2024年 5月 4日 (土)

高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 
センス疑う「諮問会議」案 「GDP600兆円」これでは無理

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   新アベノミクスがわかりにくいという。たしかに、「一億総活躍社会」というネーミングはどうか。また、新3本の矢として、名目GDP600兆円、出生率1.8、介護離職ゼロがあるが、これらは「矢」(手段)ではなく、「的」(目標)である。

   前のアベノミクスの3本の矢は、政策手段としてはオーソドックスで、金融政策と財政政策というマクロ政策、それに規制緩和(成長戦略)というミクロ政策からなるものだ。これは世界どこでも標準的なもので、代えようがない。つまり、普通に考えれば、これらの政策手段を使って、達成すべき目標が「新3本の矢」になる。

  • 新アベノミクスの行方は(画像は2015年10月6日撮影)
    新アベノミクスの行方は(画像は2015年10月6日撮影)
  • 新アベノミクスの行方は(画像は2015年10月6日撮影)

各省庁の「短冊」の寄せ集め

   ここで、最重要の目標は名目GDP600兆円だ。社会保障の話は、ほとんど財源論に行き着く。社会保障は、市場原理があまり働かないので、基本的には財政支援が必要な分野だ。民間経済を活用するものの、その背後には財政支出が求められる。例えば、介護士や保育士の給料が低すぎるという問題も、放置しておけば、そのうち人手不足になって自ずと給料が上がる、というわけにはいかない。

   名目GDP600兆円の達成のために、経済財政諮問会議で出てきた案は、ちょっとセンスを疑ってしまうものだ。11月11日(2015年)の会議に出された民間議員4人の連名の「GDP600兆円の強い経済実現に向けた緊急対応策について」をみると、そのダメぶりがわかる。

   筆者はかつて小泉政権の時、この民間議員ペーパーを書いていたが、その際メッセージ性を強調するために、文章は短く、文章1枚、資料1枚で、文の文字数は600字程度にした。

   ところが、昨(11)日の民間議員ペーパーをみると、資料抜きで細かな字で3枚、文字数は2400字。これでは何が言いたいのかわからない。内容も、役人ベースで各省からの要求を短い文章でまんべんなくまとめたものだ。こうした形式の文章を、「短冊の寄せ集め」という。七夕に願い込めて短冊を書くが、各省も自省の要求が通るように「短冊」を書いて、内閣府に出し、内閣府の事務方が、それら「短冊」を寄せ集めて、ペーパーを作るからだ。

有効需要の創出が少ない

   今回の短冊の寄せ集めの中にも、小粒だがいいものもある。103万円、130万円の壁の原因となっている税・社会保険、配偶者手当の見直しなどはいい指摘だ。ただし、名目GDP600兆円にする大きな話がない。

   名目GDP600兆円は、中短期の目標であるので、金融政策と財政政策で有効需要のかさ上げで達成すべきと考えるのが、経済学のセオリーだ。

   たしかに、潜在成長率を高めるのは長期的には必要であり、そのために規制緩和は景気にかかわらず必要な政策だ。ただし、中短期で規制緩和の効果は出ない。このため、規制緩和を継続的に行うのは正しいが、それが景気対策になると思わないほうがいい。中短期には、やはり有効需要創出が重要であり、そのために金融緩和と財政支出が必要である。この意味で、政府の対策は、有効需要の創出が少ないので問題である。

   何よりアベノミクスの円安によって外為特会の含み益20兆円、失業率低下によって労働特会の差益5兆円がある。まず、これを国民に還元して、有効需要を財政支出(含む保険料軽減と減税)によって創出すべきである。

   この第一歩がないと、経済はうまく回らない。もちろん、2017年4月からの10%への消費再増税は不可である。こうした方針が政府では議論されていない。ここが新アベノミクスの最大の問題である。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)、「『まやかしの株式上場』で国民を欺く 日本郵政という大罪」(ビジネス社)など。


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