2024年 4月 27日 (土)

ヤフトピとNERVと 台風10号から考える災害時の「情報のリズム」【ネットメディア時評】

   九州などへ接近し、各地に被害をもたらした台風10号。一連の報道は、インターネット上で、どのようにされていたのか。今回は「ポータルサイト」を入口として、災害時における「情報のリズム」を見ていこう。

  • 災害時に必要とされる情報は?
    災害時に必要とされる情報は?
  • 災害時に必要とされる情報は?

ヤフトピに見る「台風報道」推移

   ポータルサイトに掲載されるニュースは配信記事がほとんどだが、「影響力」では媒体社にまさるケースが多々見られる。なかでも、Yahoo!ニュースのトピックス(通称ヤフトピ)は圧倒的だ。トップページの「主要」(ニュースタブ)に並ぶ8本は、日本で一番読まれる記事と言ってもいいだろう。そんな「主要」に選ばれた、国内の台風関連記事を振り返ってみる。

   気象庁が接近4日前の「異例の会見」を行った2020年9月2日は84本中15本(17.9%、以下筆者が目視計測)が台風関連だったが、その半数以上は「台風9号」について。3日になると、台風関連は13.2%(76本中10本)に減った一方で、「台風 進行方向の右側ほど危険」「台風 接近前にやるべき対策」「台風 風が強くなる前に避難を」など、被害を食い止めるためのハウツーが並ぶようになった。4日(16.9%、83本中14本)も、同様の傾向が見られる。

   本格的に台風情報へシフトしたのは、気象庁が「重大な災害が起きる確度が高くなった」と会見した5日(38.8%、67本中26本)だろう。タイトルに「台風」および「10号」を含めないパターンが16本と過半数を占めた。なかには「備えて 九州は午後に風強まる」と、呼びかけから始まるものもあった。

   九州に接近し始めた6日(64.6%、82本中53本)には、「鹿児島」(6本)「九州」(11本)など地名を入れるほか、「340万人(500万人)に避難指示と勧告」「台風 九州で14万戸(18万戸)超が停電」のように、具体的な数字をあげることで、その威力の大きさを伝えるトピックスが増えた。週明け7日(34.8%、89本中31本)も同様の傾向がみられ、8日に9.9%(81本中8本)へ落ち着いた。

   進路予測から避難時のノウハウ、被害・支援状況まで、災害時に求められる情報には「リズム」がある。各社のバランスを見ながら、タイミングに応じた適材適所でのピックアップが必要となってくる。

ポータルサイトと「特務機関」

   ポータルサイトは、自社サイトのみならず、SNSでの情報発信も行っている。livedoor(ライブドア)ニュースのツイッター(@livedoornews)では、配信された記事に限らず、広く台風情報を伝えていた。なかでも、9月2日に投稿された「【要チェック】災害発生時は『デマ情報』に注意 信頼できるアカウント一覧」は、ツイートから1週間で約4.3リツイート、約5.9万いいねを記録した。記事などへのリンクはなく、説明文と画像1枚のみ。官公庁やNHKなどツイッターアカウントのリストとともに、災害時に注意すべきことが書かれている。

   特筆すべきは、この中に「特務機関NERV」(@UN_NERV)があったことだ。ゲヒルン(東京都千代田区)が運営するアカウントで、100万以上のフォロワー(9月中旬時点)を誇る。台風をはじめとする災害情報だけでなく、社会的なニュースをリアルタイムに速報している。

   NERV(ネルフ)の元ネタは「新世紀エヴァンゲリオン」に登場する同名団体。個人アカウントとして始まったが、東日本大震災で注目され、現在は著作権者・版権管理会社の許諾を得た「公認ですが非公式」の立場だ。19年にはスマートフォン用アプリ「特務機関NERV防災」をリリースし、JX通信社(東京都千代田区)の「NewsDigest」などとともに、「速報アプリ」のジャンルを確立しつつある。

   そんな「NERV」が、政府機関や公共放送ばかりの「信頼できるアカウント」リストに、民間企業から唯一名を連ねた。その意外性が、さらなる拡散力を生んだのではないか。ツイートへのリプライには「常なる活動の賜物だと思う。ほんと頭が下がる」といった声も見られる。

   ポータルサイトと「NERV」の違いは、ニュースを編集部がピックアップするか、淡々と伝えるかにある。情報を腑分けして交通整理してもらうか、できる限り多く届けてもらうか。あなたの情報摂取スタイルには、どちらが向いているだろうか。

(J-CASTニュース副編集長 城戸譲)

【J-CASTネットメディア時評】
いまインターネットでは、なにが起きているのか。直近の出来事や、話題になった記事を、ネットメディアの「中の人」が論評します。

城戸譲 J-CASTニュース副編集長
1988年、東京生まれ。大学でジャーナリズムを学び、2013年ジェイ・キャスト新卒入社。Jタウンネット編集長などを経て、18年10月より現職。「ニュースをもっと身近に」をモットーに、政治経済からエンタメ、生活情報、炎上ネタまで、真面目とオモシロの両面で日々アンテナを張っている。ラジオとインターネットが大好き。(Twitter:@zurukid

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