2018年 7月 22日 (日)

ボクシング王者の強さはズバリ「目」 子どもにも「ビジョントレーニング」を

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   ボクシング、WBA世界ミドルで新王者となった村田諒太選手はタイトル戦前、「ビジョントレーニング」と呼ばれる目の鍛錬を重ねていたことを明かした。特殊な装置をジムに置いて訓練する様子は、村田選手を追ったNHKの番組でも紹介された。

   今から24年前、ボクサーとしてビジョントレーニングを先駆的に取り入れたのが飯田覚士さんだ。その後、WBA世界スーパーフライ級のチャンピオンに上り詰めた。現在は東京都内で、子どもから大人まで年齢を問わず指導をする。村田選手も「教え子」のひとりだ。飯田さんに詳しい話を聞いた。

  • 飯田さんのジムには、ビジョントレーニングの機器が置かれている
    飯田さんのジムには、ビジョントレーニングの機器が置かれている
  • 子どもたちを指導する飯田さん(写真は飯田さんより提供)
    子どもたちを指導する飯田さん(写真は飯田さんより提供)
  • 子どもたちを指導する飯田さん(写真は飯田さんより提供)
    子どもたちを指導する飯田さん(写真は飯田さんより提供)
  • 子どもたちを指導する飯田さん(写真は飯田さんより提供)
    子どもたちを指導する飯田さん(写真は飯田さんより提供)
  • 子どもたちを指導する飯田さん(写真は飯田さんより提供)
    子どもたちを指導する飯田さん(写真は飯田さんより提供)
  • ジムにある「リング」で微笑む飯田さん
    ジムにある「リング」で微笑む飯田さん

相手のパンチがスローモーションのように

   ――ビジョントレーニングとの出会いを教えてください。

飯田 私が日本ランキング入りしていた1993年、知人のライターから、米国で「オプトメトリスト」(検眼士)の資格を得た専門家が名古屋にいると聞いたのがきっかけです。当時から目の重要性に気づいてはいましたが、目をトレーニングするとの発想はありませんでした。ボクシングの練習を重ねて技術力を高めることがすべてだと思っていたのです。

   ――どのようなトレーニングを始めたのですか。

飯田 顔を固定しての眼球運動や平均台を渡るといったメニューで、手作りの器具を使ったものも多かったです。私の場合、「上目づかい」が苦手だと分かりました。これは急所であるあごが上がる危険性につながっていました。例えば右斜め上30センチの点にしっかり焦点を合わせようとすると、二重に見えてしまう。訓練を重ねるうちに「目のスタミナ」がつき、試合で相手選手と対峙したときも楽に上目づかいで見続けることができるようになる。

   私が感じた効果は、言葉にすると「視覚情報の処理スピードが上がる」。開始から6か月で相手のパンチが「見える」ように感じました。具体的には対戦相手の動きがスローモーションのようになる。実戦では相手が何をしようとしているかが分かるようになり、自分はそれに対応する動きに素早く移れるようになったのです。パンチの軌道だけでなく相手の癖も見極められる。例えばパンチの動き出しの前に左ひざに重心を載せているといった「周辺情報」が目に入ってくる。視野能力が向上したおかげで、以前より多くの情報をとらえられるうえ、それを処理できる力がつき、理解したうえで自分の体の動きに連動できるようになったのです。世界戦に挑んでいる頃には、相手のつま先の角度の違いによってその動きを見抜き、対処していました。

体の中心線とスポーツの成績の関係

   ――現在はビジョントレーニングを教える立場ですね。

飯田 近年、子どもの体力低下がしばしば指摘されます。私は、体力だけではなく見る力に問題があるからではないかと、自分の体験やビジョントレーニングのセミナーを通して考えていました。

   以前、私の息子が通っていた保育園の運動会に行ったときの話です。仰向けになって両手両足で体を持ち上げ、手足を使って前に進む「クモ歩き」の競走で、息子は全くできなかったのです。かけっこは速いのに意外でした。目と体の動きの連動がうまくいっていなかったと分かりました。
   そこで目と体の両方のトレーニングができるオリジナルメニューを私が考案して、子どもたちに指導するジムを2004年に設立しました。現在は大人の会員もいます。メニューは例えば、親指を立てて腕を伸ばし、その指を上下左右に動かしながら目で追う。また大人と子どもが向かい合い、大人が腕を上げたり横にしたりしたら子どもがそれをまねする。こうした様々なメソッドを、2016年に「おうちで簡単ビジョントレーニング」(ベースボール・マガジン社刊)にまとめました。

   ――トレーニングで特に重視する点は何ですか。

飯田 体の中心線がしっかりしているかどうか。これがズレていると、運動が上達しなかったり、たとえスポーツ選手でも成績に影響したりします。

   例えば陸上長距離選手の場合、顔を傾けて見る癖があったために、レース後半になると微妙なフォームの崩れが生じてタイムロスとなっていたのです。中心線を保って真っすぐ見るトレーニングの成果で、タイムロスが解消しました。

   ボクサーの場合はフォームが崩れます。ある選手は左目がうまく使えず、右目で見ようとばかりしていました。すると顔も左を向いてきて体が開いてしまう。試合後半になると、こうした状態になって得意の戦い方ができていませんでした。

村田選手にトレーニングの意味を説明

   ――村田諒太選手が2年前から、ビジョントレーニングを続けています。飯田さんはどのような指導を?

飯田 村田選手は、トレーニングのメニューについて「なぜ必要か」をしっかり考えます。実は私も現役時代、村田選手のようにトレーニングの意味を消化して取り組んでいたので、似たタイプですね。そこで私は、ビジョントレーニングを取り入れて世界王者となった経験に基づいて、村田選手が持つ疑問に答え、「地味だけど続けることが大切」という話をしました。あるトレーニングについて「ボクシングでこういうシーンがあるよね」と意義を説明し、納得してもらえるように努めています。

   ――2015年には「日本視覚能力トレーニング協会」を立ち上げました。活動の目標は。

飯田 ビジョントレーニングの普及です。アスリートだけではなく子どもや一般の人にも広めたい。

   近年はパソコンやスマートフォンを利用する人が多く、視覚能力が落ちています。集中力が切れて気が散りやすいと感じている人もいるのではないでしょうか。 例えば外で10分程度キャッチボールをすれば、速い球の動きに視線を動かしたり、球が遠くに飛んで行ったらくるっと振り向いたり、時には空や雲の動きに目を移すこともあるでしょう。こうした機会が減り、ひとつの画面を見続ける時間が増える生活になると、目の「遠近の力」をどんどん使わなくなってしまいます。

   見る力は、トレーニングで強化できます。今まで「もうトシだから」と諦めていた高齢者の方が、見えやすくなることで生活の質の向上につながるようになればと望んでいます。

●プロフィル
飯田覚士(いいだ・さとし)
1997年、WBA世界スーパーフライ級チャンピオンとなり、2度防衛後99年に引退。2004年、ビジョントレーニングを指導するジム「飯田覚士ボクシング塾 ボックスファイ」を開設。15年に「一般社団法人日本視覚能力トレーニング協会」を設立し、全国各地での講演活動などを通してビジョントレーニングの普及に努めている。

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