2018年 8月 18日 (土)

痴漢は「病気」、療法を紹介
 幼少期の過酷な経験が一因に

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【ハートネットTV】(Eテレ)2017年9月19日放送
「痴漢を治す条件反射制御法」

   「おい痴漢!いいかげんにしろよ おいチカン!!」―ある駅のホームにこんな横断幕が掲げられるほど、痴漢はなかなかなくならない、やっかいな犯罪だ。

   どんなに撲滅を目指してもなくならない理由として、痴漢が「病気」だから、というのは大きいだろう。いったいどんな病気なのか、どんな治療をすれば改善が見込まれるのだろうか。

「条件反射」で止められなくなる

   精神疾患の診断基準「DSM-5」には、痴漢を繰り返す人について「窃触(せっしょく)障害」として、以下のように解説されている。

   「少なくとも6か月間にわたり、同意していない人に触ったり、体をこすりつけたりすることから得られる反復性の強烈な性的興奮が、空想、衝動、または行動に現れる」

   「同意していない人に対してこれらの性的衝動を実行に移したことがある、またはその性的衝動や空想のために、臨床的に意味のある苦痛または社会的、職業的または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている」

   番組では、痴漢の治療を行っている千葉市の国立病院機構下総精神医療センターに入院する森田さん(40)の治療に密着した。

   歩いている女性を自転車で追い抜く際に胸や尻を触ったり、自身の性器を露出したりという痴漢行為を、覚えているだけで40~50件、自覚なくしてしまったものも含めたら100件以上はしてきたかもしれないという森田さん。これまで刑務所に5回服役したが、出所するたびに痴漢を繰り返してしまい、自分でも止められない。

   下総精神医療センターの精神科医・平井愼二氏によると、痴漢には「条件反射」がかかわっている。

   女性を見て触るかどうか考え、触って興奮して帰宅したら自慰をして気持ち良くなる。これを何度も繰り返すと、女性を見るだけで触るという行動が噴出して止められなくなる。

強いストレスが「動物的な脳」を暴走させる

   そもそも、なぜ痴漢をしてしまう人がいるのか。

   人間を含む動物は、生き残るため、繁殖のために「守る」「食べる」そして「性行為をする」行動を発現させる遺伝子を持っている。それを司るのが「動物的な脳」だ。

   人間には「人間的な脳」があり、多くの人は異性を見て魅力を感じても、触る場所ではない、触る対象でもない、相手の同意もないため、「触るのはいけない」と抑制できる。

   しかし痴漢する人は、動物的な脳が少し踏み込んだら一気に噴き上がるエンジンを持った車のようになっていて、人間的な脳は太刀打ちできない。

   動物的な脳が暴走する原因について、平井氏は幼少期の過酷な体験があるとみている。

   例えば、父親が酒に酔い、目の前で母親に暴力をふるうといったことが度々起こると、その都度「ストレス」という強い刺激を受ける。

   ストレスは、動物を「死なせる方向の刺激」だ。ストレスがかかりすぎると、動物的な脳は生きる方向に動く。「守る」「食べる」「性行為をする」いずれかの行動に振り切れてしまうのだ。

「マネキン相手に痴漢」で治癒へ

   痴漢してしまう反射を制御できる状態に戻すのが、平井氏が開発した「条件反射制御法」だ。

   3か月に渡る治療で、「第一ステージ」は「おまじない」を行う。

   「私は今、痴漢、下着泥棒、露出はやれない。大丈夫」

   1度唱えたら20分空けて再び唱える。これを1日に20回繰り返す。「おまじない」という刺激を与え、その後は痴漢が起こらないという新しい条件反射を体に叩き込む。

   「第二ステージ」はおまじないを1日5回に加え、「疑似」を行う。

   女性を模したマネキンを相手に、実際の痴漢行為と同様に、後ろから近付いて胸を触って逃げる。その後、「唾液がたくさん出た」「楽しくなった」「高ぶった」など、マネキンに痴漢した時の状態を正直に答える。

   次に、マネキンの体を触る直前で、平井氏が「寸止め」させる。また、「残念に思った」「最後までしたかった」など、その時の気持ちを答える。これを1日20回だ。

   入院から1か月、「疑似」が160回目に近付いた頃、森田さんはマネキンを触っても全く興奮しなくなっていた。

   疑似の目的は、痴漢をしてしまう「動物的な脳」に空振りさせることだ。

   触っても、マネキンだから固いので、痴漢は「空振り」「失敗」している。人間は失敗する行動をいつまでも続ける特性がないので、痴漢の衝動が徐々におさまっていく。

   森田さん「初めは楽しいとか、ドキドキ感が多々ありましたけど、今はもう、治療でやらなきゃいけないからやってるような感じになってますね」

   今外に出て、女性が一人で歩いていて、周りに誰もいない...という状況になっても、「多分大丈夫じゃないかな」と言えるほどに回復していた。

   入院から1か月半で、森田さんは「第三ステージ」の「想像」に入った。

   痴漢をした過去の1日を、朝起きてから痴漢するまで何をしていたか書き起こし、目をつぶりながら平井氏と対話してより詳細に思い出していく。

   目覚めて目にしたもの、行った場所、そして女性を見つけ、狙いを付けて追いかけ―というところまでは事実の通りに話し、さあこれから痴漢するというところで平井氏が「女性がマネキンになった」と対象をすり替える。「疑似」同様、「空振り」が目的だ。

   こうした入院治療で、多くの患者は欲求を抑えるのに成功し、退院していく。しかしその後も、「おまじない」や「疑似」は継続する必要がある。痴漢撲滅には、加害者の根気強い治療も重要なのだ。

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