2021年 2月 25日 (木)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(27)感染が再拡大した欧州の「いま」と日本の「あす」

糖の吸収を抑える、腸の環境を整える富士フイルムのサプリ!

   夏ごろには、いったんコロナ禍が小康状態になった欧州で、秋口から感染が再拡大し、その勢いがとまらない。なぜ感染がぶり返し、どんな対策を打とうとしているのか。独仏を中心に、日本の「明日」の姿を探る。

  •                                (マンガ:山井教雄)
                                   (マンガ:山井教雄)
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欧州と緯度が重なる北海道の感染拡大

   私が住む北海道は、コロナ禍については、全国の「先行指標」のような立ち位置にあるようだ。鈴木直道知事は2020年2月28日に、全国に先駆けて独自の緊急事態宣言を出し、外出自粛を要請した。夏にはいったん収まりかけたものの、冬に向けて感染が急速に再拡大している。11月21日までの1週間で、人口10万人当たりの新規感染者は全国平均が10・79人だが、北海道は31・10人と突出しており、大坂や東京を上回っている。鈴木知事は23日、経済振興策「GoToトラベル」キャンペーンからの除外を表明することになった。

   たぶん、これには二つの要因がある。第一は、最北に位置し、いち早く寒冷の季節を迎え、冬も長引くことだ。もう一つは、札幌に一極集中するという歪な人口構成だ。

   札幌市の人口は約196万人で、市別に見れば東京都区部、横浜、大坂、名古屋に次ぐ全国5番目の政令指定都市だ。一方、北海道の人口は約524万人。つまり、北海道の人口の37%は札幌に集中していることになる。北海道の人口密度は1平方キロ当たり62・8人に対し、札幌のそれは1750人。単純に計算すれば約27・8倍だ。

   これを東京に置き換えてみれば、都区部には総人口の7・6%が集中し、東京都全体で見れば11%強、人口約3680万人の首都圏1都3県には30%近くが住んでいることになる。つまり北海道の札幌への一極集中は、全国の首都圏への一極集中を上回る計算になる。

   もちろん、都道府県の一つを、全国になぞらえることには飛躍がある。しかし北海道の面積は国土の2割強。数年前にネット上で、日本の地図パズルで北海道の型枠に全国都道府県のパズル片をいくつ詰め込むことができるかを競う遊びが流行ったが、最高は16県に上った。私も試みたが、東京23区を含め、16都県が北海道の広さに収まった。

   つまり、面積の大きさに比べ、この札幌への人口集中は、かなり異例と言っていい。

   背景には二つの理由がある。一つは、戦後の北海道の主力産業だった石炭採掘がエネルギー革命や事故によって衰退し、同じく柱だった林業が、外国産の安い材木の輸入に押され、廃れていったことだ。もう一つは1972年の札幌冬季五輪開催に合わせ、開発予算が札幌の都市整備に集中したことだ。これによって札幌は、炭鉱の職を失った人々の受け皿として人口が拡大することになった。

   北海道と命名された明治2年に、長く暮らしてきたアイヌの人々を除けば、札幌に住みつく和人は豊平川の渡し守をする2家族7人だけだったと言われる。それが1970年には100万人都市になり、その後も周辺合併を続けて倍増した。全国でもまれな新興急増都市なのである。

   寒冷地であることと、札幌への人口一極集中によって、今回のコロナ感染も北海道に特有の展開をたどるようになった。一つは、冬に向かい、全国に先駆けて感染が広がっていることであり、もう一つは、札幌と道内各都市の往来が、感染拡大源になっていることだ。

   危機感を募らせた鈴木知事は11月16日、札幌市の秋元克広市長と緊急会談をして、札幌市民には外出自粛、札幌と道内他都市には、札幌との往来自粛を求めた。

   だが、即効性を見込むのは難しい。高度に都市機能が集積した札幌には、日ごろから通勤・通学・買い物などで周辺から通う人々が多く、とりわけ小樽、江別、石狩、北広島の近隣4市は一体化した活動圏だ。さらに、北海道開発局の調べでは、コロナ禍以前、新千歳空港の乗降客は1日6万人近くを数え、全国で5番目に多く、その6割が札幌に流入していた。10月から東京都も「GoToトラベル」の発着地の対象に加わったことから、行楽シーズンを迎え、首都圏からの観光客数も回復しつつあった。裏を返せば、道内他都市は札幌との行き来によって、さらに札幌は国内他都市との行き来によって感染拡大のリスクを抱え、しかもそれが、「経済活動再開」と矛盾するというジレンマを抱え込むことになった。しかも、人口減少が続く他都市では医療態勢も十分ではない。比較的整備されている札幌以上に、地域医療が逼迫する臨界点は早くにやってくる。

