2024年 4月 26日 (金)

「総合取引所」って何ですか? 政府が後押しする統合構想、意義と実現へのハードル

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   株式から債券、商品先物まで幅広く扱う「総合取引所」の実現に向けた動きが活発化している。政府の規制改革推進会議(議長・大田弘子政策研究大学院大学教授)がまとめた改革推進に向けた答申で、2020年度ごろの実現を求めたのだ。

   世界の取引所と戦うための、競争力の強化が狙いだが、とはいえ組織の統合には抵抗・軋轢がつきもの。すんなりと進むかは見通せない。

  • 東京証券取引所。統合の行方は
    東京証券取引所。統合の行方は
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第1次安倍政権以来の「宿題」

   総合取引所とは、具体的には、株式を扱う東京証券取引所、金融派生商品を扱う大阪取引所を傘下に持つ日本取引所グループ(JPX)と、原油や金、穀物などの商品先物を手がける東京商品取引所(東商取)を統合するもの。2018年11月19日行われた上記の答申に先立つ10月23日、両者は経営統合に向けた協議に入ると発表した。

   総合取引所構想は2007年、第1次安倍晋三政権の「骨太の方針」に盛り込まれて以降、長年の検討課題になっていた。2013年に、当時の東証と大証が統合してJPXが発足、同年、東京工業品取引所に東京穀物商品取引所の商品が移管され、今の東商取が誕生したところで、再編はストップしていた。

   なぜ総合取引所が必要なのか。規制改革会議が答申に先立つ11月8日に発表した「総合取引所を実現するための提言」によると、世界の商品デリバティブ市場は2004~2017年に約8倍になったのに、日本は逆に出来高が約5分の1に減ったことに危機感を表明。総合取引所の実現で、規制やインフラが一元化され利便性が高まるなどにより市場参加者が増え、市場の価格形成能力が高まるとしている。こうしたリスクヘッジ機能が安定的に確保されることが、グローバル経済の中で生きていくために不可欠ということだ。

積極的なJPXと慎重だった東商取

   統合に積極的なのがJPX。2017年の株式売買代金は世界5位の5.8兆ドル(約650兆円)だが、ライバルの欧米勢は、原油や金など商品先物も1カ所で取引できる総合取引所が主流。JPXは東商取との統合によって商品ラインアップを増やし、国際競争力を高めたいという立場。JPXの清田瞭・最高経営責任者(CEO)は10月24日、東商取との統合について、「政府も前向きに取り組んでいただける状態になった。時間をかける問題ではない」と話し、早期実現を目指す考えを示す。

   対する東商取は商品取引の低迷で、2018年3月期の取引高は2537万枚と過去10年でほぼ半減しており、株式会社化後の2009年3月期から10期連続で最終(当期)赤字と、経営は苦しい。ただ、JPXが金融庁所管なのに対し、東商取は経済産業省と農林水産省が監督しており、JPXに飲み込まれることへの抵抗感は強い。統合の具体的な協議も行われていなかった。

   今回、JPXと東商取が経営協議に合意したのは、規制改革推進会議が10月12日に総合取引所の実現に向けて本格議論を始めたのを受けてのこと。渋っていた東商取の翻意は、その背後にいる経産省が統合にゴーサインを出したことを意味する。

経産省はなぜ動いた?

   経産省にとって、現在の浜田隆道社長まで、6代続けて経産省OBがトップにつくという有力天下りポスト。JPXと東商取の力関係を考えれば、東商取がJPXに飲み込まれることになりかねないだけに、統合には一貫して慎重だった。

   そんな経産省・東商取の姿勢の軟化を読み解くキーワードが電力先物だ。東商取は従来から原油や石油製品などを上場しているが、電力先物も加えて「総合エネルギー市場」に脱皮を図ろうとしている。だが、2016年、17年に続き、この18年10月に3度目の上場延期をした。電力自由化が進み、競争激化にさらされる電力会社が、価格変動リスクを回避するために先物市場は不可欠だが、実現しないのは、取引の細目が決まらないといった理由もさることながら、「東商取の経営体力不足が主因」(経産省関係者)。東商取の浜田社長も「(JPXとの)グループ化で信用力が増し、競争力は強化される」と述べている(日経11月15日朝刊のインタビュー)。

しかし、まだまだ課題は山積

   統合という大きな方向は固まったが、詰めるべき点は多い。統合の形態について、東商取と大阪取引所を統合してJPX傘下に入る案を軸に検討するとの報道もあるが、東証や大証は金融商品取引法、東商取は商品先物取引法の規制下にあり、浜田社長は「(東商取がJPXの)子会社になる場合は東商取が存続し、商品先物取引法の規制が残る。JPXが大株主になれば、現在とあまり変わらない。合併に比べ十分に可能性はある」(同前)として、今の東商取のままJPX傘下にぶら下がる姿をイメージしている。

   浜田社長が語るように、金融商品取引法と商品先物取引法の関係がどうなるか、また、税制面でも、例えば東証が扱う金ETFのヘッジのため東商取の金先物を使うとしても、その税金については損益を通算できないといった問題がある。

   使い勝手のいい世界の投資家に魅力ある取引所をつくるには、法律の改正を含めいくつものハードルがある。

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