エーザイ見舞ったアデュカヌマブ・ショック 「Wストップ安」から再起の道は?

   製薬大手エーザイの株価が2019年3月22日、25日と週末を挟んだ2営業日連続で取引時間終了時にストップ安水準(制限値幅の下限)で売買が成立する大幅下落の展開となった。

   取引時間中に売買が成立したのは26日で3営業日ぶりという異例の下げの材料は、米バイオジェンと開発中のアルツハイマー型認知症の治療薬「アデュカヌマブ」について臨床試験(治験)を中止すると21日に発表したこと。これまでにない本格的な治療薬で、治験は最終段階だっただけに大きな失望売りを呼んだ。

  • 2営業日連続の「ストップ安」に(イメージ)
    2営業日連続の「ストップ安」に(イメージ)
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「病気の進行そのものを抑える」期待高まったが...

   まずアルツハイマー型認知症を巡る薬の現状を整理しておこう。この病気は脳の神経細胞が変異し、脳が萎縮する。記憶障害が徐々に悪化するなか、次第に服を着たり食事を作ったり会話で情報を伝えたりという通常の生活が困難になる一方、徘徊、不眠、うつなどの症状が現れる。現在、この病気を根本的に治療する薬はなく、脳内の神経伝達物質の分泌量を増やして脳の活動を活発にさせることで精神機能の維持を助ける目的の薬がいくつかある程度だ。米国食品医薬品局が承認している治療薬は4つあるがいずれも記憶や発語の能力を維持するのに役立つとされるもので、アルツハイマー型認知症そのものの進行に変化を与えるものではない。

   世界が高齢化社会を迎える中で、世界の医薬品メーカーが認知症の根治薬開発を競っているが、米ファイザーやスイスのロシュなど、治験の失敗が相次いでいる。発病のメカニズムがはっきり解明されていないことが背景にあり、治験で薬の有効性を合理的に示す方法も確立していない。

   こうした中でエーザイが治験を進めていた新薬は、病気の進行そのものを抑える効果を狙うものだった。神経細胞の変異は「アミロイドベータ」と呼ばれるタンパク質が原因の一つだとして、アミロイドベータを取り除いて認知症を抑える効果を期待し、「アデュカヌマブ」の治験を進めていた。しかし、最終段階の治験の結果から主要評価項目の達成が難しいと判断したという。

9000円台→6000円台の急落

   治験中止の発表を受けて市場関係者は「ネガティブサプライズ」(野村証券)などと反応した。野村は22日に配信したリポートで、投資判断を3段階で最上位の「Buy(買い)」から最下位の「Reduce(売り)」に2段階格下げし、目標株価も1万7000円から6000円に一気に引き下げた。UBS証券とシティグループ証券も3段階の最上位から最下位へと、野村に続いて相次いで投資判断の引き下げを発表した。

   エーザイの株価は認知症治療薬への期待などから3月5日に9679円の年初来高値をつけ、治験中止発表直前の20日の終値は9065円だった(21日は市場が休日)。これが、2営業日連続の「ストップ安水準引け」によって25日の終値は6065円。2日までちょうど3000円下げ、下落率は33.1%を記録した。その後はおおむね6000円台前半で推移している。

   ただ、これでエーザイにとって本格的な認知症治療薬実現の道が途絶えたわけではなく、「アデュカヌマブ」と同時に同様の効果を求めて開発を進めている2つの新薬がある。このうち、「BAN2401」は昨年、治験の中間段階で良好な結果が出ており、2019年3月に最終段階の治験を始めた。もう一つの「エレンベセスタット」も既に最終段階に入っている。最も先行していたアデュカヌマブがつまずき、残る2新薬に望みをつなぐ格好だ。早ければ数年後に発売にいたるとされており、その行方が注目されている。

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