   以上が、この秋に札幌と北海道で起きたコロナ感染の簡単な素描だ。こうした問題を考えるにあたって、いつも私の念頭にあるのは、欧州各国の様子だ。札幌の緯度は北緯42度から43度に位置する。同じ緯度をたどればドイツのミュンヘン、マルセイユのあるフランス中南部やスペイン北西部に近い。季節感や、大都市への人口一極集中といった条件も、かなり似通っている。

   その欧州で何が起きているのか。ベルリンとパリに長年住むお二人に、近況をうかがった。

ジャーナリスト・梶村太一郎さんにうかがうドイツの今

   ドイツはこの春、南欧並みの感染者を出しながら、死者は比較的少なく、世界から「ドイツモデル」と称賛された。その「欧州の優等生」にもこの冬、危機は迫っている。その一方で、米製薬大手ファイザー社と協力し、世界に先駆けて米食品薬品局(FDA)にワクチンの緊急時臨時使用許可(EUA)を申請したドイツのバイオ企業ビオンテックが世界の注目を集めている。

   11月17日、ベルリン在住46年のジャーナリスト、梶村太一郎さんに、ZOOMでドイツ事情をうかがった。なお梶村さんには、このコラム6回目の「欧州のコロナ禍」(5月30日リリース)でも話を聞いている。

   その回でもお伝えしたように、「ドイツモデル」の大きな特徴は「参謀本部」方式にある、と梶村さんは言う。参謀本部は、19世紀のプロイセンで確立した軍事組織で、平時から、有事を想定して軍事計画や動員計画を研究し、準備する軍の中枢部門だ。

   感染症における参謀本部は、連邦保健省直属の機関、ロベルト・コッホ研究所である。1890年にコッホが設立したこの研究所は、2002年から3年にかけてSARS(重症急性呼吸器症候群)が流行したのち研究を重ね、2013年に連邦議会に、最悪事態を想定したリスク分析の報告書を提出した。これは,変種のコロナウイルスが東南アジアから欧州、北アメリカに感染拡大するというシナリオで、今回の新型コロナ発生とよく似ている。特筆すべきは、ドイツ政府がこうした研究をもとに医療体制や予防体制を構築していた点だ。これが、パンデミックにおいて、ドイツがパニックに陥らず、冷静に初期対応をするに当たって、大きな備えになった。

   この研究所は毎日感染情報を公開しており、そのサイトを見るだけでも深刻さがうかがわれる。11月23日のサイトには、この日だけで1万864人の新規感染が確認され、累計では92万9133人。治療中の患者が29万6200人に上り、ICU患者も33人増えて3742人になる。直近1週間の10万人当たりの新規確認は143症例になり、これも日本の全国平均10・79人とはケタが違う。だが、その感染の勢いをみれば、欧州でも医療態勢が充実しているとはいえ、かなり緊迫した状況だ。

   こうした趨勢が明らかになった10月28日、ドイツのメルケル首相は州政府と話し合い、11月2日から月末までのロックダウンを決めた。今回も、持ち帰りを除き飲食店やバーを閉鎖し、娯楽イベントなどを禁じた。劇場や映画館、スポーツ施設なども閉鎖し、公共の場の集まりは最大2世帯、計10人までとする。また、宿泊施設の利用も「観光目的以外」に限る、とした。その一方で、学校や商店などは閉鎖しなかった。春に比べると、やや緩やかな都市封鎖といえる。それでも、梶村さんが送ってくださったロックダウン後のスナップ写真には、ベルリンの公園をマスク着用で散歩する人や、行きつけのトルコ人経営の魚屋が、マスク着用で1回に入店者を1人に制限する様子などが写っており、平穏な日常にも緊張感に包まれる雰囲気が伝わってくる。

「今回の措置は、ドイツでは『ソフトなロックダウン』とか、『ロックダウン・ライト」と呼ばれている」

   春のロックダウンでは、学校が休校になり、食品を扱うスーパー、薬局、病院以外は商店も閉めた。

「30代の息子は3歳と昨夏生まれた乳飲み子を抱え、保育園も閉まっていた。在宅で仕事をしていたが、週に2日は出勤しなければならず、奥さんと交替で子どもの世話をしながら3か月を過ごした。『3か月で5年分ぐらいの歳をとった』とぼやいていました」

