2024年 4月 27日 (土)

津波が気づかせてくれた人生で一番大切なもの【岩手・陸前高田発】

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陸前高田市消防署。うしろに見えるのは陸前高田市市民体育館(2012年6月撮影)
陸前高田市消防署。うしろに見えるのは陸前高田市市民体育館(2012年6月撮影)

   津波は一瞬で家や家族を奪いました。家を失うことは生活の基盤となる場所を失うだけではなく精神的な基盤を失うことも意味しています。つまり、家を失うことは、家や家財を無くしただけではなく、家族の巣・歴史・ルーツ・心のよりどころを失うことなのだと思います。

   被災者の方々は家を無くしたショックだけではなく、日常生活の中で、些細なものが津波で流されたことに気がついた時にも精神的ショックを受けるのです。例えば、仮設の台所でお料理をしている時に、今まで少しずつ買い揃えたお料理の道具が無いことに気がつきます。「パン作りが大好きだったのにオーブンが無い」「おすしを作ろうと思ったが巻き簾が無い」「お鍋をしようと思ったときに土鍋がない」「使い勝手の良かったお鍋が一つも残っていない」等。そういうことに気付くたびに苦しくなるとある方は話してくださいました。このような日々の中での小さなショックの積み重ねは、被災者の心を何度も何度も傷つけてきたのです。それでも被災者の方々は、崩れ落ちそうな気持ちをなんとか支え、くじけずに暮らしてきました。

   それでも今年になると「2年たつと少しずつ気持ちが落ち着いてきて、『あ~津波が持ってったんだな~』と、そんなに気分を落とすことなく暮らせるようになりました」と話してくださった方々もいらっしゃいました。しかし、自分の心を納得させる作業は忍耐と努力が必要です。その辛い作業は、あの日からずっと続いているのです。

   津波の後、物質的なものの存在価値にばかり目が行くわけではなく、家族の存在や関係を改めて感謝した方々も多かったようです。70代後半のUさんは、津波の時に寝たきりの妻をやっと背負い裏山にあがって一命を取り留めました。家は半壊し、半年後に修理をして戻りましたが、Uさんの奥様は手術が必要になりました。陸前高田では設備の整った病院が無く、寒く雪の多い季節に、車で3時間ほどの病院にUさんの奥様は入院し、長い冬の間Uさんは看病のために、その病院を週に何回も通っています。Uさんは「津波の後、奥さんのこと前よりももっと大事で愛おしい存在だな~と思ったな…だから、早く治って家に帰ってきて欲しいて思うんだ。でも、病院で寝ている奥さんに、その気持ちをなかなか言えなくて…喉のここまで来ても言えないんだ…」と話してくれました。それからUさんは坂本冬美の「また君に恋してる」のCDを奥様に贈ることに決めました。苦しく不条理な災害の後で、Uさんは、Uさんの人生にとって何が一番大切なのかを再確認したのではないでしょうか。津波は人々から何を奪い、何をもたらしたのでしょうか?

(佐藤 文子)



佐藤 文子
臨床心理学博士・メンタルヘルスカウンセラー・アートセラピスト。多摩美術大学大学院卒業後、米国で臨床心理学博士・心理学修士・アートセラピー修士を取得。アメリカで臨床経験を積み、2010年帰国。元シアトル医療評議員。2012年より、陸前高田市緊急支援カウンセラーとして、カウンセリング・心理教育・子育て支援・教育講演などを行う。陸前高田市の鵜浦医院でもコンサルテーションを実施している。

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