2024年 4月 26日 (金)

大阪に万博で恩を売る作戦? 「前向き」政府が期待するコト

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   2025年開催の国際博覧会(万博)の誘致に向けた動きが本格化している。大阪府が基本構想をまとめたのに呼応し、政府も前向きな検討を始めた。実現すれば、大阪での万博は1970年以来、半世紀ぶり2度目になる。地域経済浮揚、東京五輪後の経済効果と、狙いはいろいろに語られるが、憲法改正に向け、大阪府政を握る日本維新の会を取り込もうという安倍晋三政権の思惑も見え隠れする。

   府は16年10月28日、有識者らによる府の検討会議に基本構想案を示し、了承された。それによると、テーマは「人類の健康・長寿への挑戦」。大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)の約100ヘクタールを会場に、25年5~10月の会期中に3000万人以上の入場を見込む。開催費用は2000億円規模で、うち会場建設費は1200億~1300億円。690億~740億円と見積もる運営費は、入場料やライセンス使用料などで賄う方針。経済波及効果は約6兆4000億円と弾いている。

  • 大阪での万博実現なるか(写真はイメージ)
    大阪での万博実現なるか(写真はイメージ)
  • 大阪での万博実現なるか(写真はイメージ)

年度内の閣議了解も「大いにあり得る」

   中心施設のテーマ館は、未来の「健康・長寿社会」が実感できる内容とする。日本の出展ゾーンでは、健康・長寿社会を実現する製品やサービスを提案する場として、伝統的な日本の住まいに新しい技術を結集する「滞在型究極健康ハウス」や、来場者が身に着けたウェアラブル端末で健康状態をチェックできる未来の街「健康スマートタウン」などを例示している。

   ただ、万博は、自治体(都市)が開催する五輪とは違って政府が立候補の主体のため、府は政府に働きかけを繰り返していた。府の熱烈なコールに、安倍政権も前向きだ。9月28日、衆院代表質問で維新の馬場伸幸幹事長の質問に、安倍晋三首相は「地方を訪れる観光客が増大し、地域経済が活性化する起爆剤になることが期待される。しっかり検討を進める」と、最大級の答弁をしている。

   松井知事と親しい菅義偉官房長官が経産省に早い段階から検討を強く指示したといわれ、菅長官は、府の基本構想が発表された10月28日の記者会見で「(構想を)具体化し、他国と競争できるような内容にすることが求められている。しっかり検討を進めたい」と明言。今後、経産省が有識者らの検討会を設置し、招致の勝算や経済効果などを検討することになるが、政府関係者の間では、府が目標とする今年度内の閣議了解も「大いにあり得る」とささやかれる。

「東京五輪後の景気落ち込みをカバー」の思惑も

   府の狙いは、本社機能の東京移転の進展など地盤沈下が進む関西経済の浮揚だ。大阪都構想を掲げる維新の会と松井知事は、東京一極集中らの脱却を主張しており、万博を東西の「2極化」へのきっかけと位置づけている。夢洲の開発促進へ、鉄道をつなぐなどのインフラ整備を進めるとともに、万博への観光客誘致で関西全体への波及効果も見込む。

   他方、安倍政権が前向きなのは、2020年の東京五輪後の景気落ち込みを万博誘致でカバーしたいとの判断があるとみられる。五輪会場建設やインフラ整備などの巨額投資の反動が懸念されることから、万博への新たな投資が景気を下支えすると期待している。1964年の前回東京五輪から6年後の1970年に大阪万博を開催したことが高度経済成長を後押しした、との「成功体験」の再来を狙っているというわけだ。

   政治的な思惑も指摘される。維新の会は大阪都構想に続く成長戦略として打ち出したのが万博誘致で、2015年の地方選のマニフェストにも掲げた。しかし、同年の住民投票で都構想が否決されたことから、これに代わる大きな看板として万博だけが残る形になっている。大阪府はカジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致にも熱心で、松井知事は「万博とIRの相乗効果」を語る。夢洲は、カジノの候補地とも位置付けられる。

   安倍政権が誘致を後押しするのは、首相が悲願とする憲法改正を見据え、維新を引きつけておきたいとの思惑もあると指摘される。16年7月の参院選で「改憲勢力」が衆参各院で3分の2を超えたことを背景に、大阪が発祥地の維新との連携を一段と強めるため、「万博で恩を売る作戦」(護憲の野党関係者)というわけだ。

関西経済界の空気の変化

   こうした狙い、思惑はさておいて、現実の壁として大きく立ちはだかるのが費用の問題だ。

   松井知事は、1200億~1300億円の会場建設費について、「(負担割合は)国と地元自治体、財界で3分の1ずつが基本的な考え方だ」とし、自治体分については「府と大阪市でそれぞれ200億円となる」と語っている。なかでも最大の焦点は財界分だ。経済界は総論として万博に期待し、または理解を示すが、実際の資金拠出には慎重論も根強い。

   当初、慎重と言われた関西経済連合会(関経連)は、森詳介会長(関西電力相談役)が11月11日の会見で、「関経連が中心となって(仕組みを)作る気概を持ってやっていきたい」と述べ、地元では「積極論に転じた」と報じられている。府は企業に負担を割り当てる「奉加帳方式」を取らない方針を打ち出しており、五輪のようなスポンサー方式などを検討するとされることから、経済界も態度を軟化させたようだ。

   同じ会見で森会長は「安倍首相が『万博についてしっかり検討を進める』と表明された。誘致する大きな枠組みが整ったと受け止めている」とも語っており、「安倍一強」の下、「経済界が足を引っ張る形になるのを避けるとの判断」(全国紙社会部デスク)もあるとみられる。

   ただ、費用が膨張して批判されている東京五輪の例もあり、財政難が深刻な府・市が巨額の費用を負担することの是非も厳重な吟味が必要だ。なにより、「現時点の構想には(略)魅力やアイデアに乏しい感は否めない」(10月29日「読売」社説)と指摘される基本構想にどう肉付けし、住民の期待を高め、理解がえられるかが、大きなポイントになる。

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