   厳しすぎる行動制限は長く続かない、ということだろうか、今回は理美容院も店を開けているし、前回はできなかったお葬式への参列や教会の礼拝も許されているという。

激しい第2波と日本の7倍になる犠牲者

   メルケル首相が今のロックダウンを決めた時点で、新規感染確認は、過去最多の約1万5千人だった。感染経路を追うのが難しくなり、クリスマス前に制限をかけることで、抑え込みたいとの狙いだった。だが梶村さんはこういう。

「今回の行動制限後、感染拡大はようやく頭打ちになってきたが、まだ油断はできない。総じて言えることは、この冬の第2波は、春の第1波より激しいということだろう」

   その例として挙げるのは、死者数の増加だ。今の時点で、日本の死者数の7倍に当たる1万4千人以上の犠牲者を出している。

「9月上旬ころは、この勢いが続けば年内に死者が1万人に達するのもやむを得ないか、という認識だった。だが、11月になると死者が1日100人単位で増え、昨日も267人が亡くなった。ドイツ全土に感染が広がり、その増加に応じて重症者や死者が増えている」

   梶村さんは感染度に応じて色を塗り分けたコッホ研究所の資料を送ってくださったが、それを見ると、全体が赤く染まり、全土への広がりが一目瞭然だ。だが、その中でも、ドイツの南部、西部が濃く、東部と北部では比較的広がっていないことも読み取れる。

「今回の特徴は、ドイツと国境を接したポーランドやチェコなど旧東欧での感染が拡大していることだ。人口が約3800万人のポーランドでは、人口8200万人のドイツよりも多い新規感染者が出ている」

   医療態勢の充実したドイツでは、今月に入ってベルギーやオランダ、フランスからコロナ重症患者を受け入れ始めたが、そろそろ国内のICU施設も逼迫し始めており、緊急ではない手術を先延ばしして、コロナの重症患者を受け入れるなどの措置を取り始めた。

   だがドイツの強みは、将来を読む先見性と持ち前の組織力だ。ベルリン市はこの春、見本市会場に、500床の臨時集中治療病院の施設を敷設した。当初は1千床の予定だったが、まだ余力があったため半分で建設を中止し、空いたままになっている。

   梶村さんによると、ボランティアで建設を主導したのは、元ドイツ連邦技術支援隊隊長のアルブレヒト・ブレーメ氏(67)だった。

   彼は技術大学を卒業後に兵役代替役務で消防士を務め、長く元ベルリンの消防署長をした人物だという。その後、当時の連邦内務大臣で現連邦議会議長ショイブレ氏によって支援隊隊長に任命された。2年前に定年引退したが、今回のコロナ禍で手腕を見込まれ、建設を引き受けた。

   建設開始が3月下旬で、わずか6週間後の4月末には500床を完成させた。経費は日本円で480億円かかった。未使用になっていたので一時は「ムダ遣い」との声も出たが、今は「安心の担保」になっていることから、非難する声ははほとんどないのだという。体外式模型人工肺のECMOこそないが、酸素吸入装置やCTを使える作りになっており、今は最悪の場合を想定して機器を使う訓練をしているという。

「感染は防げない」を前提に「犠牲者を減らす」対策

   だが、梶村さんが指摘した通り、状況は予断を許さず、一進一退を繰り返している。長期化は避けられない見通しだ。

   インタビュー後の11月25日ベルリン発時事通信電によると、コッホ研究所の統計で、過去24時間のコロナ死者数が410人になり、4月の第1波時の315人を超えて過去最多になった。1日の新規感染者数も1万8000人超と依然高水準が続いているという。

   こうした動きを受けて同日、メルケル首相は各州と協議をし、クリスマスに向けた方針を打ち出した。梶村さんによると、以下の内容だ。

1. 12月1日から、私的な集まりは、最大で2世帯、大人5人に制限。ただし、(感染率の低い)14歳以下の子は例外とする。

2. 冬休みは全国で12月19日から前倒しにして始める。

3. 12月23日~1月1日の間は、1の規制を緩和し、世帯数を問わず、最大10人の大人が集ってよい。この場合も14歳以下の子は例外とする。

   つまり、12月からはいったん規制を強め、クリスマスから年末までは大人10人と子供や孫が集まってもよいという方針だ。感染拡大を厳戒しつつ、最大行事のクリスマス期間だけは制限を緩め、一家団欒の日常を取り戻してほしいという、ぎりぎりの選択だろう。

