2018年 12月 16日 (日)

「米朝開戦」の可能性はどの程度か 拓殖大・武貞秀士さんに聞く【どうなる2018年<2>】

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   北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」を発射し「米国本土全域を打撃することができる」と主張してから約1か月。米国のトランプ大統領の許容範囲にあたる「レッドライン」を超えたとの見方もある中で、不気味な膠着状態が続いている。

   今後、米国と北朝鮮が軍事衝突する可能性はあるのか。日本政府の「圧力をかけ続ける」路線は妥当なのか。拓殖大学大学院国際協力学研究科特任教授の武貞秀士さんに聞いた。

  • インタビューに答える武貞秀士・拓殖大学大学院国際協力学研究科特任教授
    インタビューに答える武貞秀士・拓殖大学大学院国際協力学研究科特任教授

数十万人の死者が出たのでは割が合わない

   ――共和党の重鎮だとされるグラム上院議員はテレビのインタビューで、「事態が変わらなければ戦争に突き進むことになる」と警告したり、在韓米軍に駐留する軍人の家族を退避させるように求めたりしています。10月の解散総選挙は「年末年始危機」を見越したものだとの見方もあります。緊張が高まっているように見えますが、軍事衝突に突入する可能性は高いのでしょうか。

武貞 両国が相手のミサイル発射基地などを破壊する作戦に出る可能性は、限りなくゼロに近く、1%以下だと思っています。その理由は大きく4つあります。まず、米国にとって割に合わない、という点です。米国は「外科的手術」で北の核関連施設を破壊する場合、どのくらい日本・韓国に被害が発生するかをシミュレーションしており、17年3月~4月の危機の際に数十万人規模の死者が出るとの結論を得ています。核問題が解決できたとしてもこんなに死者が出れば割が合わないということで、春の時点で米国が外交的解決にかじを切ったとみていいでしょう。在韓米軍を増派もしていません。米国側がしきりに口にする「あらゆる選択肢がテーブルの上にある」という言葉は、外交に力を持たせるための発言でしかありません。
   北朝鮮側は、通常兵器は旧式であっても「300ミリ多連装ロケットを使い奇襲攻撃をすることで韓国の軍事施設を壊滅する能力がある」「核兵器があれば米国の軍事介入を阻止できる」と信じています。統一のための戦略として核兵器を作ってきた北朝鮮としては、いま米国に対して先制攻撃をする理由も戦略も条件も、全くありません。

韓国が「降りている」状態で軍事オプションは取れない

武貞 2つ目が、ここ1~2か月の間に、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)の対北融和政策がはっきりしてきた点です。17年9月には800万ドル相当の人道支援計画を決めたのに加えて、12月の訪中では、習近平主席と会談し、朝鮮半島情勢について「戦争は絶対に容認しない」ことで合意しています。米国からすれば、同盟国である韓国から軍事オプションを否定されたに等しい。軍事的な要(かなめ)の韓国が「降りている」状態で、米国単独でミサイルを打つとどうなるか。北の核問題が解決しても、米韓同盟が終焉したというのは米国にとって割に合いません。
   3つ目は、米国は北朝鮮に対して「意外と話は通じる相手」だという期待感を抱いている点です。ワシントン・ポストによると、国務省のジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表は17年10月末、北朝鮮が核・ミサイルの実験を60日間凍結すれば、米朝対話に応じる考えを示しました。北朝鮮は11月29日に2か月半ぶりにミサイルを発射しましたが、米国の呼びかけに応じて自制していたとも言えます。17年12月、米国務省出身である国連のフェルトマン事務次長を北朝鮮が呼んだのが対話姿勢の現れだと米国は見ています。
   4つめが米国の問題です。エルサレムの首都認定問題で、元々は米国に親近感を持っていた中東諸国からも反感を買っている。国連総会で決定取り消しを求める決議が採択されるなど、米国は世界で孤立しています。米国単独で対北軍事作戦を敢行するような余裕が以前よりなくなってきています。
   米国が単独で韓国の同意なしに軍事手段を使った核兵器開発関連施設の除去と破壊をする可能性は低い、というのが結論です。

「限定的軍事行動」がエスカレートする可能性

   ――では、衝突の可能性はまったくないのでしょうか。

武貞 国際政治では「可能性ゼロ」はありません。北朝鮮がミサイルの試験発射を行うとき、人的被害が起きないと判断する米国が迎撃することはあり得ます。ミサイル迎撃を北朝鮮は「侵略とみなす」と表明しているので、米国の誤算になるのですが、北朝鮮が軍事力行使を決断し、限定的な攻撃を韓国の離島にある軍事施設に加えたりする可能性はあります。2010年に起きた哨戒艦「天安」撃沈事件や延坪島砲撃事件のケースです。双方が「限定的」だと思っている間に事態がエスカレートする可能性はあります。この可能性は7年前よりも今の方が高く、最初に軍事力行使をする可能性はトランプ大統領の方が高いでしょう。このリスクが1%はあるとみています。

   ――すでに北朝鮮は核兵器を完成させ、「抑止力」を持っているのでしょうか。

武貞 まだそこまではいっていないとみています。「火星15」が53分間、4475キロの高度まで飛行したのは確かですが、最後は3つぐらいに分かれて、日本の排他的経済水域(EEZ)に落ちた。これは再突入した時に衝撃や熱に耐えられなかった可能性を示しています。核兵器は落ちるときに核爆発しますが、現時点では弾頭の体をなしておらず、まだ完成していないとみていいでしょう。ただ、北はさらに実験を続けて、米東海岸まで届いて核爆発が起こせるレベルの技術を身に着けたいと考えています。

