2024年 4月 26日 (金)

「地中海難民」追い返せず受け入れも限界!イタリア「EU全体で分担を」、英仏「移民テロ増える心配」

   中東やアフリカからの難民が粗末な小さな船で地中海をわたり南ヨーロッパにたどり着く「地中海難民」が急増している。この5年間で50万人に達した。リビア、エジプトといった北アフリカ沿岸の港から定員をはるかに超える人々を乗せて出港し、イタリアまでの約400キロを数日から1週間かけて航行する。途中、船が転覆し命を落とすケースも少なくない。

   これに北アフリカとは距離的に近いイタリア、ギリシャなどの地中海沿岸諸国が悲鳴を上げている。

密航業者「50人乗りの船に500人乗せる。そうじゃなけりゃ儲からない」

   番組ディレクターがイタリア・シチリア島の港町を訪れた。この日も小さな船に100人以上、すし詰め状態の船が到着していた。国籍はソマリアやナイジェリアなどで、着の身着のままの状態で逃げ出したのだろうか、裸足の人も多い。「自分の命を守るためには祖国を捨て逃げるしかなかった」と話す。数百人の死者を出す転覆事故も絶えない。救助活動を行っているイタリアの海軍や沿岸警備隊はアフリカ・リビア沖まで活動範囲を広げた。

   ディレクターが次の訪れたのは、北アフリカの密航業者の拠点の一つになっているエジプトの漁村だ。顔を出さない条件で密航業者の一人が取材に応じた。地中海難民が急増し始めたのは4年前のアラブの春以降で、国境管理がずさんになり難民が押し寄せたという。密航業者も増え、競争から密航料金を値下げする業者も現れて無謀な航海が増加したという。

「以前の1人当たりの相場は2000ドルだったが、金のないアフリカ人難民からは500ドルしか取れない。だから無理して船に詰め込むようになった。50人乗りの小さな船に500人は乗せる。そうしないと儲からない。その後にあいつらがどうなろうが知ったことじゃないよ」と言い放つ。密航業者はこうも言う。「イタリアの救助活動は好都合さ。発見されればイタリアまで連れて行って入国させてもらえる。岸まで苦労してたどり着くよりずっと簡単で、とても助かっている」

   EUの難民政策に詳しい広島大学社会科学研究所の中坂恵美子教授は受け入れ国側の苦悩ぶりをこう語った。「難民受け入れは旧ユーゴ内戦の時もありましたが、今回はヨ―ロッパでない中東や北アフリカという文化の違う人たちで、インパクトは非常に大きなものがあるとおもいます」

欧米各国「アラブの春バックアップしたが、国内混乱にフォローなし」

   イタリアに限らず、EUは人権尊重が建て前だ。難民の無視は自己否定につながるうえ、迫害の可能性がある母国に戻したりすると、人権条約違反で欧州人権裁判所から違法の判断が出されるため、見捨てることができないという。また、EUにはこんなルールもある。ビザを持たない難民が漂着した最初の国は、受け入れて最低3年間の居住許可証や社会保障を自国民並みに保証し、働く権利を与えなくてはいけないのだ。

   こうしたのジレンマに陥っているのが、これまで17万人もの難民が漂着しているイタリアである。市民の不満が噴出し「まるで侵略だ」とデモが相次いている。困った政府は受け入れを分担制にするようEUに申し入れた。EUも打開に向けて、難民のうち4万人をEU加盟国のGDP(国内総生産)に応じ受け入れる「割り当て案」を打ち出した。

   イタリア、ギリシャなどの地中海沿岸の国々とドイツ、スウェーデンはこの案に肯定的だが、移民系のテロに悩むイギリスやフランスなどは否定的だという。誰も火中のクリなど拾いたくないのだ。

   国谷裕子キャスター「根本的な解決に向け、何が問われているのでしょうか」中坂教授「独裁政権を倒すことを西側の国はやってきたのですが、その後の国づくり、平和構築については支援してこなかったんですね。たとえば、PKO(国連平和維持活動)が去ったあとも地道に続けていくようなことをして、社会的に安定した国づくりの支援が必要だったのです」

   EUは25日(2015年)から首脳会議を開き、この問題の解決に向け討議に入ったが、簡単には決着はつきそうにない。

NHKクローズアップ現代(2015年6月24日放送「『地中海難民』~EU揺るがす人道危機~」)

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