   連邦制をとるドイツでは、日本よりも各州の権限が強い。感染予防法は各州に権限をゆだねており、マスク着用をどこまで義務付けるか、開く店の種類を具体的にどこまで認めるかなどは、州の条例で規制している。たとえばベルリンでは、最初は感染防止に効果がない、と言われたマスクについて、9月から公共交通機関出の着用を義務付け、最近では約20の繁華街で着用を条例で義務づけた。この点では、地域ごとに、感染に応じた施策を立てる日本とも似ている。

   だが、日本との一番違いは、、政治家の責任の取り方だと梶村さんは指摘する。

「コッホ研究所のウィーラー所長は、『私はこう思う』と言いつつ、感染防止策については『学者が判断することではなく、政府が判断することだ』とクギを刺す。学者と政治家の判断は違って当然という考え方で、政策決定のプロセスがはっきり表に出る。それが安心感につながっている」

   ドイツの報道によると、メルケル首相は,今回のロックダウンについて、もっと厳しい措置を取るよう主張したという。「命を救うためには、もっと厳しく制限する必要がある。人の接触率を4分の1に絞り、日常生活で会う人を、同居人以外は1人に制限してほしい」という旨の発言をした、と伝えられている。

   だが前述のように、厳しいロックダウンには人々の疲弊や経済的損失という別の悩みが付きまとう。

今回の措置に当たってメルケル首相と各州は、当面100億ユーロ(約1兆2300億円)を企業に追加支援することでも合意した。閉鎖によって影響を受ける従業員50人以下の中小企業は、前年11月の売上高の最大75%を受け取れる。

   それでも、家庭内などと比べ、比較的感染が少ないと言われる飲食店や宿泊業者からは、不満の声も出ている。ドイツ商工会議所の統計によると、今回のロックダウン2週間の途中経過で、ドイツ全体の小売店、商店の売り上げは前年同月上半期と比べ、43%の減少になったという。

   では、こうした損失補償をしながらの「ソフトなロックダウン」はいつまで続けられるのだろう。

   メルケル首相は、暖かくなる来年4月の復活祭(イースター)までは、今のような感染状況が続くとの見通しを持っている。また、元ハンブルク市長で社会民党(SPD)のオーラフ・ショルツ財務相は、来年6月いっぱいまでのコロナ対策の臨時予算を総額960億ユーロ(約12兆円)と算出し、「借金をすれば、まかなえる」と発言している。

   EUの「安定・成長協定」は加盟国の財政の健全性を保つため、財政赤字を国内総生産(GDP)比で3%以内、債務残高を60%以内にするよう定めている。多くの国はこの財政規律に違反しているが、ドイツはここ数年で債務残高を減らし、昨年は60%を切った。こうしたゆとりが、長期的な取り組みを下支えしているのだろう。

   各国のコロナ対策は、感染の状況や財務状態に応じて違いが顕著になっているが、梶村さんは大別すると二つの類型になると指摘する。第1は日本や台湾、韓国、ニュージーランドのような島国で、「水際作戦」で流入をシャットダウンするタイプ。第2はスマートフォンのアプリなどで感染者との接触を監視し、警告するタイプ。9つの国と隣接するドイツでは、「水際作戦」は不可能だ。かといって、プライバシーを制限してまで「監視」を強めることも難しい。そこで長期的な目標として定めているのが、感染は防げないことを大前提として、「犠牲者を減らす」ことなのだという。

   コロナ対策を担当するシュパーン保健相が、会見で毎回のように言及するのは、ドイツのリスクグループの多さだ。

   内閣府の30年版高齢社会白書によると、総人口に対する65歳以上の人の高齢化率は、2015年時点で日本が26・6だったのに対し、欧米では21・1%のドイツがこれに次いでいる。フランスの18・9%、英国の18・1%、米国の14・6%と比べても高く、推計では2030年ごろには30%を超える勢いだ。ドイツは「感染を抑えつつ、重症化しても命を救う」ことを最優先にし、当面は10万人当たりの1週間の新規感染者数を50人以内に抑える目標を掲げている。

「一口でいえば欧州の感染率は日本の10倍で、米国は日本の100倍。せめて今の北海道並みになりたい、という状態です」

   梶村さんはそう話すが、裏を返せば、北海道を初め日本全体が、今の欧州のようにならないという保障はない。むしろ長期的にそうなることを想定して備えるべきだろう。梶村さんはさらにこう付け加えた。

