AGAの遠隔診療 | 「頭にスマホをかざせば薄毛治療ができる」時代はホントに来る? 銀座総合美容クリニック正木院長に聞いてみた

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   現在、医療分野で注目を集めているテーマといえば「遠隔診療(遠隔医療とも)」だろう。医師と患者が離れた場所にいても、インターネットなどを用いてスマートフォンやパソコンのディスプレイ越しに診断や診療が行えるというものだ。

銀座総合美容クリニック院長の正木健太郎医師
銀座総合美容クリニック院長の正木健太郎医師

   2016年11月20日に首相官邸で開催された「未来投資会議」では安倍総理が「遠隔診療を進める」と明言し、厚生労働省もサイト上に掲げる「医療分野の情報化の推進」の中で遠隔医療を上げるなど、政府や厚労省が積極的に推進していることもあって、さまざまな病気に対応する遠隔診療サービスは日々登場している。患者側としても通院の手間を軽減することができるなど、便利な存在といえるだろう。

テクノロジーが生み出す新たな潮流「遠隔診療」

   現在までに登場している遠隔診療を見てみると、専用のデバイスで呼気に含まれる一酸化炭素量を測定しその数値を医師と共有することで禁煙治療を行うものや、ウェアラブル端末で常にカロリー量や血糖値を測定し切れ目のないアドバイスを送ることで糖尿病治療を行うものなど、さまざまな病気に対応したものがある。専門医がいない地域に住んでいて治療を受ける機会がなかった人でも、こうした遠隔診療が充実すれば都市部に住む人と同じ医療が受けられるようになるかもしれない。

   また、夜間に救急車を呼ぶほどではない軽い体調不良や発熱などが起きたとき、咄嗟に医師に連絡して簡単な診察やアドバイスをもらうというサービスなども登場しており、専門医療の提供だけでなく、患者の不安や利便性の向上につなげようとするものもあるようだ。 記者も病院に行かなくてはと思うことはよくあるが、時間に余裕がないことを理由に先延ばしにしてしまうことが少なくない。手元のスマホやパソコンで診察が受けられるのであれば、これほど便利なことはなだいろう。

   他にも遠隔診療の恩恵が受けられるものは何かないかと考えていたところ、国内でもトップクラスの「男性型脱毛症(AGA)」治療実績を持つ、東京新橋の銀座総合美容クリニックに取材する機会があった。

   AGAはいわゆる男性の薄毛だが、治療では内服薬や外用薬などの薬剤のみでの治療ケースも多くあるという。手術や注射などが必須な治療では難しいが、これなら遠隔診療で診察を受けて薬をもらうという仕組みも実現できるのではないだろうか。単に便利というだけでなく、近くにAGAを専門とする病院がない人や定期的に通院するのは難しいという人にとってはこうした仕組みを必要としているかもしれない。

   記者が思いつくのであれば、AGA治療を専門に行う病院ではすでに遠隔診療の準備が進められていてもおかしくない。専門家からの忌憚ない意見を聞いてみたいと考え、院長の正木健太郎医師に話をうかがうことにした。

AGA治療での遠隔診療、医師はどう見る?

「確かにクリニックが遠方にあって来院できない方や、どうしても時間的に来院が難しいときなどは、来院せずに診察を受けることができる遠隔診療はAGA治療においてもひとつの大きなメリットだと思います」

   AGA治療の専門家であり、銀座総合美容クリニックの院長として治療にも取り組んでいる正木医師はこう答える。やはりAGAと遠隔診療の親和性は高いようだ。ただし「AGA治療を"すべて"遠隔診療ですませるといったことはありえない」と言う。

「これは他の病気にも言えることですが、AGA診療において対面診療で症状をきちんと確認せずに治療を始めるべきではありません。治療に入ってからも開始当初は特に経過の確認が重要となるため、一切対面診療を行わない『遠隔診療のみで完結するAGA治療』は考えにくいでしょう。患者様の状況が安定してくれば、適切に対面診療と遠隔診療を組み合わせることは可能です」

   正木医師がまず指摘したのは初診の対面診療の大切さだ。患者がAGAだと思っていても実は頭皮の皮膚炎による脱毛症や、円形脱毛症が原因となっているケースもある。また、本人は薄毛を気にしているが実際には薄毛でない例も少なくないようだ。本当にAGAであるという確定診断を行い治療の指針を決定するためには、患者の毛髪や頭皮を実際に手で触り、目で見て詳細に確認しなければ診断できないという。

「例えば、頭皮の皮膚炎に伴う脱毛症の場合、AGAの治療薬を服用しても症状は改善しません。薄毛の治療は早期に開始することでより改善率が高まりますが、その方向性を見誤ってしまうと改善が難しくなってしまいます。だからこそ、患者様の今の状態がどうなのかをきちんと見出すことがとても重要といえます」

