2024年 4月 27日 (土)

エンゲル係数「上昇」の深層 「生活苦」と「食のプチ贅沢化」の関係

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   家計支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」の上昇が話題になっている。安倍晋三政権の経済政策であるアベノミクスの期間と重なる2013~2016年まで4年連続で上昇しているのだ。教科書的には生活の豊かさに反比例、つまり、低いほど豊かと説明される指数の上昇をどう読み解けばいいのか。

   総務省の家計調査(2017年2月発表、速報値)によると、16年(2人以上世帯)のエンゲル係数は25.8%と前年比0.8ポイントアップし、1987年(26.1%)以来29年ぶりの高水準を記録した。

  • エンゲル係数は上昇している(画像はイメージ)
    エンゲル係数は上昇している(画像はイメージ)
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家計支出と食費の関係

   そもそもエンゲル係数は19世紀のドイツに社会統計学者、エルンスト・エンゲルが論文で発表したもの。家計の支出のうち、酒やたばこに代表される嗜好品は削れても、米や野菜など食費は削るにも限度があるので、エンゲル係数が高いほど生活が苦しいという傾向がみられる、という理屈だ。実際、2016年の数字でも年収とエンゲル係数は、反比例の関係を示している。

   歴史的に見ても、戦後1946年の66.4から復興、高度成長に伴って急降下し、70年代以降は徐々になだらかな傾斜になりながら、2005年に22.9%まで下がって最低を記録した。しかし、その後は上昇基調に転じ、12年までは毎年0.1ポイントずつくらいの上昇だったのが、13年の23.6%から14年24.0%、15年25.0%、そして16年の25.8%へと上昇ピッチを速めている。

   ここにきての上昇の原因として、まず挙げられるのが、生活が厳しくなっていることだ。総務省が2014~16年の上昇幅計1.8ポイント分の要因を分析したところ、半分の0.9ポイント分が食料品の値上がり。消費税率の引き上げ(2014年4月)のほか、アベノミクスによる円安で輸入食品の価格が上がって食品メーカーが値上げに踏み切ったからだ。

   加えて、残りのうち0.7ポイント分が消費支出そのものの減少。2016年の消費支出は28万2188円で、物価変動の影響を除いた実質で前年比1.7%減と3年連続マイナスになっている。

手取り伸び悩みと物価上昇

   少し詳しく世代別に見ると、高齢化の進展で高齢者世帯が増えていることがエンゲル係数を押し上げていることが分かる。教育費などがなくなって食費が支出の中心を占めるようになる一方、収入は現役時代より減るからだ。2016年の無職の高齢夫婦(夫65歳以上、妻60歳以上)のエンゲル係数は1.7ポイント増の27.3%と、それより若い年代を上回っている。

   現役世代はというと、2015、16年と2年連続で収入が増えたものの、社会保険料の増加などで手取りが伸び悩んでいて、エンゲル係数を押し上げる一因になっている。

   アベノミクスのシナリオは、金融緩和で円安を進め、企業業績を回復させ、賃金も上げ、円安と相まって物価上昇させ、デフレを脱却するというもの。円安とそれによる食料を中心とした輸入物価上昇は生きたが、賃上げが低迷しているため、収入減と物価上昇という入りと出の両面でエンゲル係数上昇に作用した面があるといえそうだ。

   さらに、非正規労働者の増加で収入が不安定になり、食事も満足にとれない子どもの増加などが社会問題化しているが、「住居費は家を追い出されるのでカットできない分、食費を極限以下に切り詰め、『食べられない子ども』が増えているほか、少ない収入でもスマホなどに金がかかる分、食費を極端に抑える若者もいる。エンゲル係数の数字以上に個々には深刻な事例もある」(大手紙経済部デスク)。

   もちろん、すべてを「生活苦」で説明できるわけではない。「調理品」が消費支出に占める割合は2016年で3.4%と、過去30年で2倍近くに増えている。高齢化や共働き世帯の増加で、総菜などを利用する人は増えているということだ。日本総研のリポート(2017年3月1日「リサーチアイ」)は、調理品のほか飲料、乳卵類、油脂・調味料が増加していることを挙げ、これらには高付加価値品、嗜好品も多いことから、「家計のプチ贅沢の対象として『食』が浮上している」と指摘し、前向きな消費もエンゲル係数上昇に一役買っていると分析している。

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