2024年 4月 27日 (土)

市民を巻き込んだ調査報道 こんなネットメディア目指す
「ピューリッツァー賞」受賞プロパブリカに聞く/創刊4周年記念インタビュー第6回

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   米ジャーナリズムの最高峰「ピューリッツァー賞」に2010年、インターネットメディアとして初めて選ばれたのが「プロパブリカ(ProPublica)」だ。調査報道にこだわる独自のスタイルを貫くプロパブリカは、どのようなオンラインメディアを目指しているのか、編集部に聞いた。

――プロパブリカの編集方針を教えてください。

プロパブリカ 「プロパブリカ」とはラテン語で「市民のために」という意味です。私たちは「政府や企業、その他公共の機関による、市民に対する権力の乱用や裏切り行為を暴きだす」を目標として掲げています。「強い者が弱い者を搾取する」実態に読者の興味をひきつける上で、私たちは「調査報道」の手法をとっています。

大手メディアに記事を有料配信

ピューリッツァー賞受賞の知らせが届き、喜びにあふれる編集部(写真提供:ProPublica)
ピューリッツァー賞受賞の知らせが届き、喜びにあふれる編集部(写真提供:ProPublica)

   例を挙げましょう。「葬られた秘密」という長期連載では、米国で行われている天然ガスの採掘が飲料水にどのような影響を与えるのかを明らかにすると同時に、石油業界の実態についても伝えています。2008年から取材、報道をリードしてきた結果、ニューヨーク州やコロラド州など複数の州が、採掘を規制する法律の制定に向けて動き出しました。

――調査報道は時間がかかり、それだけコスト負担も増えます。

プロパブリカ 「サンドラー財団」のように、何年にもわたって経済的支援を続けてくれている組織があるのは私たちにとって幸運です。組織の運営はもとより、元ウォールストリートジャーナル紙の編集長ら強力な「首脳陣」を外部から迎えることができました。今では、調査報道専門の編集部としては全米最大規模を誇ります。 
   もうひとつのカギは、大手テレビ局や新聞、雑誌、ネットメディアなど広く協力を得て記事を有料配信していることです。例えば、カリフォルニア州当局が免職処分や免許停止になっている大量の看護師を実際には処分せず、医療現場に勤務させたままにしていた問題に焦点を当て、ロサンゼルスタイムズ紙と共同で連載記事を制作しました。2009年にはこのような記事138本を、38の協力メディアに配信しています。
   米アリゾナ州立大学が2005年、全米の大手日刊紙100社にアンケート調査を実施したころ、「専任の調査報道担当記者ゼロ」との回答が37%に上りました。情報があふれている今日だからこそ、実際に起きたことから世の中の動きを理解する報道機関が必要なのです。

――オンラインメディアとして初めて、ピューリッツァー賞「調査報道」部門で受賞しました。

プロパブリカ 「メモリアル病院で下された死の決断」(注)という見出しの記事です。2005年8月、「ハリケーン・カトリーナ」に襲われたニューオリンズの病院「メモリアル・メディカルセンター」は洪水に見舞われ、停電と断水で患者たちがまともに治療を受けられない状態が数日間続きました。絶望的な状況で瀕死の患者たちに、医師や看護師は最終的に薬物を注射し、安楽死させる道を選びます。この「事件」を取り上げたのです

――なぜこの出来事に注目したのでしょう。

プロパブリカ この病院で実際に何が起こったのかは明らかにされていなかった。将来同じ過ちを繰り返さないために、なぜこのようなことが起きたのかを読者だけでなく議員たち、そして医学会は知る必要があると考えました。
   記事が掲載された後、医療専門家の間では、究極の非常事態に陥った際に何をすべきなのかが話し合われて、新たな指針づくりが始まりました。このようなインパクトを社会に与えることを、私たちは望んでいます。
   ピューリッツァー賞の受賞は、もちろん大変うれしい知らせでした。プロパブリカの名が広く知られるキッカケになったようですし、実際に多くの人から小口の寄付が寄せられるようになりました。

メキシコ湾原油流出で「市民ジャーナリズム」展開

編集長のポール・シュタイガー氏(写真提供:ProPublica)
編集長のポール・シュタイガー氏(写真提供:ProPublica)

――既存メディアとは違うプロパブリカの独自性はどこですか。

プロパブリカ テレビや新聞といった既存メディアとは協力関係にあり、業務内容や方法論には共通する部分もあります。しかしニュースメディアの多くは、1人の記者に1つの記事内容だけを追わせたり、たった1つの題材に半年以上もかけさせたりすることは不可能です。プロパブリカでは、記者が長期間の取材をまっとうできるように、必要な支援を惜しみません。

――では、その独自性を伸ばしてオンラインメディアとして成長するために、カギとなるのは何だと考えますか。

プロパブリカ ソーシャルメディアを重視しています。SNSの「フェースブック」やツイッターは有効だと思います。私たちのプロジェクトを読者に知らせるツールとして利用したり、読者同士がフェースブックで経験や意見を共有したりしています。ソーシャルメディアは、プロパブリカが目指す「市民ジャーナリズム」、つまり読者を巻き込んだ報道の形を実現する一助となります。
   市民ジャーナリズムの実践では、こんな事例があります。2010年4月に発生したメキシコ湾原油流出事故で「BPへの賠償請求プロジェクト」を立ち上げました。これは、大手石油会社のBPに賠償請求を行った人々に呼びかけて、その詳細を記者と読者で共有するもので、プロパブリカのウェブサイトにはさまざまな意見、体験談が寄せられています。フェースブックでも「特設サイト」で読者に情報提供を呼びかけると同時に、ツイッターへの投稿も促しています。
   ピューリッツァー賞を受賞したとはいえ、私たち自身に何か変化が起きたわけではありません。今まで積み重ねてきたことを、これからも続けていくのみですし、インパクトのある調査報道を心がけたいと考えています。

(注)原題は「The Deadly Choices at Memorial」。シェリー・フィンク記者は、ハリケーン・カトリーナがニューオリンズを直撃した2005年8月29日から、病院が絶望的な状況に陥っていく数日間の様子を、長編記事としてドキュメントタッチで描いている。停電と断水で悲惨な環境におかれ、治療が完全にストップして弱っていく患者たち。死を目前にした患者たちに対して「究極の選択」を迫られる医師、看護師たちの心の動きや葛藤、判断を下す様子を、多数の病院関係者の取材、証言を通して表現している。


プロパブリカ(ProPublca)
2007年に設立された、非営利のオンラインメディア。ウォールストリートジャーナルの元編集長ポール・シュタイガー氏が編集長を務める。調査報道を専門に、32人の専属記者を抱える。ウェブサイトほか、ソーシャルメディアやポッドキャストを活用する一方、大手メディアを通じて記事を配信している。編集部は米ニューヨーク・マンハッタン。

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