2024年 4月 26日 (金)

炎上したら、謝罪だけでなく「メイクカンバセーション、議論しようよ」 元電通社員の提案

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   「ジェンダー炎上」をテーマにした当連載では、これまで4回に渡って、有識者に加えて、SNSで拡散させたユーザーや広告主などの当事者に話を聞いてきた。最終回では、もうひとつの当事者である、広告制作サイドが、どう向き合っているのかに焦点を当てる。

   そもそもどんな流れで広告が作られているのか。そして、「炎上」せずに世間に受け入れられるために、どのような策を講じているのか。電通で30年以上クリエーティブに携わり、現在は「ブランドア」代表の藤島淳さんに話を伺った。

   藤島さんは1980年に電通入社。コピーライターを経て、クリエーティブ・ディレクターとなり、自動車会社から飲料会社まで、日本を代表する企業を担当してきた。2014年に退職すると、同年にブランドアを設立。ブランディングやコミュニケーション・デザインなどを手掛ける一方で、上智大学で広告論の非常勤講師も務めている。

(聞き手・構成/J-CASTニュース編集部 城戸譲)

  • 「ブランドア」代表の藤島淳さんに伺った
    「ブランドア」代表の藤島淳さんに伺った
  • 「ブランドア」代表の藤島淳さんに伺った

広告ができるまで

――まず一般的な、広告出稿までの流れを教えてください。

   通常は、まずクライアントが広告会社に、対象商品、ターゲットやメディア、トーンなどをオリエンテーションします。その後は、日本の広告会社ですと通常、クリエーティブ・ディレクターの下に、コピーライターと、デザインを担当するアートディレクター、CMプランナーの3人がチームになって、営業担当と密に連絡を取りながら制作します。

――チーム内の男女比や、世代構成はどうなっていますか?

   それは広告会社の男女比に、ほぼ比例しています。やっぱり女性の心を動かすためには、女性からの視点も必要なので。女性のクリエイターは年々増えてます。いまどのくらいの割合ですかね。電通でも男性6:女性4とかでしょうか。化粧品など商品によっては、女性だけでチームを組む場合もあります。クリエーティブや市場調査のチームも、女性のトップが多くなっています。

――メンバーが固まったら、プレゼンテーションの準備に入るわけですね。

   社内で10案くらいできたうち、だいたい2、3案をクライアントにお持ちして、プレゼンテーションさせていただきます。だいたい「A案にB案をトッピングしてよ」みたいな調整は入ってくるんですけれど、信頼関係が太くなると、こちらがすすめた案を採用していただくこともあります。

   ただ、大きなお金が動く案件だと、クライアント側も宣伝部の一存で決められなかったりとか、営業部とか他部署との調整で時間がかかったりして、A~C案が全滅になって、新たにもう一回持っていくこともありますね。案が決まると、いよいよ制作に入ります。

――クライアントから調整を求められたとき、広告会社は受け入れるケースが多いのでしょうか?

   ケースバイケースですね。例えば、黒いスーツがいいと思っているのに、クライアントから「ちょっと派手にしたい。赤にしてよ」と言われて、「派手はわかるけど、ちょっと赤まで行くとな」ということはありますね。一見(いちげん)のクライアントさんとは、探りながら信頼関係を作ることもあります。

「考査部門」が防波堤になる

――事前の表現チェックは、広告会社やクライアントの内部で行われるんですか?

   電通の場合、社内に表現チェックをする法務部がありますから、クライアントに当てる前に聞きます。私がいたときは、自主的に「ちょっとこれ危ないかな」と思った時とかですね。「ジェンダー」が疑問視される以前に、「差別」で広告業界が批判を受けたことがあるので、そちらにも神経を使っていました。

   またメディア側でも、テレビ局とか新聞社、出版社は広告考査部門をお持ちなので、そこで「流して大丈夫なんだろうか」って考査は入ります。なので、炎上するのは両方の考査をすり抜けたもの、あるいはネット動画が増えていますね。

   マスメディアは長い時間をかけて、嫌な経験もしながら成熟してきたので、広告考査部門として相当しっかりした人たちがいらっしゃる。ただ、デジタルメディアは、考査が割とゆるいというか、そこまでまだ気が回ってないこともあると思います。クライアント自身が自社サイトに載せるものは、さらに甘くなっている。地方自治体が地元の制作会社を使う場合も、どちらも考査部門を持っていないわけで、危ないんですよ。

――考査部門がない以外に、ジェンダー炎上が頻発する理由は?

