前に明確にし、自宅に頻繁に帰れるだけの旅費の手当てをすることなどが考えられます。

   問題は「不公平感」が高まることですが、この裏には「会社はAさんには配慮するのに、私の都合には目を向けてくれないのか」という不満があるものと思われます。Aさんが余人を持って代えがたい人であれば、ある程度特別扱いをしても仕方がありませんが、そうでない場合もあるでしょう。Aさん以外の人たちの事情にも耳を傾け、会社として対応する柔軟性を持てば、Aさんに対するやっかみは高まらずに済むのではないのでしょうか。会社全体として「働きやすさ」に配慮することで、トラブルが起きにくくなります。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
野崎大輔・尾崎健一:黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術
野崎大輔・尾崎健一:黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術
  • 発売元: 小学館集英社プロダクション
  • 価格: ¥ 1,365
  • 発売日: 2011/06/30
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