「ただし明るい知らせもある。ウイルスの再生産係数は春の最悪段階では3前後だったが、今は1・2か1・3、それに、ワクチン開発の朗報もあります」

トルコ系の医師夫妻がワクチン開発に寄与

   米国のバイオ企業モデルナや製薬大手ファイザーは11月、開発中のワクチンが、3つある臨床試験の最終段階で、90%以上の効果を発揮したと発表した。ファイザーは20日にFDAにワクチンの緊急時の使用許可で1号目の名乗りをあげた。

   このファイザー社と協力したドイツのバイオ企業ビオンテックが欧州で注目を集めている。

   ファイザーとモデルナが開発中のワクチンで使っているのは、mRNA(メッセンジャーRNA)と呼ばれる物質の特性を利用した技術だ。DNAの遺伝子情報はまずメッセンジャーRNAに転写され、その情報をもとにタンパク質が作られる。ウイルスの遺伝子配列がわかれば、そのmRNAのワクチンで体内にウイルスのタンパク質を作り出し、それを捉える免疫細胞が、本物のウイルス侵入を排除して感染を防ぎやすくする。動物細胞などでウイルスを培養して弱毒化する従来型とは違う技術だ。

   ベルリン発時事通信電によると、ビオンテックの創業者は、4歳でトルコから移住してきたウール・シャヒンさんと、妻でトルコ系移民2世のエズレム・テュレジさんで、共に博士号を持つ医師夫妻だ。同社は12年前に創業し従業員1300人の中規模企業だった。しかし以前から取り組んでいたmRNAワクチンの技術力を買われ、年間売上高が500億ドル(約5兆2000億円)を超える世界最大級のファイザーと3月に共同開発で合意した。米ナスダック市場での株価は、昨年10月の上場から1年余りで7倍超に値上がりしている。

   梶村さんによると、ウグル・シャヒンさんは1965年9月にトルコで生まれ、4歳の時に母親と共に、ドイツのフォード工場で働く父親の元にやってきた。エズレム・テュレジさんさんは1967年に北ドイツの田舎町ラストルップで生まれた。父親はイスタンブール出身の開業医で、母親もトルコ系だ。夫妻の間には13歳の娘さんがいるという。

   梶村さんによると、高度成長期に入った当時の西ドイツは1961年、トルコ人を労働力として受け入れる協定を結び、イタリアやスペインから続いて多くのトルコ移民がドイツに住み着いた。70年代にかけて移住した移民は「ガストアルバイター(ゲストワーカー)」と呼ばれ、その後定住して国籍や選挙権を持つ人も多い。だが当初はドイツ語教育の態勢が不十分なこともあって、さまざまな軋轢や差別の問題を引き起こした過去がある。

   ドイツ社会にとって、最先端技術でワクチン開発に取り組むトルコ系の夫妻の活躍は、そうした苦い過去を拭い去る快挙と映ったのではないか。

   その質問に対して、梶村さんの答えはこうだった。

「たしかに、トルコのコミュニティでは大騒ぎをしているけれど、ドイツでは当たり前のことと受け止めた」

   そう言って梶村さんが語ってくれたのは、5年前に耳鼻科に通った経験だった。近所のかかりつけの医師から紹介された耳鼻科の専門医はトルコ人2世で、手術の場に指定したのは大学関連病院。そこで、その2世が大学教授であることを初めて知ったのだという。

「今のドイツで、祖先や親族がトルコ系など移民としての背景がある住民の割合は26%です。去年11月に、広島市と長い姉妹都市でもあるハノーバー大都市圏の市長に選出されたベリット・オナイ氏は、緑の党所属のトルコ系政治家です。それだけ、トルコ系移民も統合が進み、社会進出をしている。今回のビオンテックのニュースも、美談ではなく、ドイツ社会の成熟の表れという文脈でとらえた方がいい」

   開発中のワクチンは、RNAが壊れやすいために、零下70度前後の超低温で保管する必要があり、輸送の難しさも指摘されている。

   だが、この点について、ドイツは国防軍が特殊な容器に入れて移送する計画を立て、EUの認可が下りれば年内に接種を始める準備をしているという。16州でワクチンを接種する場所の選定を進め、インタビューしたこの日も、ベルリンの見本市会場など6か所で接種するというニュースが流れたばかりだった。