   銀座総合美容クリニックでは、このような問診・触診での状態確認を踏まえ、患者の健康状態や病歴の確認、血液検査などを行ったたうえで薄毛の治療に入る。では治療を始めた後の定期的な通院はどうだろうか。症状もはっきりしており、治療方針が確定した後の経過観察であれば、例えばスマホのカメラで撮影し医師に診てもらう形でもよさそうだ。だが、正木医師はここでも対面することの重要性を指摘する。

「経過観察も髪を眺めているだけではありません。毛のコシやハリなどの変化はブラシでかき上げてみなければわかりませんし、わずかな環境の変化で髪の毛の様子は変わってしまいます。患者様の自己申告やディスプレイ越しではわからないことも多いでしょう」

   初診から半年~1年ほど経過した時期は、治療の効果が現れちょうど髪の毛の状況が変化してくる大切な時期でもある。正木院長はここに至るまでの期間を特に重要であると考え、最低でも半年は定期的に通院をしてもらいたいと考えているという。

「この期間を経て、髪の毛の状態が安定して毛量も増え経過が順調である患者様であれば、定期的に来院いただかなくても大丈夫な状態だと言えるでしょう。ご負担を軽減するために来院間隔を空けていただき、その間のフォローアップやサポートとして遠隔診療を取り入れることは十分可能です」
銀座総合美容クリニック待合室
銀座総合美容クリニック待合室

患者の不安を解消するのも治療

   正木医師が対面診療を重視するのは診察方法だけが理由ではない。AGAで悩む患者は他人からどう見られているのかに悩んでおり、対面診療によって直接向き合うことでどのような状態に見えているのかを誠実に伝えなければ、「患者の不安」という根本的な問題が解消されないのだ。患者は髪が薄くなることで他人から馬鹿にされているのではないか、友達に笑われるのではないかといった、社会から拒絶される恐怖と戦っている人も多い。

「大きな不安を抱える患者様に対してディスプレイ越しに頭部を眺めて『大丈夫ですよ』と言うのと、対面診療で詳細に確認し『大丈夫ですよ』というのでは、患者様が感じる言葉の重みがまったく違います」

   銀座総合美容クリニックでは1か月おきを目安に定期的な通院する患者が多いが、もともと仕事などが忙しく来院が難しい場合、一定期間分の治療薬をまとめて処方するケースもあるそうだ。しかし、そう提案しても「なんとか時間を作って診察を受けたい」と希望する人が少なくないという。患者としても医師と直接会いたいという思いが根底にあるのだろう。

   確かにAGAに限らず、病気になったときに病院に行く際には、「治療をうける」ことがもちろん一番の目的だが「不安を解消し安心したい」という気持ちも根底にある。ろくに診察もしてもらえず病名だけ告げられ、処方箋を渡されるだけでは不安は増大するかもしれない。

   見た目という繊細な問題だからこそ、正木医師は患者の不安にしっかりと耳を傾けて、不安が解決できる提案や不安を和らげる方法を考えることに重点をおき診療を行うという。

「不安が強い患者様はご自身の症状を実際よりも過剰に悪く認識してしまうケースも多く、たとえ髪が増えていても気がつかないケースもあるのです。定期診察では様々な角度から撮影した写真や、医師が客観的に見た正確な状態を理解していただくことが重要なのです」

   こうして医師から直接自分の毛髪の状態を告げられ、「もう毎月来なくても大丈夫ですよ」と医師に言われても、「わかりました」と自信を持って言える状態になれば、不安が解消されたということなのだろう。

医師不足・医療不足をテクノロジーで解決するのが理想形

   では正木医師が考える、理想的な遠隔診療によるAGA治療とはどのようなものになるのだろうか。遠隔診療には大きく2つの考え方がある。ひとつは十分に医療が行き届かない地域に治療を提供するためのツールとして、二つ目は患者の通院負担を軽減するツールとしてだ。正木医師は前者のような医師不足、医療偏在をテクノロジーで解決することが、より理想的な遠隔診療だと感じるという。

「5月から南相馬市で避難所から自宅へ帰還した方々に看護師がタブレット端末を持って訪問し、端末を通じて医師が診察するという遠隔診療が始まったそうです。この方法であれば看護師が検査や症状の確認を行い、医師が診断するという対面診療に近い体制が実現します。素晴らしいことではないでしょうか」

   確かに、この方法であれば得られる情報の正確性は保ちつつ、患者や医師の物理的な距離をテクノロジーで補うことができ、安全性や利便性の両立も可能になりそうだ。正木院長はさらにこうも話す。

