2024年 4月 28日 (日)

「総理の要請は無視できない」 アベノミクス賃上げは「まだら模様」

   今回の春闘は2013年3月13日、自動車・電機メーカーの集中回答日を過ぎ、山場を越した。給与体系を底上げするベースアップ(ベア)はもともと組合側が要求しておらず、一時金(ボーナス)が焦点だったが、自動車大手を中心に満額回答が相次いだ。

   安倍晋三政権の経済政策(アベノミクス)で期待された報酬増が一応は果たされた格好だ。だが、業績格差が大きい電機業界で足並みがそろわなかったほか、中小企業や非正規従業員への広がりは限定的で、多くの人が報酬アップを実感できるかは不透明だ。

トヨタは組合要求通り、「年間一時金205万円」と満額回答

   春闘相場に最も影響力を持つとされるトヨタ自動車は、組合の要求通り、「年間一時金205万円」と満額回答した。自動車大手8社ではマツダを除く7社が満額回答。マツダも12年支給実績に比べれば1カ月分(基本給)のアップだ。

   輸出産業の4番バッターである自動車はアベノミクスの恩恵を受ける代表的な業界だ。2月上旬までに各社が発表した、安倍政権発足後の円安傾向による営業利益の押し上げ効果は2013年3月期に8社で計3000億円程度にも上る。安倍首相や麻生太郎財務相から国会審議などを通じて重ねて「業績の良い企業は従業員の報酬アップを」との要請が発信されているのを無視できない立場にあった。実際、回答を終えて13日に会見したトヨタの宮崎直樹常務役員は「(安倍政権の要請は)重要な判断要素の一つと考えている」と述べた。

   電機産業も円安は業績回復に効果があるものの、個別の業績はまだら模様で、それが春闘の回答にも反映した。経営再建途上のシャープの組合は、主要メーカー労組が参加する「電機連合」の統一要求(年間一時金は最低で基本給4カ月分)も無理と判断し、初めて離脱した。

報酬アップが実現するのは大手企業の正社員だけ

   半導体のリストラなどを迫られ、2013年3月期に950億円の最終赤字に転落する富士通は定期昇給の実施延期について組合と交渉に入る。パナソニックも13日に定昇維持と業績連動の一時金支給を回答したが、これとは別に数パーセントの賃金カットを組合に新たに申し入れた。インフラ事業などが好調で一時金の回答が5.35カ月分と1991年以来の高水準となった日立製作所などと明暗が分かれる形となった。

   自動車・電機に先立って報酬アップに動いたのが流通各社。コンビニエンスストア大手のローソンが20代後半から40代の「子育て世代」の一時金増額で年収3%アップと表明したのが先鞭となり、セブン&アイ・ホールディングスはグループ54社の正社員約5万3000人を対象にベアを含む賃上げに踏み切る。ファミリーマートやニトリなどもベアなどで報酬増を図る。各社とも共通して「消費意欲を後押しして業績アップにもつなげたい」と狙いを語っている。

   ただ、報酬アップが実現するのは大手企業の正社員に限られ、一見、景気良く大盤振る舞いに見える流通業などは、パートなどが多い業種。1990年代後半から全体の名目賃金が下がり続けているのは、これと反比例する形で非正規従業員が増加しているからに他ならない。一部の正社員が潤うだけでは消費増には力不足。非正規や中小企業の待遇改善がないまま、「黒田日銀による異次元の金融緩和」で物価が上がるような事態が起きれば、「アベノミクスの悲劇」となりかねない。

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