2024年 4月 28日 (日)

貯金と「かんぽ」はやっていけるのか 郵政法案が成立しても悩みは深い

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   民主、自民、公明の3党が議員立法で共同提出した郵政民営化法改正案が2012年4月6日、衆議院郵政改革特別委員会で審議入りした。今国会で成立する見通しで、政府は日本郵政株を売却し、震災復興財源に充てたい考えだが、日本郵政グループの経営に展望が開けるかは見通せない。

   小泉政権時代の2005年10月に成立した民営化法は、持ち株会社の日本郵政の下に「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命保険」、郵便配達を行う「郵便事業」、窓口業務の「郵便局」の4事業子会社を置き、政府は持ち株会社株の3分の1超を保有する一方、持ち株会社が保有する「銀行」「生保」の株式は2017年9月までにすべて売却するよう義務づけ(2009年の政権交代後に凍結)。

金融2社株の「完全売却」を断念

   今回の改正案は、金融2社株の売却方針を「全てを処分することを目指す」と、努力目標に格下げし、処分期限も明記していない。また、郵便局と、郵便事業の2社を合併し、グループは現行5社から4社体制に再編される。そうなれば郵便事業と郵便局の2社合併で業務の壁が取り払われ、効率化するという効果もさることながら、なんといっても今回の改正案の最大のポイントは、金融2社株の「完全売却」の断念、つまり2社をグループに残す点だ。

   理由は単純。郵政グループは郵便事業の採算が悪化し、収益面で金融事業依存がいよいよ強まっているのだ。2011年3月期でみると、郵便局会社の営業収益1 兆2563億円のうち、ゆうちょ銀行からの受託手数料収入が約6300億円、かんぽ生命から約4000億円と金融2社で営業収益の約8割を占めている(郵便事業会社からの手数料は約2000億円)。

「官業による民業圧迫」との」批判消えず

   ところが、肝心の金融2社の行方が覚束ない。貯金とかんぽの残高は2007年10月の計337 兆円が、2011年末には288 兆円まで減っている。もちろん、運用難の昨今、運用能力を超える資金はリスクを高めることになるから、残高は多ければ良いとは限らないが、郵政の場合、資産の7~8 割を利回りの低い国債で運用しており、一定の規模は必要で、現在のコスト構造のまま貯金だけの残高が150兆円を割ると赤字に陥るとされる。

   一方で、国債による運用は、安定性に優れる半面、収益力は乏しく、金利の上昇局面では利ざやの縮小、さらに保有する国債価格の下落に伴う含み損の発生というリスクもはらんでいる。

   そこで、運用の多様化が「郵政が生きていく上で不可欠」(総務省筋)になる。国債を買うだけでなく、融資等の新規業務をいかに拡大していくか、ということだが、これが簡単ではない。

   新規事業として具体的に考えられるのが、ゆうちょ銀行では住宅ローン、かんぽ生命ではがん保険など「第3分野」といったもので、要は、民間銀行と同等の事業をできるようにしたいというのが郵政の悲願だが、国の関与が残る以上、「官業による民業圧迫」との批判は免れない。

全国銀行協会は新規業務の届け出制に反対

   今回の改正案は、株式が半分以上売却されれば、新規業務の規制を認可制から届け出制に移行するとしているが、届け出制に全国銀行協会などは 「一定の政府関与を残したまま業務範囲を拡大することは民業を圧迫する」と、届け出制に反対を主張(3月30日)。 米通商代表部(USTR)も4月2日提出した2012年版貿易障壁報告書で、「日本の金融市場の競争に深刻な結果を招く恐れがある」と懸念を表明し、「競争条件を民間と等しくするよう、日本政府はあらゆる手段を講ずべきだ」と釘を刺している。

   日本郵政グループの民営化状況を審査する郵政民営化委員会(委員長・田中直毅国際公共政策研究センター理事長)も、金融2社が完全民営化されず、政府が経営に関与し続ける場合は「民間金融機関並みの幅広いサービスは認められない」として、事業規模の縮小を求める意見書を発表している(3月7日)。

   財務省によると2010年度末時点で政府が保有する日本郵政株は約8.4兆円で、3分の2を売却すると5.5兆 円の財源が生まれる計算。しかし、「収益を上げられなければもっと安くしか売れない」(金融筋)との声もある。震災復興財源など少しでも多い財源確保と、民間や米国からの民業圧迫批判の狭間で、政府の苦悩は深い。

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