2024年 4月 26日 (金)

高橋洋一の霞が関ウォッチ
「21世紀の石油」を揺るがす勤労統計不正 根源には人員と予算の不足が

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   データは「21世紀の石油」といわれる。これは、世界で議論されているが、プライバシーに直結しない非個人データを流通させ、データ・エコノミーの成長を目指すという文脈で語られている。データ流通のためには品質が重要だが、国家統計は最高のものとされている。

   日本では統計法があり、基幹統計として公的統計の根幹をなす重要性の高い統計を56指定している。基幹統計では、統計調査を受ける国民も統計報告を拒んだり虚偽の報告をしたりすると罰則がかかる。もちろん、基幹統計に従事する公務員にも真実に反する行為や機密漏洩などで罰則がある。だから、国家統計は高い品質があるのだ。

  • 統計職員は約15年で3分の1に
    統計職員は約15年で3分の1に
  • 統計職員は約15年で3分の1に

関係者の処分だけでは不十分

   この大前提を揺るがすのが、今回の厚労省による統計不祥事だ。筆者のように、データ重視の分析者にとっては、信じがたいことだ。

   ルールとして、全数調査であれば、そのルール通り行うのはいうまでもない。そのルールに反して抽出調査というのでは、虚偽統計である。もちろん、統計法違反である。

   今回の厚労省の不祥事では、関係者の処分がすでに行われているが、再発防止のためには、それだけでは不十分だ。

   筆者は、大学時代に数学専攻であり、当時の大蔵省入省の前には、文部省統計数理研究所での内々定もしていたくらいなので、一応統計の専門家である。その目からみると、本件は国の統計職員の人員不足と予算不足が本質的な原因とすぐにわかった。

   筆者が、統計問題を意識したのは、2004年頃、経済財政諮問会議で竹中大臣を手伝っていたころだ。その当時、統計職員数は内閣府63人、警察庁6人、総務省590人、法務省10人、財務省85人、文科省20人、厚労省351人、農水省4674人、経産省343人、国交省75人、人事院24人、計6241人だった。

   ほとんどの統計職員は農水省であり人員が大きく偏在していたが、国際比較してみると、総数でみれば世界に見劣りしていない。人口10万人あたりの職員数をみると、当時の日本は5人で、アメリカ4人、イギリス7人、ドイツ3人、フランス10人、カナダ16人と比べても遜色ない。

いまや海外に太刀打ちできない「10万人あたり職員数」

   しかし、その後日本の統計職員は大きく減少した。2018年の各省庁の統計職員数は、内閣府92人、警察庁8人、総務省584人、法務省8人、財務省74人、文科省20人、厚労省233人、農水省613人、経産省245人、国交省51人、人事院12人、計1940人だ。人口10万人あたりの職員数について日本は2人であり、とても海外に太刀打ちできない。

   数だけではない。世界で統計職員といえば、博士号持ちの専門家である。しかし、文系社会の日本では、そうした専門家は偉くなれないので役所に入らない。結果として、日本は統計の量も質も海外に見劣りする。しかも省庁縦割りで農水統計分を他統計に振り替えるという柔軟対応ができない。

   その役所の硬直性は、すぐ全数調査をすべきという文系官僚によくある対応にもでてくる。今回の不祥事は、たしかにルール違反であるが、統計的に見て、全数調査と三分の一の抽出調査はさほど精度は狂わない。

   もし、厚労省の現場が統計の専門家、幹部も統計知識があれば、正々堂々と、抽出調査の正当性・合理性を説明でき、きちんとしたルール改正を行えただろう。そうしたまともな対応ができなかったことこそが大問題である。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「『年金問題』は嘘ばかり」(PHP新書)、「図解 統計学超入門」(あさ出版)など。

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