北半分が安全になるだけでは核はあきらめない

   ――そう考えると、国際社会が外交的に北にミサイルをあきらめさせたり取り上げたり、ということは全く無理なのでしょうか。

武貞 いまだから外交的努力が必要です。米朝の直接的な話し合いです。ドイツ、スイス、ロシアから仲介を申し出る声があったのに加えて、フェルトマン氏も、そういった期待を込めて平壌に行った。こういった努力はあるが、北はまったく答えていないのが現状です。核開発問題の解決に向けて中国がイニシアティブをとりたいとして始めたのが6か国協議ですが、それも膠着状態です。かつては「レジーム(体制)を変更しないことを国際社会が保証すれば核を放棄する」との見方はありましたが、これは誤りです。彼らは北半分だけでなく、南北が統一して初めて自分たちが安全になると思っているからです。北半分の安全を保障したとしても、リビアのように核を放棄することは絶対にありません。

   ――では、何らかの形で統一しないと北朝鮮は核を絶対に手放さない、ということでしょうか。

武貞  統一のための歩みを南と北が始めたら、核兵器は使い道がなくなる。それが簡単にできないから分断状態が1948年から続いてきたわけですが、そこで南北が話し合って統一のためのロードマップを示してもらうしかない。日米が外野席から「こうすべき」と言うような問題ではありません。2000年6月15日に金大中大統領と金正日総書記が会談して発表した南北共同宣言では
「南と北は国の統一問題を、その主人である我が民族同士で互いに力を合わせ、自主的に解決していく」
とうたっています。双方が「連合制」や「連邦制」を主張して主導権争いをしている状態が続いています。それはやめにして当事者が未来指向で統一のありかたを議論してほしい。ドイツが東ドイツ出身のメルケル氏をリーダーに選んだように、ドイツ人の知恵に学んでほしい。例えば5年間は南出身者が大統領で次の5年間は北出身者が大統領を務めるなど、方法は色々あると思います。南と北が融和すれば統一のための核兵器は使い道がなくなる。時間はかかりますが、周辺国はその和解のプロセスのお手伝いに徹することが大事です。

対話につなげるための圧力、というニュアンスが明確に

   ――安倍政権は「国際社会が連携して北朝鮮に圧力をかけ続ける」ことが大事だとしています。世界では最高レベルの対北制裁も継続しています。この政策は継続すべきでしょうか。

武貞 安倍首相の主張は変わってきましたね。7~8月は「今は対話をする時期じゃない」といった発言が目立ちましたが、最近は
「北朝鮮の方から対話を求めてくるまで国際社会が連携して圧力をかけ続ける」(12月19日)
といったように、対話につなげるための圧力、というニュアンスがはっきりしている。中韓が軍事的オプションを排除して外交的解決しかないことで一致したこともあり、安倍政権が国際社会で孤立することを警戒している可能性もあります。
   輸出入を禁止し人的交流を停止している日本が一番厳しい制裁を課している国です。圧力は十二分ですが、対話はゼロの状態です。ミサイルが日本上空を飛んでも、彼らに直接抗議するパイプがない。「北京の大使館ルートで抗議」と言っても電話で伝えているにすぎません。
   17年9月に訪朝した際、金正恩氏の側近で、外交部門の責任者として知られる朝鮮労働党国際部長であり、朝日(ちょうにち)友好親善協会顧問のリ・スヨン氏に会う機会があり、ドイツの例を念頭に国会議員同士の交流やスポーツ交流を提案しました。「歓迎する」という回答でした。
「ミサイルが日本上空を通過することは日本にとって深刻で、日本の防衛意識が変わっていくきっかけになっている」
と伝えたりしました。拉致問題については、先方は
「政治的に利用しすぎており、安倍政権との話し合いを打ち切った」
と主張されたので、
「日本の世論が安倍政権を含む歴代政権を動かしたのであって、世論が感情的になってたのが拉致問題の本質です」
などと伝えました。こういった意見交換の場がないのが問題です。

   ――では、安倍政権はどうすべきだと考えますか。

武貞 大きく3つあります。まず、直接対話です。連絡事務所を平壌に置くべきです。一民間人が安保問題、拉致問題、核を含む軍事問題で討論できる状態ですから、政府レベルで議論することに北朝鮮側は否定的ではないはずです。日本の懸念は直接伝える場が必要です。
   2つ目が、拉致に限らず、複数の分野を平行して議論することです。具体的には、拉致を含む人権問題、国交正常化問題、国交正常化のあとの経済支援問題、日本の防衛上の懸念を伝えるための安保対話の4つです。先方の反応も否定的ではありませんでした。
   3つ目が、ハードルを下げることです。拉致問題について言えば、政府が認定した拉致被害者17人以外に、「特定失踪者」が約700人います。「全員の消息を明示した報告書を一発回答で」と要求するのではなく、1人でも消息が判明すれば一歩前進と受け止めるべきです。そうしないと事態は前進しませんし、その点は安倍政権も分かっているでしょう。

武貞秀士さん プロフィール
たけさだ・ひでし 1949年兵庫県生まれ。77年慶應義塾大学大学院博士課程修了。防衛庁(当時)のシンクタンクである防衛研修所(のちに防衛研究所と改称)に入り、2011年に統括研究官として退職するまで36年間勤務。その間、スタンフォード大学、ジョージワシントン大学に客員研究員として滞在。11年より2年間、延世大学国際学部で日本人初の専任教授に着任。現在、拓殖大学大学院国際協力学研究科特任教授。

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