「日本におけるAGA治療はここ10年で急速に広がり、身近なものになってきました。東京だけでなくさまざまな場所に専門のクリニックができ、自宅近くで診療が受けられる方も多くなってきたと思います。とはいえ、まだまだ新しい医療ゆえ、全国各地にAGA治療がゆきとどいている状況とはいえません。私たちのクリニックにもとても遠方から通院される方も多いですし、そのような方々にとって『遠隔診療』が助けになっていただければ、とても良いことだと思います。また、通院可能な範囲にお住まいの方であっても、少なくとも半年~1年程度の通院期間を考えた場合に、時として忙しく来院が難しい場合には、症状の安定度合いに応じ遠隔診療を組み合わせることは、治療を途中で滞らせないという意味でも良いことでしょう」

   その逆に、利便性にのみ重きをおき、医師・患者双方が「楽をする」ことだけを目指す遠隔診療には賛同できないと話す。利便性だけが追求され、本来重要とされるきめ細やかな診断や患者と向き合う診療がないがしろにされてしまえば、治療効果や満足度の低下、副作用の危険性などもあり、AGA治療全体の質も低下しかねない。

「手軽にAGA治療を受けたいという患者様も確かにいらっしゃいますが、そうした患者様の気持ちを利用して、ただ手を抜いただけの治療を『遠隔診療』とするのは本質とは言えません。遠隔診療が注目を集める今こそ、その在り方をAGA治療に携わる医師がきちんと考えなければいけないと考えます。遠隔診療を患者様の診療に対する期待や満足にいかに近づけるかが、我々に問われているのだと思います。『遠隔診療』の名を借りた『無診察に近い診療』がまかり通ってしまうのは、AGA治療全体として好ましくありません」

   正木医師のクリニックでは、2017年8月現在適切な治療経過の方に対してのみ遠隔診療を実施している。既存の通話機能を使った遠隔診療についてはこれまでも部分的に対応していたというが、この度の政府方針を受け、専用のスマートフォン用「遠隔診療支援アプリ」も独自開発し遠隔診療に導入をしている。

「遠隔診療支援アプリ」の画面
「遠隔診療支援アプリ」の画面

AGA治療を遠隔診療で提供できるのか

   正木医師が指摘した「利便性のみを追求することが目的になると、医療の本質から離れてしまう」という懸念は、遠隔診療をめぐる議論の中でもよく聞かれる。

   記者も最初は自分自身が患者となった場合を考えず、遠隔診療で通院しなくてもいいのなら便利そうだ、医療費が下がるなら金銭的な負担も軽減されるなどと考えていたが、そもそも遠隔診療は専門医や医療機関がないような離島や地方に患者がおり、対面診療が難しい場合の代替手段として生まれたもの。「より便利にする」というよりも、「不便、不足を解消する」ことが目的だ。単なる便利な道具になってしまっては、時として医療の質の低下にも繋がり、そもそもの遠隔診療の価値の低下にも繋がりかねないだろう。

   しかし、だからといってAGA治療には遠隔診療はそぐわないということでもない。正木医師が言うように正確で緻密な対面診療を踏まえ、症状がコントロールできている状態でのサポートやフォローアップとして遠隔診療を活用することは患者にとって十分に価値のあるものだといえる。遠隔診療に用いるデバイスなどを工夫することで、遠隔地や離島へ定期的に医師が出張診療などを行いつつ、適宜遠隔診療を通じて経過を観察するという方法も実現するかもしれない。「より便利にする」AGA治療も、そこでは成り立つといえるだろう。

   組み合わせかたや運用方法の工夫によって遠隔診療の信頼性を高められる可能性は、AGA以外の診療科目も同様だ。5月30日に発表され6月9日に閣議決定された政府の新たな成長戦略「未来投資戦略2017」の中で、遠隔診療は健康寿命の延伸につながる重要な要素に挙げられ、かかりつけ医などの対面診療と組み合わせることでより効果的・効率的な医療ができるとし、「対面と遠隔の組み合わせ」を積極的に進めるとしている。

   遠隔診療による服薬指導は検討が必要とされているが、血圧や血糖値の遠隔モニタリングなどは有効性や安全性に関するエビデンス(科学的根拠)を蓄積し、治療だけでなく予防医療に提供していくというプランもあるようだ。遠隔診療によって情報共有が容易になり、遠隔地にいる患者に対し別々の場所から複数の専門医や医療従事者が参加するチーム医療を提供するといったシステムも登場するかもしれない。

   いずれにせよ、大切なのは信頼できるデータと医師の正確な対面診療に裏打ちされた遠隔診療をいかに実現するかということだ。医療の本質を捉えながらも利便性を兼ね備えた遠隔医療が提供される日も遠くないかもしれない。

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