糖尿病患者に多いデュピュイトラン拘縮の新たな線維化メカニズムを解明

糖尿病患者に多いデュピュイトラン拘縮の新たな線維化メカニズムを解明S100A4–TLR4–TGF-β経路を標的とした治療開発に期待

2026年5月28日
岐阜大学

糖尿病患者に多いデュピュイトラン拘縮の新たな線維化メカニズムを解明 -S100A4–TLR4–TGF-β経路を標的とした治療開発に期待-

 

 

本研究のポイント

・ 手のひらが変形する疾患「デュピュイトラン拘縮(注1)」において、糖代謝異常が病態の進行に関与する仕組み解明しました。

・ デュピュイトラン拘縮由来の線維芽細胞において、高血糖下で「S100A4(注2)」の発現が増加することを発見しました。

・ デュピュイトラン拘縮の病変組織において、S100A4の発現量が血糖値指標(HbA1c(注3))と正の相関を示すこと、糖尿病患者では非糖尿病患者と比較してS100A4の発現量が高いことが分かりました。

・ S100A4はTLR4受容体(注4)を介して免疫細胞であるマクロファージに作用し、線維化を促す因子「TGF-β1(注5)」の発現を誘導しました。

・ TLR4阻害剤により、S100A4によるTGF-β1の発現誘導を抑制できることを示しました。

 

 

研究概要

 岐阜大学医学部附属病院整形外科の加藤 皓己臨床助教、河村 真吾特任講師、秋山 治彦教授らの研究グループは、愛媛大学プロテオサイエンスセンター今井 祐記教授らとの共同研究で、糖代謝異常がデュピュイトラン拘縮の病態に関与する新たな分子メカニズムを解明しました。

 デュピュイトラン拘縮は手掌に生じる線維性疾患であり、指の屈曲拘縮を引き起こします。現在、国内では手術治療が唯一の治療方法であり、新たな治療法の開発が求められています。糖尿病はデュピュイトラン拘縮の危険因子として知られていますが、糖尿病が疾患の発症・進行に関与する正確なメカニズムは不明でした。

 本研究では、デュピュイトラン拘縮由来の線維芽細胞を高グルコース条件下で培養するとS100A4の発現が増加すること、S100A4タンパクがマクロファージのTLR4受容体を介して線維化誘導因子であるTGF-β1の発現を誘導すること、さらにTLR4阻害剤によりS100A4誘導性のTGF-β1発現上昇が抑制されることを明らかにしました。

 本成果は、糖尿病患者のデュピュイトラン拘縮に対する新規治療標的としてS100A4–TLR4–TGF-βシグナルの可能性を示すものであり、現行治療の新たな治療法開発の足掛かりになると期待されます。

 本研究成果は、現地時間2026年5月23日にCell Death Discovery誌のオンライン版で発表されました。

 

 

研究背景

 デュピュイトラン拘縮は、遺伝的・後天的・環境的要因により発症する手掌の線維性疾患です。指が曲がったままとなる屈曲拘縮を引き起こし、QOLに大きな影響を与えます。現在の標準治療は外科的切除ですが、術後の神経損傷や創傷治癒の遅延といった合併症が約23%に生じるとされ、再発率の高さも課題となっています。

 糖尿病(DM)はデュピュイトラン拘縮の確立した危険因子であり(有病率:DMあり15.5% vs DMなし5.6%)、これまで終末糖化産物(AGEs)の蓄積やコラーゲンの糖化が関与する可能性が示唆されてきましたが、具体的な分子メカニズムは未解明でした。

 S100A4はカルシウム結合ドメインを持つS100ファミリータンパクです。細胞外に分泌されると、DAMP(注6)として機能し、RAGE受容体およびTLR4受容体を介して様々な線維性疾患(腎・肝・肺線維症、全身性強皮症など)に関与することが知られています。しかし、デュピュイトラン拘縮におけるS100A4の役割についてもこれまで明らかになっていませんでした。

 そこで私たちは、糖代謝異常がデュピュイトラン拘縮の病態形成に与える影響を分子レベルで解明することを目的として、本研究を行いました。

 

 

研究成果

 患者由来の デュピュイトラン拘縮由来線維芽細胞を高グルコース・低グルコース条件下で培養し、RNAシーケンス(注7)解析を行いました。両細胞株に共通して高グルコース条件下で発現上昇した遺伝子として、S100A4、TMEM158、CLDN11の3遺伝子が同定され、その中からS100A4を重点的に解析しました(図1)。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202605279792-O4-zr82pY0I

 

図1.高グルコース条件下のデュピュイトラン拘縮由来線維芽細胞におけるRNAシーケンス解析

 

 ウエスタンブロット・免疫細胞染色・ELISAにより、高グルコース処理がS100A4 mRNA・タンパク発現および細胞外分泌を増加させることを確認しました。デュピュイトラン拘縮患者組織を用いたqRT-PCR解析では、S100A4 mRNA発現量はHbA1c値と正の相関を示しました。また免疫組織化学染色では、糖尿病群でS100A4陽性面積が非糖尿病群と比較して有意に大きいことが明らかになりました (図2)。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202605279792-O6-fxm1wvJX

 

図2. デュピュイトラン拘縮組織における S100A4発現(左:非糖尿病患者、右:糖尿病患者)