   その数日後、梶村さんから次のようなメールをいただいた。

「ベルリン市の計画では、12月後半から、毎日2万人にワクチン接種を実現したいとのことです。まずは75歳以上の老人39万人と医療福祉関連者の9万人から始めるそうです。ビオンテック社のワクチンはドイツ国内でも生産していますのでアメリカから輸送する必要はありません。ビオンテックのウルグ・シャヒン教授は、昨日、『目算では来年の秋までにドイツ住民の70%がワクチン接種すれば、コロナは完全に制圧でき、元の生活ができるだろう』と述べています」

   もちろん、新技術を使うワクチンについては、安全性や副作用について、慎重な検討が必要だろう。無症状や軽症の人が多いコロナの場合は、健康な子どもや若者、妊婦の人々に対するワクチン接種に、とりわけ十分な注意が必要になる。ワクチンの早期接種に過剰な期待を寄せ、感染防止の手を緩めるようなことがあってもならない。

   だがそうしたことを前提にしていえば、「神頼み」で外国産のワクチンに望みを託すこの国に比べ、将来を見越して着々と準備に怠りないドイツ社会の堅実さと周到さは、やはり瞠目すべきことのように思える。

パリ在住の石村清則さんに聞くフランスの今

   ドイツと同じく、夏にいったん沈静化したコロナ禍が、秋から再び猛威をふるい、ロックダウンを余儀なくされたのがフランスだ。

   マクロン大統領は10月28日、コロナの感染再拡大が深刻化していることを認め、30日から少なくとも1カ月、全土で外出禁止令を課すと表明した。

   フランスの第1回目の外出禁止令は3月から2カ月間続いたが、その後は半年間のブランクがあった。マクロン大統領は夏以降、外出禁止令に関し、「回避するためにあらゆることをする」として経済活動再開を優先させてきた。だが、1日の感染者数は10月に5万件超、死者も1日500人を超えるペースが続き、座視できないまでになった。

   マクロン大統領は「11月半ばには集中治療室が限界を迎える」と危機的な状態にあることを訴えた。春と違い、感染は全土に広がった。もう重症患者を、比較的感染していない地域に搬送することも難しい状況になった。これ以上放置すれば、春の第1波よりも大きな犠牲が出る、という苦渋の決断だった。

   だが、ドイツと同じく、ロックダウンといっても、今回は第1回と多少の違いがあった。

   カフェ、レストランなど「必要不可欠でない」商店はすべて閉鎖する。食料品の買い出しといった例外を除き、市民の外出も禁じ、違反者には罰金を科す。

   だが、前回と違って、保育所、幼稚園から高校までの学校は閉鎖しなかった。

   職場には可能な限り、テレワークを要請する一方、工場や農業、建設業などでは現場で働くよう求めた。経済への打撃を最小限にしたい思いがにじんだ方針だろう。

   実際の生活はどうだったのだろう。11月14日、パリ在住37年の石村清則さんにZOOMでインタビューをした。

   石村さんは私の高校同期で、パリ・インターナショナル・スクールで、第一言語として日本語を選択する生徒に、文学作品などを通して日本語を教えている。石村さんには、やはりこのコラム6回目の欧州編でお話をうかがった。石村さんはまず、ロックダウン宣言前後の状況について語り始めた。

「7~8月のバカンスが終わった9月から10月にかけ、感染がどんどん増えた。10月30日のロックダウン前後は、毎日3~5万人の感染が確認され、最高で8万5000人にもなった。第1波は特定の地域に感染が広がり、そうでない地域もあったが、今回はフランス全土に感染が広がっている。専門家が指摘するように、都市部の人々がバカンスで、感染が広がっていない地域に出かけた影響が大きいのだろう」

   9月からは新学期で学校も始まり、20代前後の若者が大学に戻った。その人々が家庭に戻るなどして、感染は全世代にまで指数関数的に拡大したという。

「フランスのクリスマスは、日本の正月に匹敵する大切な行事。家族が集まれないと、不満は爆発する。政府はそれを見越して、クリスマスの時期には制限を緩めようという狙いがあるのではないか」

   その言葉を裏付けるように、カステックス首相はインタビュー直前の13日に記者会見をし、12月1日までとしていた外出禁止を延長する一方,「我々の目的は、クリスマスには規制を緩和することだ」と述べた。

   この時点で、国内の入院患者は春のピークを超える3万2千人に達していた。首相は、「30秒ごとに1人がコロナで入院し、3分ごとに1人が集中治療病床に運ばれている」と警告した。亡くなる4人に1人の死因がコロナという最悪事態だ。

