2024年 4月 19日 (金)

本格的に動き出した足利銀行の受け皿さがし
地元重視も、高値売却は至上命令?

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※この記事は、「足利銀行の譲渡先 地銀連合が最有力」の詳報です。

   2003年11月に一時国有化された足利銀行の受け皿金融機関を選定する作業が動き始めた。金融庁が示した入札の基本的な条件に基づき、足利銀行の受け皿金融機関を公募。事業計画の審査などを経て、来夏には譲渡先が決まる見通しだ。9月5日には「足利銀行の受皿選定に関するワーキンググループ(WG)」が初会合を開き、19日には栃木県の福田富一知事が「地元の要望」を述べた。こうした状況のなか、「受け皿」には横浜銀行を中心とした関東地区の地銀連合や栃木銀行大和証券SMBC、メガバンクや複数の投資ファンドも食指を伸ばしているという。預金保険法による破綻処理は足利銀行が初めてのケースだけに、その帰趨(きすう)が注目されている。

   経営破綻し一時国有化された足利銀行の受け皿問題を検討する金融庁の有識者委員会(座長・村本孜成城大教授)の初会合が5日開かれ、譲渡先の選定に向けた検討が本格的に始まった。委員会は、五味廣文金融庁長官の懇談会として設置。地元関係者らからヒアリングを行うとともに、法律や会計など専門的な立場から金融庁に助言する。
   19日には栃木県の福田富一知事から意見を聞いた。それによると、受け皿の公募要領に関する要望と、受け皿の選定に関する要望とに分かれていて、公募の条件では候補先に応募した理由の明示や新銀行の基本的な経営ビジョン、中長期的な経営主体や株主構成を明示すること、また足利銀行の資産査定についての配慮などを求めている。
   受け皿の選定に関する要望では、地銀として地域密着型金融の機能強化や中小企業の育成、情報技術を活用したビジネスモデルの構築、地域貢献の確保、指定金融機関の機能維持と他の金融機関との協調を求める一方で、ガバナンスについて機関銀行化の防止を、さらには預金保険機構による一定株式の保有、株式上場前の第三者への株式譲渡の防止などを訴えた。
   福田知事は昨年5月にも小泉首相宛てに「足利銀行の受け皿に関する要望書」を提出している。そこでは、足利銀行の受け皿金融機関の選定が「栃木県経済にとって極めて重要な意味をもつ」として、(1)受け皿は、本県の地域経済に理解を持ち、本県産業・経済の再生・発展に果たすべき役割と責任の重大性を認識し、地域の中核的金融機関としての機能を担保することができるものであること(2)受け皿の選定過程においては、県民の意向等を十分反映できるよう県を参画させること(3)受け皿への移行は、本県の経済状況の動向や中小企業の実態等を十分に勘案しながら、預金保険法第120条の趣旨に基づき、できる限り早期に行うこと――の3点を求めていた。
   一時国有化から2年9カ月が経過し、ようやく選定が開始されることについて福田知事は「少し長かったかなと思う」と不満をにじませたものの、預金保険法は他の金融機関との合併や営業譲渡による受け皿移行も認めるが、実際には複数の企業などが出資できる株式譲渡方式をとる見通しで、福田知事も19日には「株式譲渡による単独再生」を熱望した。

「地域」の声反映で、地銀連合優勢か? 

