2024年 4月 24日 (水)

追悼・藤原伊織さん 「博打の借金」から生まれた直木賞

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「1000万円を返さなければ命を取られる」

   私がアメリカ電通でNYにいる時に電話がかかって来た。どうしても10月までに 1000万円を返さなければ命を取られる。江戸川乱歩賞が賞金1000万円で、それを取る自信はある。ついてはNYの地理、曲がりくねった交通事故の多そうな道路や5番街の様相などを教えてくれと。それが「テロリストのパラソル」になり、見事乱歩賞を取った。

   NYから帰った翌年の春、突然今晩付き合ってくれと言う。心細いから新宿のバーで直木賞の発表を待つのだが仲間がいる、と。「お受けします」と電話で頭を下げていた藤原の姿を今でも思い出す。

   昨年の秋、病院から電話があった。「ウチのカミさんには言わないで欲しいが、もう少し経ったらオランダに一緒に行ってくれないか」と。「苦しんで死ぬのは嫌だ。人間は尊厳死を保つべきだ。オランダは唯一尊厳死を認める国だから、英語が出来るあなたとカミさんと3人で旅立ちたい」。

   奥さんはそのことを知らなかったようだが、聞くと苦しまず静かに亡くなったと言う。確かに死に顔は安らかだった。

松島恵介(「365日映画コラム」担当)
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