2024年 5月 4日 (土)

中国に生息する最大の「灰色のサイ」 北京で起きた「事件」が意味すること

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   北京市大興区西紅門鎮で2017年11月18日に発生した火事で、19人が死亡、8人が重傷を負ったことは日本でも大きく報道された。一方、「北京市朝陽区にある紅黄藍新天地幼稚園の児童が幼稚園教諭から針を刺され、正体不明の錠剤を飲まされるなどの虐待を受けている」というニュースも、日本ではあまり報道されていないが、現地では大きな反響を呼んだ。

   実は、この二つの事件をめぐる中国当局の動きとネットでの反応が、中国における新たな「灰色のサイ」の存在をクローズアップさせている。「灰色のサイ」は主に経済分野における隠れた脅威を象徴する言葉だったが、にわかに社会的な意味を持ち始めたのだ。

  • 2017年11月19日付の「北京晩報」
    2017年11月19日付の「北京晩報」
  • 2017年11月19日付の「北京晩報」

出稼ぎ労働者の強制排除の実態

   大興区での火事の後、北京市の関係部門は北京全土の同じような区画のアパートや借家から住民の即時退去の命令を出した。

「即時退去。期限は5日間」
「11月26日に電気・ガス・水道を強制的に止める。住民全員はこの期日の前に全て退去すること」
「期日が来ても退去しない者は強制的な処置を取り、いかなる結果となっても責任は自分で持つ」

   政府の通達や行政機関の行動は、この季節の気温よりもずっと冷たいものであった。

   即時退去の命令を受けた多くの出稼ぎ労働者は引っ越し先を探す間もなく、汽車のチケットを買って慌ただしく故郷に帰るしかなく、また荷物や子どもを抱えて寒風吹き荒ぶ橋の下で野宿する者も少なくなかった。その写真がネット上にアップロードされると、全国の国民が彼らに深い同情を寄せた。

   北京の中国共産党の機関紙は「『人民の安全が何よりも大事』『生命至上、安全第一』が守るべきラインである」と紙面を飾ったが、ネット上では主に「『生命至上、安全第一』という言葉には出稼ぎ労働者の生命や安全は含まれていないのか」「北京の人口二千数百万人のうち北京戸籍を持っているのは1200万人しかいない、残りの1000万人以上は人民ではないのか」という疑問の声が流れている。

   しかし、退去者の悲惨な境遇を報道するメディアもなければ、北京市政府を批判するメディアもゼロに等しく、この件についてメディアがオープンに論じた記事はいつも即座にブロックされる。

   200人余りの知識人がネット上に連名の公開書簡を発表し、北京市政府に退去の中止を求めたが、それもすぐに削除されてしまった。

児童虐待捜査で「監視カメラが破損」

   紅黄藍幼稚園のニュースには、さらにいろいろな風評が出てきた。とくに「性的暴行を受けている疑いがある児童もおり、その加害者は軍隊関係者だ」という情報も流れ、このニュースは瞬く間に中国全土を揺るがし、11月22日に朝陽区の警察が捜査に乗り出す事態になった。

   一方で、介入した政府部門が真っ先に行ったことが「各種情報の削除」だということに驚く者はいなかった。すぐに「紅黄藍」や「軍隊」ひいては「幼稚園」までもが、ネット検索などでNGワードになり、これらの言葉が入った文章を中国版LINEとも呼ばれる微信(WeChat)にアップロードすることができなくなった。

   11月25日になって警察がようやく簡単な通報を出し、1人の幼稚園教諭が児童に針を刺したことは認めたが、「錠剤を飲ませたり性的暴行したりしたという事実はなく、軍隊関係者とは全く関係がなく、これらは全てデマである」と発表した。さらに「幼稚園の監視カメラの映像を保存しているハードディスクが偶然壊れた」とも発表した。

   いままで何度も大事件が起きると、それに関連する「監視カメラは壊れている」と警察が発表してきたが、今度もほぼ全ての人々は「警察が嘘を吐き、何かを隠している」と疑っている。

   真相を告白する者がおらず、調査して報道するメディアがない。ただ警察の通知しかない。

「群れになったサイの襲来」

   11月27日に著名なメディア関係者である秦朔が、個人の微信アカウントで4000文字余りの長文「最も大きな灰色のサイはどこから来るのか?」を発表した。そこには大要で次のようなことが書いてあった。

「『灰色のサイ』という言葉がある。灰色のサイはアフリカに生息し、体が並外れて大きく、反応も遅く、遠くにいる時には全く脅威を感じない。だが、それが本当に走り出すと、その爆発力を前にした獲物は突然過ぎてまったく防ぐいとまがなく、吹き飛ばされて転がってしまう。『灰色のサイ』とは、最大の問題は問題自身にあるのではなく、問題の存在を無視することにあることを物語っている。多くの突発的な事件は、みなその原因を遡ることができるもので、高い確率で必ず発生するのに人々はそれが遠くにあると思って対応を先延ばしにし、(それから逃れられるという)幸運を期待する。しかし最後には、1頭からいつしか群れになったサイの襲来をなすすべなく見守るしかなくなるのだ」
「中国の最も大きな灰色のサイとは何か。不動産バブルと言う人もいれば、資本流出と言う人もおり、地方政府の債務と言う人もいれば、銀行の不良債権と言う人もいる。だが、先週首都である北京で発生した二つの事件およびインターネットで次々に上がる声を見ると、中国の最も大きな灰色のサイは経済面にも金融面にも存在せず、社会面に存在し、基本的な生活の権利に及び、人と人の関わり合いに及ぶ場所にいる。灰色のサイとはつまり、11月18日に発生した火災とそれに続く潜在的な危険を取り除く大点検、大掃除、大整理の進展、及び11月22日午後から刻一刻と変化・進展しつづけた幼稚園事件だ」

   この文章も、その日のうちに削除された。

(在北京ジャーナリスト 陳言)

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