2024年 4月 26日 (金)

男性社員が「女子トイレを使いたい」と申し出てきた

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   心の性別と、身体の性別が一致せずに苦しむ「性同一性障害」。最近は性転換手術をしたタレントがテレビに出たりして認知度が高まっているが、実際に身近な存在となったときに温かく受け入れることができるだろうか。

   ある会社では、若手社員が「性同一性障害」であると告白する決心をして、人事担当が対応に戸惑っているという。

休日出勤で同僚に知られ、カミングアウト決心

――システム開発会社の人事です。開発部の男性A君が「女子トイレを使いたい」と申し出てきて、どうしたものかと戸惑っています。

   A君は20代半ばのイケメンで、仕事は真面目にやるし、SEの中では人との関わり方もうまいので、周囲から信頼されていました。

   ところが、あることがきっかけでA君は、

「実は性同一性障害であり、自分のことを女性だと思っている」

と職場でカミングアウトすることを決めたのだそうです。

   先月の休みの日に営業部のBさんが出勤したところ、見慣れない女性がオフィスにいたので声をかけたら、実はA君でした。

   A君は誰もいないと思って、ちょっと忘れ物を取りに来たのですが、プライベートでは化粧をしたりカツラをつけたりして女性のファッションをしていることが、これで判明してしまいました。

   そこで人事に来て、

「Bさんに知られてしまった以上、自分を偽って過ごすことはできなくなった。今まで我慢して隠してきたけど、これからはオープンにしていきたい。服装も女性らしいものに変えたいし、女子トイレも使わせてもらいたい。将来的には手術して戸籍上の性別も変えるつもりだ」

と言うわけです。

   私自身は男性ですが、差別的な感覚を持っていないつもりです。しかし、他の人はどうかと考えると、ひと騒動起こらないとは限らないと思います。もしA君の希望を通すとしたら、どうやって進めていったらいいのでしょうか――

臨床心理士・尾崎健一の視点
女性社員の代表と話し合い、ルールを決めては

   A君(Aさん)の真剣な申し出を受けた担当としては、できるだけ女子トイレの使用を認めてあげたいところです。しかし、人事が勝手に使用を認めて一方的に通知するだけでは、他の社員の理解は得られず、Aさんの立場を悪くしてしまうおそれもあります。同じトイレを使う女性の中には、何の抵抗も感じない人もいるでしょうし、そうでない人もいるでしょう。抵抗感を抱く人が多い場合には、これまで通り男性トイレを使ってもらうことも考えられます。いずれにしても、具体的に何が問題になるかを聞き取り、例えば使用中の音を消す擬音装置を取り付けてお互いの恥ずかしさを軽減するなどの便宜を図ってはいかがでしょうか。

   専用エリアへの立ち入りを許すことになる女性社員たちの抵抗感は、コミュニケーションで埋めていくしかありません。Aさんが女性全員と話し合うことは難しいかもしれませんが、女性の代表と気になることを出し合い、原則的なルールを決めることで、摩擦の少ない方法を探ることができると思います。

社会保険労務士・野崎大輔の視点
本人の意向を尊重しつつ、現実も踏まえてもらう

   「女子トイレ」の使用が焦点になっていますが、女性のファッションで出勤し仕事をすることも、さまざまな人との関係に影響を与える可能性があります。性同一性障害に対しては以前よりもずいぶん理解が進んだと思いますが、まだまだ抵抗を持つ人もいる「現実」を踏まえた方がよい場面もあると思います。

   なお、性同一性障害の男性が女性のファッションで勤務したことに対し、服務規律違反を理由に懲戒解雇した会社がありましたが、裁判で無効とされました。会社は性同一性障害について理解することが必要であり、男性の就労に際して配慮することが求められるのです。一方、外部の取引先の中に抵抗感を持つ人がいるおそれもあります。Aさんは仕事での貢献度も高いようですし、相手に慣れてもらうべきという考えもあるでしょうが、普通の社員がTPOを踏まえるのと同じように、化粧を控えたりパンツルックなど女性的すぎない服装を選んでもらうなどの配慮もお願いしたいところです。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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