 

  次に、デュピュイトラン拘縮組織においてS100A4発現細胞とその受容体発現細胞を解析しました。シングルセルRNAシーケンスの公開データセットおよび免疫蛍光染色により、S100A4はPDGFRα+線維芽細胞に発現していました。一方、受容体であるTLR4の発現はCD68+マクロファージに認められました (図3)。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202605279792-O8-15376BeA


 

図3. デュピュイトラン拘縮組織におけるS100A4、TLR4発現細胞の同定

 

 ヒト単球系細胞株 THP-1をマクロファージへ分化誘導した後、組換えヒトS100A4タンパク(rhS100A4)を投与しました。rhS100A4 処理はマクロファージの遊走能・M1/M2分極に影響を与えませんでしたが、TGF-β1発現を有意に増加させました。TGF-β1はデュピュイトラン拘縮由来線維芽細胞に対して、線維化亢進作用(αSMA(注8)、COL3(注9)発現上昇)を示しました(図4)。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202605279792-O10-JD1X3j1O

 

図4. デュピュイトラン拘縮由来線維芽細胞に対するTGF-β1投与実験 

 

 マクロファージに対する TLR4阻害剤 (TLR4-IN-C34 または IAXO-102) の投与によって、rhS100A4誘導性のTGF-β1発現上昇が抑制されました。また、デュピュイトラン拘縮由来線維芽細胞の培養上清 (conditioned medium; CM)によるマクロファージへのTGF-β1誘導もTLR4阻害剤により抑制されました(図5)。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202605279792-O12-Y9XrZjEj

 

図5. TLR4阻害によるS100A4–TLR4–TGF-βシグナルの抑制

 

 以上の結果より、高グルコース環境下でデュピュイトラン拘縮由来線維芽細胞からS100A4が分泌され、マクロファージのTLR4を介してTGF-β1発現を誘導し、線維芽細胞の筋線維芽細胞化を促進するというS100A4–TLR4–TGF-βシグナルが、糖尿病患者のデュピュイトラン拘縮病態の一端を担うことが明らかになりました(図6)。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202605279792-O14-fCtmKpkj

 

図6. 本研究結果のまとめ(糖代謝異常とデュピュイトラン拘縮における線維化機序の模式図)

 

 

今後の展開

 本研究では、糖代謝異常がデュピュイトラン拘縮の線維化を促進するメカニズムとして、S100A4–TLR4–TGF-βシグナル軸を同定しました。今後は、このシグナル軸を標的とした治療介入の可能性(TLR4阻害剤の応用、適切な血糖コントロールによる発症予防など)を検証し、糖尿病患者のデュピュイトラン拘縮に対する新規治療法の開発につなげたいと考えています。

 

 

用語解説

(注1)デュピュイトラン拘縮:

手掌の皮下組織(手掌腱膜)が線維性に肥厚・短縮し、患指が屈曲拘縮する疾患。中高年男性に多い。

 

(注2)S100A4(Fibroblast-Specific Protein 1; FSP1):

カルシウム結合タンパクS100ファミリーのメンバー。細胞内外で機能し、線維芽細胞・筋線維芽細胞・マクロファージなど多様な細胞に発現する。細胞外ではDAMPとして機能し、各種線維性疾患への関与が報告されている。

 

(注3)HbA1c:

過去1〜3ヶ月の平均血糖値を反映する糖尿病コントロールの指標。

 

(注4)TLR4(Toll-like receptor 4):

病原体由来分子やDAMPを認識するパターン認識受容体。マクロファージに高発現し、炎症・免疫応答の調節に中心的役割を担う。

 

(注5)TGF-β1(Transforming growth factor-beta 1):

線維化の主要な誘導因子。線維芽細胞を筋線維芽細胞に分化させ、コラーゲン産生を促進する。

 

(注6)DAMP(Damage-Associated Molecular Pattern):

細胞傷害・死・ストレス時に放出される内因性分子。パターン認識受容体を介して自然免疫応答を惹起する。

 

(注7)RNAシーケンス:

次世代シーケンサーを用いて遺伝子発現を網羅的に解析する手法。

 

(注8)αSMA(α-smooth muscle actin):

線維化の主役である筋線維芽細胞のマーカー。

 

(注9)COL3(collagen type III:III型コラーゲン):

線維化の進行に伴って発現が増加する代表的な線維化マーカー。

 

 

研究支援

本研究は以下の支援を受けて実施しました。

・ 日本整形災害外科学研究助成財団 研究助成(No. 637)

・ 公益社団法人武田科学振興財団 医学系研究助成

・ 中冨健康科学振興財団

・ 日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)(24K12303)

 

 

論文情報

雑誌名: Cell Death Discovery

論文タイトル: S100A4–TLR4–TGF-β axis as a therapeutic target for Dupuytren's contracture in diabetic patients

著者: Koki Kato†, Shingo Komura†,*, Yuta Yanagihara, Noritaka Saeki, Atsushi Goto, Rie Maki, Hitoshi Hirose, Akihiro Hirakawa, Yuuki Imai, Haruhiko Akiyama 

(†equal contribution, *責任著者)

DOI:10.1038/s41420-026-03167-y

 

 

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