   広告なので、見てもらわなければいけないじゃないですか。私は広告の本質は、「本質をつきながら、意表をつく」だと思っているんですね。世の中の人を振り返らせたり、心を動かしたりしなきゃいけないとなった瞬間に、「下ネタへ行ってみようか」とか、そういう心理が働いてしまうのではないかと思います。

――わざと炎上させる、いわゆる「炎上商法」を仕掛けよう、といった提案があがることはあるのでしょうか。

   私が知っている範囲ではないですね。炎上すると必ず傷つく。せっかく制作費かけて作ったものをオンエアできなくなると、クライアントは実害をこうむりますし、商品やブランドが毀損されるので、一つもいいことはないと思っているんですよね。なので、少なくとも私は炎上商法を認めるつもりはないです。持ちかけられたこともないし、クライアントも広告会社も、そこは考えるべきではない。

――では、意図していないにせよ炎上してしまった場合には、どう対応するのでしょうか。

   まず、クレームや非難は、クライアントに行きますよね。それを電通が作ったかどうかは、誰もわからないわけですから。それでクライアントから広告会社に「どうしよう」と相談がきます。ただ、そこで広告会社とか制作者が謝るのは筋がちがうので、通常はクライアントがネット上に「申し訳ありませんでした」って出していますよね。

信念があれば、メッセージを出せるはず

――我々(ネットニュース記者)も取材するときには、企業広報に取材します。クレームが来た場合、どれくらいのスピード感で広告会社に相談が来るんでしょうか。

   クライアントの担当者次第ですよね。1個、2個きた瞬間に来る担当者さんもいます。今はどんな表現を出しても、かならずクレームはくるんですね。ですから腹をくくっているクライアントさんは、「それくらい放っておこう」となります。私はコピーライターから仕事を始めましたけど、ネットがない20年前でも、よくクレームは来ていました。

――クレームが来たときに、すぐに謝罪をする企業が増えている印象があります。なぜ意図を説明して、「私たちは信念を持ってやっています」と説明しないのでしょうか。

   おっしゃる通りで、信念を持って作っていれば、きちんとメッセージを出せるはずなんですよね。「ご指摘のことはわかりますけれど、弊社としては、こういうことを伝えたくて、こういう表現を取った」ということで。すぐ引っ込めるっていうのは、私は制作物に対して、クライアントも広告会社も、きちんとした信念を持ってないんじゃないかという気もしてしまいます。

――クレームが来た際には、ケーススタディとして取っておくんですか?

   電通では勉強会を開いて、周知徹底していました。「こういうところが、いけなかったから炎上した」、あるいは「クレームが来た」とか。絶えずノウハウをためておいて、他社事例であっても勉強会で共有するようにしていました。

撤回ではなく、議論の場を

――上智大学での講義について教えてください。秋学期では広告の炎上をテーマに扱ったんですね。

   4月から7年目に入りました。学生にとってデジタルメディアは、ものすごく身近で、動画に対してのリテラシーも相当高いはずです。非常に興味関心が高かったですね。取り上げたのは、サントリーの「頂」(編注:公式サイトによると、すでに製造終了。17年7月、女性が各地の方言で「お酒飲みながらしゃぶるのがうみゃあ」「コックゥ~ん!」などと発言するウェブ動画が「卑猥だ」と批判を浴び、削除された)、資生堂の「インテグレート」とかですね。あと私上海電通に5年いましたので、中国の事例も紹介したりしています。

