2020年 10月 21日 (水)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち 
シアトル「占拠」自治区はなぜ生まれたのか

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   米北西部ワシントン州シアトルの一角が、デモ隊に占拠され、「自治区」が設置された。今ここで一体、何が起きているのか。

   この連載の前回の記事「『シアトル占拠』に市長『お祭りみたい』、大統領は『制圧せよ』」に続いて、その背景と現状を自治区からの情報や現地の報道をもとにあらためて伝えたい。

  • 警察の催涙ガスから防御するために使われた色とりどりの傘(2020年6月10日、ワシントン州シア トルで Ochloさん撮影、Wikimedia Commonsより)
    警察の催涙ガスから防御するために使われた色とりどりの傘(2020年6月10日、ワシントン州シア トルで Ochloさん撮影、Wikimedia Commonsより)
  • 警察の催涙ガスから防御するために使われた色とりどりの傘(2020年6月10日、ワシントン州シア トルで Ochloさん撮影、Wikimedia Commonsより)

「警察(POLICE)」を「人々(PEOPLE)」に書き換え

   シアトルでは2020年6月10日から11日にかけて、数百人のデモ隊が市街地の一角である市庁舎周辺にバリケードを築き、6ブロックを自治区に設定したと宣言した。

   シアトル警察東管区も占拠し、その建物正面の文字は「警察(POLICE)」が「人々(PEOPLE)」に書き換えられ、「SEATTLE PEOPLE DEPARTMENT」とされた。

   トランプ大統領はデモ隊を「無政府主義者だ」、「シアトルを乗っ取った国内テロだ」と厳しく非難し、「これはゲームじゃない。無政府主義者をストップしろ」、「自分たちの町を取り戻せ。今すぐにだ。やらないなら私がやる」と次々にツイートした。

   トランプ氏は、「シアトルを、暴動で町が荒れたニューヨークの二の舞にするわけにはいかない」、「命を救うためだ。『思いやり」の制圧だ」と主張する。

   これに対し民主党のジェニー・ダーカン市長は、「トランプ氏はホワイトハウスの地下壕に引っ込んでいなさい」、「抗議し、ひどい政府には立ち向かう。それが憲法で守られた大切な権利です」と反発した。

   同じく民主党のジェイ・インズリー州知事も、「統治能力のない人間は、ワシントン州に関わるべきじゃない」とトランプ氏を非難した。

   自治区の入口には、「YOU ARE NOW ENTERING FREE CAP HILL(あなたはここからキャピトルヒルの自治区に入ることになります)」と書かれた看板が掲げられている。デモ隊は警官に邪魔されず、中を自由に移動している。

   銃を携帯する男性が米メディアのインタビューで、「ここで警備に当たるために自分の仕事はやめました」と答えている。このような事態になった背景は、何なのか。

警察をバリケードから撤退させたのは市

   ミネソタ州ミネアポリスで、白人警官が黒人男性を死亡させた事件を受け、全米50州に広がった抗議デモ。5月31日にはシアトルでも、大規模なデモへと発展した。おおむね平和な抗議デモだったが、デモ隊が道路を占拠し、乱入した一部の人たちによる放火や建物の破壊なども起きた。

   同日、午後5時以降の外出禁止令が出され、2000人の州兵が市の要請で派遣された。

   鎮圧するために、警察や州兵が催涙ガスやゴム弾を使うなどしたことで、デモ参加者から強い反発が起きた。

   彼らは市に対して、逮捕されたデモ参加者の解放、警察の非武装化、警察の人員や予算を削減し、「コミュニティベース」の福祉などに回すことを求めた。

   警察はバリケードを張り、デモ隊との対立が続いた。6月5日、ダーカン市長は、「身の危険がある場合を除き、今後30日間、警察は催涙ガスを使わない」と約束した。ところが、その後も混乱が続き、市長が約束した3日後に、ベスト警察署長の判断で催涙ガスの使用を再開した。

   そして、6月8日。突如、警察が一斉にバリケードから撤退した。シアトル警察東管区は入口や窓を板で封鎖し、そこからも撤退した。そこへデモ隊がなだれ込み、警察署や市庁舎を占拠、街の一角に「自治区設置」を宣言した。

   6月9日、カルメン・ベスト警察長官は緊張を和らげるために、何人かのデモ参加者と話をした。

   女性で自らも黒人であるベスト警察署長が黒人男性に、「あなたの顔を見ると、自分の家族のことを思うんですよ。対話を持ちましょう。私にその用意ができています」と語っている。

   6月10日、人々は市庁舎になだれ込み、警察の経費削減の即実行を求めた。応じないのであれば、「辞任を」と市長に突きつけた。

   警察が撤退したことについて、ベスト警察署長はのちに、「撤退したのは、私の決断ではありませんでした。市が強い圧力に屈したのです。私はそのことに怒りを覚えています」と語っている。

   占領された警察署を取り戻したいが、市長はそれを望んでいない。

   「自治区」は今、どのような様子なのだろうか。

「混乱」強調のFOXニュースが写真捏造の指摘

   ダーカン市長はCNNニュースのインタビューで、「トランプ氏や保守系メディアから流れる情報とはまるっきり違います。ブロックパーティ(ストリートで行われるコミュニティのお祭り)みたいですよ」と語った。

   警察との激しいぶつかり合いがなくなり、「逆に街は穏やかになった」との声も聞かれる。

   自治区に集まった人たちは、「警察がいなくなってから、穏やかになった」と口をそろえる。現地から流れてくる写真や動画を見る限り、おおむね穏やかで平和な雰囲気だ。通りにはスタンドが立ち、食べ物が無料で配られ、医療品などの生活物資が並ぶ。子供連れの姿も見られる。野菜作りや演奏、映画上映、詩の朗読なども行われている。

   地元のシアトルタイムズは、「自治区」の混乱の深刻さを強調するために、「FOXニュースが軍隊様式のライフル銃で武装した男性の写真を捏造し、別の街の放火の写真を使った」と指摘。FOXニュースはウエブサイトから写真を削除した。

   市警が懸念しているような「強奪や強姦は起きていない」と、否定する人も少なくない。とはいえ、そこには住民がいて商店もあり、実際に何か犯罪が起きた時に、現状では警官が駆けつけられない。安全に生活するために税金を払っている住民たちは今、無政府状態で暮らさざるを得ない。

   だが、シアトルはもともとリベラルな土地柄で、民主党寄りの都市だ。「自治区はごく一部の地域で、今は穏やかだ」という住民の声も少なくない。

   6月12日の早朝には、男性が警察署東管区の建物を放火しようとした。が、その場にいた人たちが消火に当たったため、大事には至らなかった、との報道もある。

   自治区に集まっている人々は、「左派、ラディカル、アナキストだ」とトランプ大統領や右派は主張しているが、人権擁護団体などさまざま団体のメンバーで、興味本位に自治区を見に訪れる人たちもいる。

   自治区から流れてくるネット上の動画では、辺りが真っ暗な中で、男性がマイクを使って大声で次のように演説している。

   「これを聞いている住民たちに言いたいことがある。こんなに大声で騒いでいるから、怒りを覚えているだろう。でも我々の任務を達成したら、ここから出ていく。だから怒らないでくれ。怒るべき相手は、市議会、市長なんだ。現状を改善しようとしている僕たちじゃない。僕らは必要な限り、大声を上げ続ける」(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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