2024年 3月 28日 (木)

マスコミに騙されないために 「世論調査」の裏を知る

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『世論調査とは何だろうか』(岩本裕著、岩波新書、税別800円)



   安倍政権による安全保障法制の強引な審議の合間で、良くも悪くも引き合いに出されたのは、国民世論がこの法案に対して、どのような態度を表明しているか、だった。「内容を理解していない」「今国会で急いで成立させるべきでない」など、国会を取り巻くデモ隊のシュプレヒコールにも影響を与えた。

   著者はNHKで世論調査を担当する部の副部長。というよりは、かつての「週刊こどもニュース」の3代目お父さんと言ったほうが、顔を思い出す人が多いかもしれない。

   世論調査の素人からこの部門に移った体験も踏まえて、報道機関を中心に各種の世論調査の歴史と現状、問題点をわかりやすくまとめている。

なぜ、同じような調査をしていて結果が異なるのか

   一番読者の興味を引くのは、報道機関によって、なぜ、同じような調査をしていて結果が異なるのか、という点だろう。著者は、最近の具体的な調査結果を例示しながら、その秘密を暴いていく。「中間的選択肢」の影響、「必要最小限」という言い回しの問題などだ。読売や産経などを材料に、質問の文章と順番から調査主体の意図を読み解くことができるのがよくわかる。むしろ、世論操作といったほうがいいかもしれないとさえ思う。

   ただ、筆者の属するNHKの世論調査については、一般的な解説は多いが、センシティブな政治についての具体的な記述が少ないのは、無理からぬことかも知れないが、欲求不満が募ることは指摘せざるをえない。

   現在の世論調査が非常に機動的になっている背景に、「RDD」方式の電話調査があることは周知の事実だ。しかし、RDDの対象は固定電話だけで、携帯は考慮されていない。この結果、NHKのRDD調査に応える20代の若者は全体の3%しかいない、という事実には驚かされる。著者自身もRDDを含めた世論調査に対する危機感を率直に述べている。

   では、RDDはネットによる世論調査にとって代わられるのか。著者は欧州のインターネット調査会社の事例を示して、その可能性を示唆する。報道機関も公的機関も、不完全な回答集団に恣意的な質問を重ねて、都合のいい結果を「世論」と称していれば済む時代ではなくなったことを、この本は示している。(MD)

『世論調査とは何だろうか』
『世論調査とは何だろうか』
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岩本 裕

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