2024年 3月 29日 (金)

「陸には山津波、どこに逃げても災害は追いかけてくる」【岩手・花巻発】

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証言【3.11東日本大震災】倉沢トメさん(91)

(聞き手:ゆいっこ花巻支部 増子義久)


「供養が私の務めです」と語る倉沢さん=花巻市大沢温泉の避難先で
「供養が私の務めです」と語る倉沢さん=花巻市大沢温泉の避難先で

   今回の大津波で真っ先に思い出したのは今から75年も前の尾去沢の大惨事(注)のこと。鉱山の沈殿貯水池が決壊し、多くの人が死に家も流されてしまった。お父さんも鉱員だったが、住んでいた長屋が高台にあったので無事だった。東京で号外が発行されるほどの大ニュース。縄でつながった親子6人の遺体もあった。「バラバラになって死ぬより、一緒に…」と互いを固く縛りあったのだ。大人たちがそう話していたのを覚えている。その時、私は16歳だった。


   大槌出身の市右衛門さんと結婚したのは26歳の時。戦時中、神奈川県の軍需工場に徴用され、飛行機の部品を作っていた。満期になって秋田に帰る途中、汽車の中で北支(中国東北部)の戦地から一時帰国した市右衛門さんと一緒の席になり、その場でいきなりプロポーズされた。夫は戦後漁師になり、日本海でのイカ釣り漁やイルカの突きん棒漁で生計を立てていた。それが58歳の時、体調不良のまま漁に出ようとして、海に転落して帰らぬ人になってしまった。今生きていれば94歳になる。


   不幸は続くもんだね。父親の後を継いで漁師になった一人息子も海で死んでしまった。マスのはえ縄漁で投げ網を足にひっかけ、そのまま海に持って行かれてしまった。遠いソ連の方の海だった。当時はまだ38歳、もう30年以上も前のことだ。


   そうそう、チリ地震津波(昭和35年5月23日)の時は夫の両親と3人で自宅にいた。姑(しゅうとめ)は「地震のない津波は来たことがない」の一点張り。ところが、約1時間後に波が堤防を越えてやってきた。家の中は1メートル以上も水浸し。その前年、サンマがとんでもない豊漁だった。あちこちの加工場ではサンマを煮て、かすを肥料にするための作業が最盛期。その脂(あぶら)が家の中に流れ込んだもんだから、もう大変。タタミがつるつる滑ってすってんころりんだ。タタミも洗っては干しの繰り返し。住めるようになるまで何カ月もかかった。


   人生のほとんどが海を抜きには考えられない。夫と息子の命を奪った海だから、憎くないと言ったらウソになる。呪いたい気持ちになる時もある。でもねえ、尾去沢の惨事で分かるように陸(おか)には"山津波"(土石流)があるということ。どこに逃げても災害は追いかけてくる。そして、とどのつまりは今回の大震災。万を超える人たちが瓦礫(がれき)の下で犠牲になったり、海に流されてしまった。浮かばれない生命(いのち)が魂のかたまりになってこの辺りに漂っている。そんな気がしてならないの。


   若い人たちがたくさん死に私みたいな年寄りが生き残ってしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。でも、この人たちの供養をするために、と神様が命を授けてくれたのだと思うことにしている。お盆になれば私の肉親だけでなく、今回犠牲になった人たちもまたきっとこの浜に戻ってくる。その魂を迎える者がいなかったら…。だから、私は流された家の近くの仮設住宅に入ることにしているの。これが私の残された人生の務めなんだと自分に言い聞かせている。

(注)「尾去沢の大惨事」
1936年(昭和11年)11月20日午前3時頃、秋田県鹿角郡尾去沢町(現鹿角市)の三菱鉱業株式会社尾去沢鉱山中ノ沢精錬所にある硫化泥沈澱貯水池の堤防(高さ40尺)が、数日来の降雨による増水のため決壊した。下流の集落が泥流に埋没、死者・行方不明者計362人、被害戸数293戸を出す大惨事となった。朝日新聞は事故当日、号外を出し「尾去沢鉱山の堤防決潰」「奔逸する泥流の怒涛」「死傷一千余名を出す」「凄惨・点々死体流る」…などと惨状を伝えた。

ゆいっこは民間有志による復興支援組織です。被災住民を受け入れる内陸部の後方支援グループとして、救援物資やボランティアの受け入れ、身の回りのお世話、被災地との連絡調整、傾聴など精神面のケアなど行政を補完する役割を担っていきたいと考えています。
岩手県北上市に本部を置き、盛岡、花巻など内陸部の主要都市に順次、支部組織を設置する予定です。私たちはお互いの顔が見える息の長い支援を目指しています。もう、いても立ってもいられない───そんな思いを抱く多くの人々の支援参加をお待ちしています。
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