2024年 4月 26日 (金)

「紙」にしがみつくほうが日本の新聞長生きできる
(連載「新聞崩壊」第8回/評論家・歌田明弘さんに聞く)

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紙を全部やめてネット移行すると、10分の1以下の収入になる

――新聞社は、紙媒体からネットにすべてを切り替えてしまうと、収入が大きく減ってしまいますね。

歌田   そうですね。現状では、日経以外はデジタル部門の収入は全体の1%あるかないかのようですから、紙を直ちに全部やめてネットに移行すると、おそらく10分の1以下の収入になってしまうでしょう。無料でアクセスする人が増えても広告価値はそんなには上がらないので、購読料を失えば、ダメージはきわめて大きい。

――かなり読まれていたとしても、お金は沢山取れない。

歌田    アクセス数だけで広告料が決まるとなると、苦しいでしょう。

   ただ、行動ターゲティング広告とか、無料にしても登録制を導入するなどして読者プロフィールがわかれば、新聞社サイトの利用者は比較的高収入の人が多いようですから、購買力のある人がアクセスしているということで広告料を高く設定することも可能になってくるかもしれません。

   ウォール・ストリート・ジャーナルのサイトの記事は有料のものが多いですが、有料でもアクセスしてくれる読者がたくさんいるということで、広告料金を高く設定できている。完全無料化してしまえば、広告料金を引き下げなければならないようなことも起こってくるようです。

――それは、「ウォール・ストリート・ジャーナルが経済紙だから」という、特殊要因があるようにも思えます。

歌田   経済や、サブカル、音楽といった分野や特定の世代・層に特化するなど工夫が必要でしょう。一般のニュースを扱うだけでは、厳しいでしょうね。

――朝日・読売・毎日のような大手でも、なかなか利益を生むのは難しそうですね。

歌田   おっしゃる通りです。そう考えると、経営的には、大手の新聞社が安易にネットに全面移行するなどというのは考え物で、発想としては後ろ向きでジリ貧かもしれませんが、紙媒体にしがみつくほうが結局は長く生き延びられるのかもしれません。

   ネットメディアは広告依存度が高く、そういう意味で不安定な要素が大きい。アクセス数を増やすためにきれいごとばかりを言っているわけにはいかないという側面もある。だから、経営的な意味だけでなく、質を保つという意味でも、購読料を捨てないことがさしあたり最大のリスク管理かもしれません。

   ネットに全面移行するなどというのは、新聞社にとってだけでなく、社会にとってもプラスではないでしょう。そうはいっても、経営的に苦しくなってくれば、広告などいろいろな面でいずれにしても質の劣化が起こってくる可能性は大きいわけですが。

――紙でできる限り粘って、ネット以外の、他のやり方を模索する?

歌田   いまさらネットを無視するわけにはいかないでしょうけれど、少なくとも大きな新聞社は、まだまだコスト削減の余地がじつはあるのではないかと思います。米国に比べれば購読もされ、韓国などとは比べものにならないぐらい日本の新聞は信頼されてもいるという恵まれた環境があるので、コスト削減できれば生き延びられる余地は大きいはずです。
   もっとも、自分たちが決めたルールが多くて、手を縛っているところもあるのではないかと思います。それでコスト削減ができないとなると、やはり危機は免れられないことになります。

   例えば、通信社の配信でカバーできるところはして、それでカバーできないところに集中するというやり方もあるでしょう。ただ、大手の新聞社は、まさに通信社のような仕事をする方向にいよいよ向かう可能性もあります。他メディアも含めた多くのサイトにニュースを配信する。新聞の購読者がいよいよ少なくなり、広告以外の収入源を求めるならば、ニュース配信会社になるというのもひとつの選択肢です。多メディア状況が出現しているわけですから、自社媒体だけに固執する必要はないし、実際のところそれは無理でしょう。

歌田明弘さん プロフィール
うただ・あきひろ 1958年生まれ。評論家。東京大学文学部卒業。青土社「現代思想」編集部、「ユリイカ」編集長をへて、93年よりフリーランス。アメリカ議会図書館の資料の編集などをする一方、メディアや科学技術をテーマにした執筆を中心に活躍。著書に「ネットはテレビをどう呑みこむのか?」「科学大国アメリカは原爆投下によって生まれた」など。「週刊アスキー」にコラムを連載中。

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