2024年 3月 19日 (火)

社員から「うちの求人広告って全部ウソじゃん!」と責められました

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   「求人票の記載内容と実際の労働条件が違う」などとして、全国のハローワークに寄せられた苦情の件数が、2012年度で少なくとも6600件あまりにのぼると報じられた。賃金が求人票の記載内容を大きく下回っていたり、社会保険に加入できなかったりするケースが多いようだ。

   ある会社でも、中途入社した社員から「1年経っても求人票に書かれていた賃金水準に至りそうもない」と人事部にクレームが来た。しかし人事は「ウソというわけではないと思うのだが」と、対応に苦慮しているという。

「このままじゃ『保証金額』大きく上回るのはムリ」

――人材派遣業の人事です。当社は業務拡大中で、この1年間中途入社社員を継続的に募集していますが、昨年入社したAくんがこんなクレームを入れてきました。

「うちの求人広告、ウソが多すぎませんか。資本金5000万円、賞与2回、給料20万円保証…。どれも大ウソじゃないっすか」

   確かに当社単体の資本金は1000万円ですが、オーナーの関連会社を全部足すと5000万円ということで、これまでこの数字を使ってきました。確かに怪しいところがあるかもしれませんが、働く社員には特に影響があるとは思えません。

   また、賞与は昨年1回だけでしたが、その前の年は3期連続で出していました。給与については、残業代を含めると20万円を下回る人はいません。「だからウソじゃないよね」と、完全な虚偽広告でないことを説明しました。

   しかしA君が言うには、20万円保証ということは「基本給が20万円で、頑張ったらそれ以上もらえると思って当然」とのこと。「このままじゃ20万円を大きく上回るのはまずムリじゃないですか」と憤っています。

「今年度中に私の基本給を、最低保証の20万円に上げてください。でないと『会社は約束を守らない』と労基署に訴えますからね!」

   なんだか雲行きが怪しくなって来ましたが、このまま放っておいたら大ごとになってしまう気がします。どう対処したらよいのものでしょう――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
求人広告の内容がそのまま労働契約になるとは限らない

   求人広告については、職業安定法42条で「募集内容の的確な表示」が義務づけられており、同65条で「虚偽広告」等を出したものは6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処するとされています。今回の相談で事実と明らかに異なるのは資本金の部分ですが、もし気になるようでしたら、職業安定法を管轄する最寄りの公共職業安定所やハローワークに相談してみてはどうでしょうか。

   なお、求人広告は「雇用契約の申込みの誘引」であり、具体的な労働条件はその後の面接で説明されて、お互いに雇用契約が締結されればそれが契約内容となります。その内容が求人広告の条件を下回っていたとしても、実際に締結された雇用契約が優先されます。ただし明示された労働条件が事実と相違する場合は、差額を請求したり即座に契約を解消することができます。労働基準監督署は、求人広告に関しては所轄外なので受け付けてもらえない可能性がありますが、労働契約の問題に関しては相談に乗ってくれます。

臨床心理士・尾崎健一の視点
労働者には「雇用契約の基礎知識」が必要

   野崎さんが指摘するように、確かに求人広告と実際に提示される条件が異なることは少なくありません。労働者としては、雇用契約の基本的な知識を身につけておき、提示された金額が額面なのか手取りなのか、年俸とされている場合にはみなし残業代がどの程度含まれているかなどをよく確認しておくべきでしょう。「働く前からカネの話ばかりするヤツなんか採りたくない」という声も聞かれますが、雇用契約は会社と労働者が対等な立場で締結するものです。納得できない条件を、ムリに受け入れる必要などありません。

   これは人事へのアドバイスですが、現代はネット社会なので、ウソはすぐに知れ渡ると考えた方がよいでしょう。厚遇目当てで一時的に人が集まっても、「話が違う」となれば人材が流出したうえ、悪い噂が立っても新たな人も集まらなくなります。「ブラック企業」のレッテルも容易に貼られますから、「この程度なら別にいい」といった甘い考えはあらためた方がいいと思います。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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