2024年 3月 29日 (金)

経理部係長の「6億円横領&キャバ嬢貢ぎ事件」を分析する

   都内に本社を置くメーカーの元経理部係長(33才、独身)が2012年4月11日、会社の預金6億円を詐取した容疑で逮捕された。警察の調べに対し「ほとんどは好きなキャバクラ嬢の求めに応じて送金した」と供述しているという。

   多くの人は「なんでこんなバカなことを」と思うだろう。異常な事件だと。しかし、この犯人は「ホントに異常な人物」だったのだろうか。

人は「悪いと知りながら」不正を犯す弱い存在

不正リスクが高まる「トライアングル」を分析する
不正リスクが高まる「トライアングル」を分析する

   金額の多寡こそあれ、この手の横領はあらゆる組織で起きている。そして、犯人はこの係長のように周りから信頼されてカネの扱いを任され、事件発覚に「まさか!あの人が?」と言われる場合が多い。

   少し乱暴な言い方をすれば、

「人は誰でも、一定の条件がそろえば横領をしてしまう弱い生き物である」

と考える必要がある。では、どのような条件が揃うと、社員は詐欺や横領事件を起こしてしまうのか。

   最近、不正リスク管理において普及している考え方に「不正のトライアングル」というものがある。これはクレッシーというアメリカの犯罪学者が、多数の横領犯との面接調査を踏まえて導き出した仮説だ。

   簡単に言うと、次の3つの心理的要素が同時に生じたときに、人は「悪いと知りながらも」横領してしまうリスクが高まる。

   ひとつ目の要素は「動機」である。何らかの事情でカネを調達しなければならない「人には言えない問題」を抱え、横領してでも解決しようという動機が生じる。後ろ暗い借金や仕事上の失敗、ノルマ達成への焦りや家族の病気などがその例だ。

   2つ目の要素は「機会」である。「上司や同僚に見つからずに、会社や顧客のカネを使って問題を解決できる」と認識した時点で横領のリスクが高まる。その意味で不正は本人だけの問題ではなく、チェックなどの防止体制を取らない会社の問題でもある。

   3つ目の要素は「正当化」である。本人が「不正をしても許される、仕方がない」という言い訳のロジックを作るということである。会社や上司に対する強い恨みなども、「悪いのはあいつらだ」という正当化を後押しするだろう。

   このような3つの要素が邪悪なトライアングルを作ると、「フツーの人」の心を乱し、横領という異常な行為を誘発しまうのである。

甘粕潔(あまかす・きよし)
1965年生まれ。公認不正検査士(CFE)。地方銀行、リスク管理支援会社勤務を経て現職。企業倫理・不祥事防止に関する研修講師、コンプライアンス態勢強化支援等に従事。企業の社外監査役、コンプライアンス委員、大学院講師等も歴任。『よくわかる金融機関の不祥事件対策』(共著)、『企業不正対策ハンドブック-防止と発見』(共訳)ほか。
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