   死者はその後も増えて5万人を超えたが、ロックダウンの効き目が出たのか、11月下旬になると、最大で6万人超だった1日当たりの新規感染者は1万人を切るまでになった。

   マクロン大統領は11月24日のテレビ演説で、今後ロックダウンを3段階で緩和することを明らかにした。

   それによると、28日から生活必需品以外の商店も営業を再開し、1日当たりの新規感染が5千人未満という条件を満たせば、12月15日にロックダウンを解除し、夜間外出禁止令に切り替える。さらに1月20日にはレストランや屋内スポーツ施設の営業も再開する、というシナリオだ。クリスマスの季節に向けて、制限と緩和を使い分ける戦略が透けて見える。

「ソフト」化したロックダウン

   石村さんによると、今回のロックダウンは春とはかなり様相が違っているという。

   前回は、例外として認められる外出は買い物や犬の散歩などに限られ、しかも「1時間以内、自宅から1キロ圏内」に限られていた。このため、町はゴーストタウンのように人影が絶え、独りで出かけるのも怖いほどだった。

   今回は時間、範囲といった厳しい行動制限はなくなり、町で見かける買い物客は多かった。

   この制限緩和は、ロックダウンがパリなど大都市だけでなく、全土に拡大したことが原因だろう、と石村さんは言う。地方都市では、1キロ以内では買い物もままならず、車で遠出をする必要があるからだ。外出する場合には、何時にどのような目的で外出するのかを紙に印字するか、スマホに入力して、警察に職務質問をされる場合には、それを見せる必要がある。だが、大幅に逸脱していなければ、それほどチェックは厳密ではない、

   以前は完全に閉店したレストランやバーも、今回は深夜を除き、持ち帰りが認められている。

   通勤には、職場からの証明書が必要で、公共交通機関のチェックで携行していなければ罰金が科せられる。だが世論調査で働き手の45%はテレワークをしているというデータもあり、フランスでも在宅勤務が定着しつつあるようだ。国鉄やパリ市内のバス、地下鉄はかなり減便になったという。

   前回と違うのは、ウイルスは中国発ということを理由に、一部で「アジア人狩り」の暴力沙汰が起きていると伝えられていることだ。日本大使館からも、邦人同士で固まらず、目立つ格好もしないように、という注意が届く。

   だが前回も書いたように、石村さんの自宅はパリ西部でセーヌ右岸、ブローニュの森に隣接する16区にある。石村さんの家はその南端に位置し、すぐ窓の下にマルシェと呼ばれる路上の朝市が立つ閑静な住宅地だ。居住者は「中の中」から「中の上」くらいの層の人が多い。

「この周辺では、暴力事件などは見たことも聞いたこともない。アジア人が被害を受けたとされる場所は移民が多く、失業率も高いパリ郊外。ロックダウンでさらに職を失い、不満やストレスが、はけ口を求めて暴力に向かうのかもしれません」

学校では対面授業とオンラインが5割ずつ

   石村さんが勤めるパリ・インターナショナル・スクールは、「国際バカロレア」の(IB)カリキュラムを採用し、幼稚園から高校3年まで70カ国の園児や生徒が学ぶ。

   前に触れたように今回は、高校までの学校は開校するのが原則だ。フランスの国民教育省は最近、各校に通達を出し、コロナ対策の要点を指示した。

   登校時に健康状態をチェックし、授業では生徒間に1メートルの間隔を置き、換気をする。登下校では生徒が集中しないように、学年ごとに時間をずらすなど工夫をする。校内の移動は一方通行とし、マスクを外すのは昼食をとる時に限る。また、オンライン授業は5割までとし、5割は対面にしなければならない。

   基礎疾患がある教員や、65歳以上の教員が勤務する場合には、かかりつけ医師の証明に加え、学校側が依頼する産業医による許可も必要だという。さらに学校では1日2枚、週に10枚のN95微粒子用マスクを、そうした教員に配布する。

   一方、6歳以上の子にはマスク着用が義務づけられており、生徒が忘れた場合には、学校がその生徒にマスクを配る。

   もし生徒がコロナに感染したら、個人を特定できる情報や性別は伏せ、学年と人数だけを全校職員や保護者に伝え、濃厚接触者にのみ個人的に連絡をしてPCR検査を受けさせる。1クラスに3人以上の感染が確認されれば、学級閉鎖にする。

   こうした細かな対策を教えてくれた後、石村さんはこう振り返った。

「一口にいうと、第1回の時に比べ、社会に多少のノウハウが積み重なってきた。初めてのことではないし、冬になれば感染が拡大するという心の備えもあったと思う。閉鎖になったレストランやバーも、最大1万ユーロ(124万円)の補助金や政府補償による家賃の減額に加え、テイクアウトで最低限の稼ぎを補うなど、生き残りに必死だ。あとは、クリスマスまでにどこまで社会活動を再開できるか。それが本当に大きな分かれ目になると思う」