   金融庁は足利銀行の受け皿の選定基準として、(1)金融機関の持続可能性(2)地域における金融仲介機能の発揮(3)公的な負担の極小化――の3条件をあげている。
   足利銀行の受け皿選定の開始にあたって、与謝野馨金融・経済財政担当相は「資本の論理だけでなく、地域経済を本当に心配する、地域経済とともに生きようと思う受け皿が望ましい」と発言。福田知事も「高く売れればいいというのではいけない。栃木県や近隣地域を十分に理解してくれる受け皿が最低条件」とクギを刺している。
   「県民の意見にしっかり耳を傾ける」ことを強調する両氏ではあるが、では実際に地元・栃木県民は足銀問題をどう受けとめているのだろうか。
   現地では、一時国有化後の舵をとってきた池田憲人頭取の経営手腕を高く評価する声の多さに驚かされる。破綻直前に同行の増資に協力して損害を受けた宇都宮市内の、ある経営者は「国有化後の営業姿勢を見ていると、行員も我々と同じ被害者という気がする。破綻後も親身になってくれ、融資をしてくれたので、このままの足銀で再生してほしい」と期待。宇都宮市で製造業を営む経営者も「地域密着、地域貢献という地銀の経営を一番わかっている人」と、池田頭取の続投を望む声ばかりだ。
   池田氏は、横浜銀行の出身。足利銀行の受け皿に名乗りを挙げている、横浜銀行ら関東地区の地銀連合が最有力と目されている要因のひとつは、このあたりにもありそうだ。
   オリオン通り商店街の、ある商店主は「ドライな経営判断が経営者には必要なのはわかるが、栃木の風土にあった、いまの経営を引き継いでほしい」と話す。
   かつての足利銀行がバブルに踊って、東京での資金運用に傾注し“地域を離れた”。その二の舞に警戒感を隠さない。
   足利銀行に出資していた、旧株主のひとりは「こちらは大損害を被ったまま。この2年半、旧経営陣の責任も問えず、どこかなおざりにされたまま選定作業が進むことに釈然としない。いまでも国有化が必要だったのか疑問だし、りそな銀行(公的資金の資本注入で存続)との違いがなぜ起こったのか、理解できないことばかりだ」と、怪訝な顔をする。
   栃木県選出の渡辺喜美衆院議員や福田知事らが唱える「県民銀行」構想には、「県民の利益につながるのが前提。そのためには外資だろうが、投資ファンドだろうが厭わないことだ」と手厳しい声もあり、選定作業を見守る構え。足利銀行の再生に、期待と不安が交錯する。
   本格的な受け皿選定を前に金融庁は9月1日、足利銀行が一時国有化後に取り組んできた経営改善状況について、検証結果を公表。それによると、本業のもうけを示す実質業務純益は04年度、05年度の2期連続で400億円を上回り、今年度も同水準が見通せる状況となった。不良債権比率は、04年3月期決算で20・62%だったのに対し、06年3月期決算は7・77%に低下。07年3月期で目標にしている6%台達成も視野に入った。
   外部機関を活用した企業再生の支援実績としては、産業再生機構11件、整理回収機構6件、中小企業再生支援協議会57件。法人融資先における要注意先・要管理先・破たん懸念先から上位にランクアップしたのは、04年3月末から05年3月末が1,424件、05年3月末から06年3月末が1,130件となっている。今年度は経営改善計画(3カ年)の最終年度にあたる。
   池田頭取は「当行が特別危機管理銀行から民間銀行へ移行する最終ステージを迎えたということであり、関係各位に心より感謝申し上げます。引き続き、企業価値の向上を目指し、金融機関としての持続可能性の保持と地域金融の円滑化の確保にむけ、役職員一丸となり努力してまいります」とのコメントを発表している。

