2024年 3月 19日 (火)

海外在住の日本人の間で「出国税」が話題 海外進出への萎縮効果を懸念

   最近、海外に住む人のなかで、いわゆる「出国税」の話題がよくでます。

   出国税というのは、国内から海外に住居を移す場合に課せられる税のことです。日本においても、2015年度税制改正大綱に(特例の創設として)盛り込まれ閣議決定されました。解散などなければ、関連法案が通常国会で可決され、7月から施行される見通しです。

   内容としては、海外に転居する場合に、未実現の株式の含み益に課税するという内容です。未実現の株式の含み益というのは難しい言葉なのですが、要するに、売って利益も確定していない株であっても、計算上利益が出ていれば、税金を納めなさいというものです。

これまでは「合法的な節税」だったが・・・

   日本で株式を売って利益が出た時のキャピタルゲインは、20%の課税(復興特別所得税分の計算は含まない表記)です。一方で、シンガポールや香港ではキャピタルゲインは無税ですから、0%です。

   このため、株をもったままシンガポールに転居して株を売ると税金がかからない。合法的な節税ということでしたが、これに蓋をするために出国税が導入されるということです。

   つまり、外国に転居する場合、実際に売ったか売ってないかにかかわらず、(計算上)利益が出れば税金納めなさいよ、ってことです。これなら、たとえばキャピタルゲインが無税の国へ転居した後に売る、ということの「うまみ」がなくなることになります。

   なるほど、ズルができないようにするのは良いことのように思われますが、問題点も多くあります。

   法案としてまとまるのはまだ少し先なのでしょうが、現時点での問題点のひとつは、転居(手続き)しただけで原則、(計算上利益が出れば)税金がかかるということです。日本国籍を捨てるわけでもなく、海外に永住権を得て移住するのでもなく、単に住民票を抜いただけで対象になるのです。駐在員として海外に赴任する場合でも原則、一律に適用されます(後述するように、年限を区切った猶予措置などもありますが)。海外の会社に採用され、海外で働くことになっただけでも(後述の対象範囲に入っていれば)、適用対象です。

   本件の報道でもあるように、国としては、「多額の資産を持つ人の税のがれ」を許さない、という姿勢なのでしょうが、実際はそういう引退して海外に逃れるひとではなく、現役バリバリの海外展開したい起業家や、投資家、中小企業のオーナーなどが、のきなみ網にかかって一網打尽にされてしまう気がします。

   とはいえ、対象となるのは有価証券等の価格が1億円を超える場合などとされ、年間100人程度とも報道されていますが、どう考えてももっと多いでしょう。

   例えばベンチャー企業に関わったり、投資をしたりしている人。当初安い値段で出資したものが、だんだんと会社の規模が大きくなると、持っている株式の評価額が1億円を超えることはざらにあります。

   また、株式だけではなく、匿名組合の出資の持ち分も課税対象です。例えばベンチャーキャピタルへの出資などがこれにあたるほか、信用取引、デリバティブなどの含み益も対象とされています。

   さらに、地元の中小企業の創業者の跡取りみたいなひとでも、家族が経営する会社の株をたくさん持っていたりします。ちょっとした中小企業でも、1億円を超えるところは結構あるでしょう。

大石哲之(おおいし・てつゆき)
作家、コンサルタント。1975年東京生まれ、慶応大学卒業後、アクセンチュアを経てネットベンチャーの創業後、現職。株式会社ティンバーラインパートナーズ代表取締役、日本デジタルマネー協会理事、ほか複数の事業に関わる。作家として「コンサル一年目に学ぶこと」「ノマド化する時代」など、著書多数。ビジネス基礎分野のほか、グローバル化と個人の関係や、デジタルマネーと社会改革などの分野で論説を書いている。ベトナム在住。ブログ「大石哲之のノマド研究所」。ツイッター @tyk97
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