2024年 5月 7日 (火)

雷雨の日にぜんそくの発作が悪化する謎 死者まで出る恐怖のメカニズムが判明

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   雷雨になるとぜんそくが急激に悪化し、死亡する人が続出する。――近年、こんな恐ろしい現象があることがわかってきたが、米ジョージア大学の研究チームがメカニズムを突きとめ、気象学専門誌の「American Meteorological Society Journals」(電子版)の2017年4月19日号に発表した。

   そうでなくても雷雨の日は怖いのに、ぜんそくを持つ人はどうしたらいいのだろうか。

  • ぜんそくの人は雷雨に注意
    ぜんそくの人は雷雨に注意
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豪州で死者が3人、救急要請が4時間で1900回

   ことの発端は2016年11月、豪州のビクトリア州で雷雨によってぜんそく症状が悪化する人が続出、少なくとも3人が死亡する事故があった。同年11月24日付のCNNニュースによると、南部ビクトリア州では激しい雷雨のあった21日、ぜんそくの発作で数百人が病院の救急診療を受けた。4時間のうちに救急要請は約1900回に上り、通常より60台多い救急車や警察、消防が対応に当たった。

   豪州のぜんそく関連財団で理事長を務めるロビン・オールド氏は、CNNの取材に対しこう語っている。

「雷雨ぜんそくは、ライグラスというイネ科の植物の花粉が多く飛散している時期に嵐が重なると発生します。大量の発作患者が出た時期も非常に多くのライグラスの花粉が飛んでいました。激しい雷雨が起きると湿度が急に高くなり、花粉の粒子が水分を含み細かく割れるのです。通常なら花粉は鼻の中の毛に引っかかりますが、細かくなると肺まで到達します。そして、気管支が花粉に刺激されて腫れ上がり、呼吸困難に陥るのです」

   メルボルン大学が2500人超を対象とした調査によると、今回の雷雨ぜんそくの患者の中には、ぜんそく発作が初めてという人が多く、嵐の最中にぜんそく発作に見舞われた人のうち32%はそれまで発作を起こしたことがなかった。また、死者こそ出なかったが、イタリアでも2010年にオリーブの花粉が原因で「雷雨ぜんそく」が発生している。

   さて、ジョージア大学の4月19日付プレスリリースによると、同大学の地理学・気象学の専門家アンドリュー・グルトシュタイン教授らのチームは、豪州での気象データの分析や研究室での実験の結果、「雷雨ぜんそく」は次のようなメカニズムで起こることを突きとめた。

豪雨と雷の電気で花粉が噴射現象を起こす

   (1)雷雨の前に吹き抜ける風や強風が、ぜんそくの原因となる多くの花粉やカビ、キノコの胞子を空中に舞い上がらせる。

   (2)続いて急な降雨が湿度を上昇させ、水を吸い込んだ花粉粒子が細かく分解・破裂し、さらに空中に飛散する。特にライムグラスの花粉粒子にその傾向がみられる。

   (3)そこへ、雷の発生による電気的な力学が加わり、花粉の断片化を促進し、「バイオエアゾール現象」が発生する。エアゾールとは殺虫剤などでおなじみの「霧状の噴射」だ。「バイオエアゾール」とは、花粉やカビなどの超微細な生物の粉末が激しく霧状に噴射する現象をいう。

   (4)こうして嵐の通過とともに、大量に噴射する花粉やカビなどの粉じんをぜんそく患者は肺の奥まで吸い込み、激しい発作に襲われる。

   グルトシュタイン教授は今回の結果について、こう語っている。

「雷雨ぜんそくの発症は、非常に複雑な現象です。しかし、私たちの研究は雷雨の発生時期が予測できれば、どのくらいの大きさの嵐になるかによって、雷雨ぜんそくの発症率を予測し、医療機関が準備態勢に入ることに貢献できるでしょう。また、ぜんそくを持つ人々に警告することにも役立ちます」

   ところで、ライグラスはヨーロッパ原産の植物だが、明治時代に日本にやってきて、「ネズミムギ」という名前で全国各地に野生化している。花粉が飛ぶ時期は4~8月だ。日本では大丈夫なのだろうか。今のところ「雷雨ぜんそく」の発症例はないようだ。ただ、台風などの嵐の時や、つゆなどの湿度が高い時期はぜんそくの発症が多いことは指摘されている。

   医師が執筆する医療サイト「メディカル・タウン」の「気管支ぜんそく」の項目をみると、佐野虎ノ門クリニック院長の佐野靖之医師が「季節の変わり目、秋の台風シーズンに多くみられるぜんそく」というタイトルで、こう書いている(要約抜粋)。

「ぜんそくの症状の悪化の要因は様々ですが、季節性のものとして、秋の台風の多いシーズンには外来患者が約2倍に増加するなど低気圧の影響がみられます。また、6月の梅雨の時もそれなりに悪化がみられ、天候、あるいは低気圧、気圧の変動、雷が鳴る時など様々な原因があります。さらに、秋には夏に増えたダニの死骸が舞って、そのダニを吸入することによってぜんそくが悪化するともいわれています」

   ぜんそくを持つ人は、雷雨とともにこれから始まるつゆにも要注意だ。

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