   女性でも「炎上したのは当然だ」という学生もいるし、「いやいやそこまでやる必要はないんじゃないの」って声もある。資生堂のインテグレート(編注:16年10月、25歳を迎えた女性主人公が、同性の友人から「今日からあんたは女の子じゃない」と言われたシーンが問題視され、テレビ放映を中止した)をテーマにしたときに「25歳からもう女の子じゃないって、どうなの?」って聞いたところ、上智の講義では25歳を超えている学生はほとんどいないので、「いやいや何が問題なの」「勇気もらって、あれはあれで明るくていい」って反応が大勢でした。僕は上智以外でも講演をするんですが、これを25歳以上の女性が揃っている所で流すと、「ひどい」「失礼」といった声が増えました。

――たしかに誰に聞くかによって、反応は変わってきますね。

   アメリカでは「メイクカンバセーション」、つまり「議論しようよ」という呼びかけがあります。賛成意見もあれば、反対意見もあるだろうから、議論しませんかというものなのですが、それが日本にも根付いてくれないかなってすごく思っています。インテグレートの例なら「25歳以上はもう女の子じゃない」→「それダメでしょ」ってのじゃなくて、「みなさんどう思いますか」という議論の場を、資生堂が用意できると、それはすごく企業のためにも、商品のためにも、意見を言いたい人のためにもいいんじゃないかと思っています。

――具体的に、どのような事例がありますか?

   国際女性デーに向けて、アメリカで行われた「Fearless Girl(恐れを知らない少女)」をご存じですか。2017年のカンヌでグランプリ3部門をとっている作品です。ウォール・ストリートの雄牛像を「男性社会の象徴」として、その前に少女像を置いて女性の権利を訴える。ある投資ファンドがこの像を建てたんですが、議論が巻き起こった瞬間に、集まるお金が一気に増えたという。非常にわかりやすい広告効果だったんです。「あんなものを置いて何事か」とか「置くだけでなにを訴えるの」とか、当然ネガティブな意見もいっぱい集まったんですけど、「勇気付けられた」という声もあって、これこそ議論を交わす広告のひとつの姿だなと。

これからジェンダー炎上は増えるのか

――ここから先、ジェンダー炎上は、より増えるのでしょうか。それとも収束するのでしょうか。

   みなさんにもこれだけ記事として取り上げていただいて、「いかがなものか」「炎上は怖いよ」となっていった時に、ジェンターに限らず、「炎上させちゃまずいよね」となると思っています。ただ、やっぱり表現なので、思いがけない所に反応される方は、かならず出てきます。なので、出し手側、要するにクライアントと制作会社、広告会社の責任として、「こういう意図を伝えたいんです」というのを持っているべきだと思っています。

   ハズキルーペが、女性がお尻でメガネを踏むってのをあれだけ連発していて、相当クレームが行ったはずなのに、CMを下ろさないじゃないですか。しかも炎上している気配がないですよね。

――クライアントの姿勢も重要なんですね。

   やっぱり、出し手側の社長が「よく家庭でも、メガネ置いて座っちゃうことがあるでしょう。それを演出しているだけなんですよ」と。送り手側に、ああいう態度がはっきりしている人がいるのは心強いですし、それはどこのクライアントや広告会社も見習うべきだと思っています。小池(百合子)都知事は、一瞬ブームになったけど、(希望の党結党時の)「排除します」であっという間に株が下がりました。「排除」ってのは、私は一方的に「全部ネガティブだからダメ」って切り捨てることだと思っています。賛否の議論を受け入れる「寛容な社会」を、マスコミや政治家が訴えていただけるといいですね。

   何度も書き込みをする少数の人たちに引っ張られて、良質な表現までも傷つくのは、よくないと思っています。外国人をいっぱい受け入れて、多様性とかダイバーシティを進めようとか言ってますけど、それは多様な考え方を受け入れる素地がないと、無理な話ではないでしょうか。

   あと、炎上はネットにとどまらず、「いまあれが炎上しているよ」ってマスコミが取り上げてから一気に広がるじゃないですか。だからマスコミ側の責任も、私はあると思っているんです。ゲストコメンテーターが「いやー、ひどすぎますよね」とか言った瞬間に、もっと燃え広がる。そこはひとつ、炎上のスイッチとして大きいと思っていて、取り上げ方も気をつけていただきたいですね。

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