2024年 5月 2日 (木)

議論や検証しなかった「一国平和主義」 「脱原発」の主張はそれに似ている/ジャーナリスト田原総一朗さんに聞く(上)

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   福島第1原発事故を受け、ジャーナリストの田原総一朗さんが30年以上前に出した2冊の原発関連本が再び注目を集め、復刊された。当時の取材を通じ、「原子力発電は危険な代物である」と痛感したという田原さんが今、「『脱原発』は60年安保に似ている」と警鐘を鳴らしている。

反対の考えを持つ人たちの意見も聞くことが必要

「批判だけではだめで、『ではどうするか』を考えないといけないと思う」と話す田原総一朗さん。
「批判だけではだめで、『ではどうするか』を考えないといけないと思う」と話す田原総一朗さん。

――原発に関する世論調査で、例えば朝日新聞(2011年12月13日付の朝刊)では、「段階的に減らし、将来は、やめることに賛成ですか。反対ですか」との質問に対し、賛成が77%、反対が16%という結果が出ています。「脱原発」を望む声が多い現状について、どう受け止めていますか。

田原 今の世論調査の例で言えば、「将来は…」という漠然とした質問であり、原発をやめる年限を区切っているわけではないので、いろいろな意見があっていいと思っています。
   例えば、「20年後に」などと年限を区切って「原発を全廃すべきか」という質問なら、現実的な数字を挙げて可能なのか不可能なのかを議論しなければなりません。もっとも、今の状況では、これから少なくとも10年、20年先までは原発の新設は無理です。

――改革派官僚として知られ、2011年秋に経済産業省を辞めた古賀茂明さんと田原さんとの最近の対談本「決別!日本の病根」(アスコム)などで、田原さんは、「脱原発」や「反原発」について、「60年安保に似ている」「一国平和主義だ」と指摘されています。

田原 まず、私は決して原発推進派ではありません。そもそも、これから10年、20年は原発新設はできないのですから推進しようがない。以前に原発の本(復刊した「原子力戦争」と「ドキュメント東京電力」)を書いたときに、原発は危険だと思ったし、今でもそう思っています。
   しかし、「脱原発」を唱えるだけで、代替エネルギーの真剣な議論や事故原因の検証などもしようとしない姿勢で突き進むのは、ある意味怖いことです。「危険だからだめ」の一点張りではなく、自分たちと反対の考えをもっている人たちの意見も聞き、議論することが必要なのです。
   議論や検証をしようとせずに、また、国際情勢に目を向けようとしない姿勢は、かつての一国平和主義や60年安保を連想させます。
   60年安保は、私も当時、毎日のようにデモに参加しました。実は日米安全保障条約の「改善」だったのですが、当時は条約の中身を検討するようなこともせず、感情的に、当時の岸信介首相が日本を戦争に引きずり込むために安保条約を改悪しようとしている、と思い込んでいました。

10年、20年の期間に限れば「代替」は無理

――「脱原発」の意見は無責任だ、というわけではないのですか。

田原 「遠い将来に」という意味ならそういう意見はあって良いのです。ただし、「脱原発」を現実的に議論する際に2つ問題があります。
   ひとつは、「脱原発」をするなら代替をどうするかという問題です。
   仮に原発をゼロにするならば、その分の電力をどう代替するかをきちんと示す必要があります。自然エネルギーの開発を進めればいい、という人がいますが、10年、20年の期間に限れば「代替」は現実的な話ではありません。
   かつてはそういう希望がもたれた時期もありました。しかし、今では自然エネルギーにそんな大きな期待は持てないとエネルギーの専門家らは指摘しています。省エネをするにしても限界があります。
   当面は、石油など化石燃料の割合を増やすなどして乗り切るしかないでしょうが、化石燃料の場合、際限なく増やせるわけではありません。二酸化炭素の排出削減を完全に頓挫させていいのか、という視点も出てきます。

――ふたつ目の問題点は何ですか。

田原 仮に日本が近々、「脱原発」を実施したとしても、今ある原発の使用済み核燃料をどうするのか、という問題は残り、「一件落着」とはなりません。中間処理も最終処理も解決できていないし、これは世界中の課題でもあるわけです。
   日本は、こうした世界的な課題解決に貢献しなくていいのでしょうか。日本だけが近い将来に「脱原発」をしたところで問題は消えません。他人事ではないのです。

<田原総一朗さん プロフィール>

たはら そういちろう 1934年生まれ。早稲田大学文学部卒業。岩波映画製作所、テレビ東京を経て、77年からフリーに。「朝まで生テレビ!」(テレビ朝日系)などでテレビジャーナリズムの新しい可能性を切り開いたと評されている。98年、「放送批評懇談会35周年記念 城戸又一賞」を受賞。現在、早稲田大学特命教授で、同大学の「大隈塾」塾頭も務める。「激論!クロスファイア」(BS朝日)に出演中。

   著書に「日本の戦争」(小学館)、「日本政治の正体」(朝日新聞出版)など多数。近著に「田原式つい本音を言わせてしまう技術」(幻冬舎)、「なぜ日本は『大東亜戦争』を戦ったのか」(PHP研究所)、「Twitterの神々」(講談社)、「誰も書かなかった日本の戦争」(ポプラ社)などがある。

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