「国の負担軽減」で、メガバンク、投資ファンドの巻き返し 

   現在、受け皿に名乗りを挙げているのは、横浜銀行を中心とする関東地方の地銀連合、地元の栃木銀行と大和証券SMBC、野村証券オリックスりそなホールディングス(HD)の連合、みずほグループ系の証券会社と投資ファンド。これに新生銀行あおぞら銀行三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)なども関心を示しているといわれる。
   最有力と目されている横浜銀行ら地銀連合だが、参加を呼び掛けられている地銀からは「受け皿となる持ち株会社を通じて、足利銀行の経営に積極的に参加したいと考えている地銀と、そうでない地銀では温度差がある」との声や、「連合への参加は、あくまで投資ということになる。ただ、足利銀行に投資をして失敗した場合に株主代表訴訟になる恐れがある」などの声が聞かれ、まだまだ予断を許さない。
   そもそも、現段階で有力視されているのは、与謝野・金融担当相らの「地域重視」の発言によるところが大きい。しかし、預金保険機構が持つ足利銀行株の売却は、返済を前提とした公的資金と違って、贈与となる。その原資は預金保険料のため、地元県民の意向は反映されにくいと考えるのが妥当だ。
   銀行界からも「なぜ、我々が縁もゆかりもない足利銀行の損失額を負担しなければならないのか」(メガバンク幹部)との声や、「民間銀行のカネで機構、すなわち国が再建しているのだから、金融当局は地元の意向を念頭に置いた議論などするはずがない」(大手銀行の幹部)との声が漏れてくる。
   当の与謝野金融担当相も昨年11月には、「国や中央が勝手に決めるということはあり得ない」と述べる一方で、「債務超過のところは金銭の贈与で解消しなければならないので、国民の立場からはどうやって最小化できるのかという問題がある」と語っていて、足銀問題が栃木県単独で解決できる範囲を超えていることを示唆している。
   足利銀行の買収には、国からの株式取得費用と買収後の自己資本の増強に、少なくとも3,000億~4,000億円が要るとみられる。実際の資金投入は、売却価格と足利銀の債務超過額(06年3月期で3,832億円)を相殺した結果、最終損失額が確定した時点になるので、単純に売却額がこの債務超過額を上回る金額となれば、資金投入は必要なくなり、預金保険機構、つまり国の負担は軽減される。高値売却には国の思惑もあるわけだ。
   りそなHDは“スーパーリージョナル”(広域地域銀行)を標榜し、東西に4つの都銀と地銀、信託を有する。ただし、ここも足利銀行と同じ年に3兆円超の公的資金を資本注入し、実質的な国有化状態にある。このため、約4,000円の売却資金を出せる状況にない。そこで本格的な銀行買収に意欲的なオリックス、りそなHDと親密な野村證券と組むことにした。
   地元の第二地銀・栃木銀行は、資金量2兆円で第二地銀業界第8位。同行の小林辰興頭取は意欲をみせるが、現在地銀第14位で資金量4兆円を超える足利銀行の面倒を見るには荷が重い。
   ちなみに、“小が大を飲む”例は、北海道の第二地銀、北洋銀行が97年秋に経営破綻した北海道拓殖銀行を譲り受けている。
   みずほFGが取り沙汰されるのにはわけがある。母体の旧富士銀行、旧第一勧業銀行は昔から東北地区で強く、友好地銀も少なくない。その両行が「みずほ」になったのだから現状でも優位にあるが、これを常に脅かす存在がMUFGだ。東邦銀行の頭取で全国地方銀行協会の瀬谷俊雄(俊夫)会長は、旧第一勧銀OBでもある。関東と東北を結ぶラインに北関東が加われば、みずほFGの、このエリアでの勢いは増す。
   一方のMUFGは、常陽千葉八十二といった旧三菱銀行の友好地銀が関東地区には目白押し。そもそも足利銀行もその一員だったが、破綻時に三菱は足利銀行を見捨てた。それもあって、栃木県では評判を落としたが、地銀連合を後押しすることで巻き返しを狙っているとの観測がある。 栃木銀行を、三井住友銀行と提携する大和証券SMBCが後押しすることで、見方のよってはまさにメガバンクの三つ巴の争いともとれる。
   関東・東北にクサビを打ちたい、みずほ。再度、足利を抑えて関東地区を磐石にするMUFG。それらに待ったをかける三井住友FGと、いわばメガバンクの国盗り合戦が足利銀行の「受け皿」に飛び火した格好なのだ。
   受け皿の候補先が出揃うのは10月末。今のところ、「外資系ファンドなどの名前があがらないのが不思議」(大手地銀の幹部)と、まだまだ候補先は増え、二転三転するとの見方もある。これまで外資系ファンドが経営破綻した銀行を再生ビジネスと捉え、再生終了後の再上場で破格の上場益を得たことを思えば、足利銀行は“最後の大物”として期待できる。
   「資産内容も健全になるうえに、もともと収益力の高い銀行だったから悪い買い物になるはずがない」(関東地区の地銀関係者)。
   ある銀行関係者によると、投資ファンドや金融機関の関係者が金融庁や預金保険機構に足を運び、足利銀行の受け皿情報の収集に躍起になっているという。なかでも積極的なのが投資ファンドという。
   売却する側の預金保険機構も投資ファンドが有力な引き受け先との認識はある。「高値売却は至上命令。売却益を前提に高値で買ってくれそうな投資ファンドが有力候補先となる。単独での名乗りを挙げるのではなく、どこかと組んで仕掛けてくるだろう」(メガバンクの幹部)とみる。 レースは最後までもつれる。


* 足利銀行の一時国有化後の経過

2003年11月29日 足利銀行が経営破綻。国が一時国有化を決定
     12月 1日 預金保険機構が株式を強制取得。特別危機管理銀行に
       16日 新頭取に池田憲人氏を迎える
04年 6月11日 足利銀行が04年3月期の決算を発表。債務超過は6,790億円
    11月28日 栃木県知事に福田富一氏が初当選
     12月17日 福田知事が県産業再生委に望ましい受け皿を諮問
05年 3月30日 県産業再生委が、足利銀行の単独再生と地域銀行との合併の2案を併記して答申
    5月25日 05年3月期決算発表。最終利益は1,219億円
06年 5月24日 06年3月期決算発表。最終利益は1,603億円
    6月21日 県警が旧経営陣の立件断念を正式表明
   9月 1日 与謝野馨金融相が受け皿選定開始を宣言


*金融庁が例示した主な取り組み実績
 (04年3月末と06年3月末との比較)
◆法人融資先数        1万6,124→1万8,635
◆個人ローン残高      8,266億円→9,920億円
  (うち、住宅ローン    7,481億円→9,300億円)
◆個人預かり資産残高  1,400億円→3,857億円
◆役務取引等利益      113億円→131億円
◆行員数            2,628人→2,180人
◆人件費            204億円→197億円
◆物件費            239億円→183億円
◆有人店舗数         167カ店→150カ店

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