北大の遠藤乾院長が語る欧州の今

   独仏のお2人に現地の情勢をうかがったあと、11月22日に、北大公共政策大学院長の遠藤乾さんにZOOMでインタビューをした。遠藤さんはEU研究の第1人者だ。

   遠藤さんはこの秋の特徴を、「最初に感染が激増したところに第2波が戻ってきたうえに、第1波で割合に逃れられた旧東欧や北のバルト3国に感染が拡大している」と分析する。

   寒気到来は感染拡大の要因の一つだが、それだけではスペインの再拡大の説明がつかない。共通のパターンを見ると、バカンス中は家族単位で行動し、ある程度は持ちこたえていたが、9月の新学期で学校が開き、そこで感染した学生らが家に帰って家族らに感染が拡大するという類型が考えられる。ベルギーがその典型例だ。

   さらに首相がマスク着用を義務化せず、国政選挙を控えて厳しい制限をしなかったポーランドなど、国によって個別の事情は異なる。比較的マスクの効果が見られたドイツ、イタリアでは感染拡大までに時差があり、ドイツは充実した医療態勢に助けられ、相対的にはまだ持ちこたえている。

   こうした欧州の状況を前提に、遠藤さんは、欧州の今は、日本の「これから」を暗示している、と指摘する。

「春先の感染時には、医療従事者の踏ん張りもあって、日本も何とか持ちこたえた。ICUの逼迫度にも、まだ余裕はあった。しかし、今の欧州の状況を見ていると、このまま放置すれば、日本でも今後、厳しい状況が待ち受けていると思わないわけにはいかない」

   最も大きな懸念材料は、医療従事者の精神的・肉体的な疲弊が進み、瀬戸際まで追い詰められていることだ。

   第1波の時にはフランスの病院を訪れたマクロン大統領に医療従事者が抗議した。ベルギーでは、ブリュッセルの病院を訪れたウィルメス首相を、沿道に並ぶ医療従事者が、一斉に背を向けて抗議の意思表示をした。だが、その後も劇的に改善したという国は少ない。

   ツイッターでは、「バカンスにも行かず、我慢して仕事を続けてきたのに、もっと逼迫した状態になってしまった」という嘆きや失望の声が流れ始めている。

   日本では、医療従事者が表立って政治家に抗議するという場面は少なかった。だが、その裏に隠された疲弊や不満を見のがすべきではない、と遠藤さんはいう。

「正しく恐れるというのなら、どこに最も大きなコロナ禍のしわ寄せが行っているのかを、考えるべきでしょう。医療や福祉介護の現場に、パブリック・セクターがもっと支援すべきです」

EUの向かう先は?

   この春のインタビューで遠藤さんは、欧州各国が自国民を優先させてマスクや防護服を確保したため、不足したイタリアなどには感情的なしこりが残っただろうと語った。経済的な打撃や、回復力も国によって大きく異なり、その差はEUの結束を弱める遠心力として作用する。だが、独仏が復興基金を提唱して求心力を高める姿勢を見せており。そこにEUの将来が懸かっている、との見方だった。

   EUは7月、7500億ユーロ(約92兆円)の復興基金を創設することで、全加盟国が合意した。コロナで大きな打撃を受けたイタリアやスペインなどに手厚い配分をする計画だ。だが、最近になって、権力の濫用で「法の支配」が揺らいでいる場合には資金を拠出しないというルールが導入され、これにハンガリーとポーランドが反発して協議は行き詰まっている。予定通り、来年に資金を配分できるかどうかは微妙な情勢だ。この点について遠藤さんはこう話す。

「越年の可能性はあるが、合意するまで前年の例にならって執行するなど、まだ妥協の余地はある。復興基金はその規模からいっても、統合史に残る事業であり、EUはこれでコロナに対する存在感を示せた。EUはこれまでに何度も大きな危機を迎え、妥協と交渉によって一つ一つ乗り越えてきた。それを思えば、悲観の必要がない。むしろEUが来年に直面する大きな課題は、対米関係の立て直しになるだろう」

   米国では、ようやくバイデン次期大統領への政権移行プロセスが始まり、新閣僚の指名が取り沙汰されるようになった。だが、トランプ政権の4年間で危殆に瀕した米欧関係を修復することは、容易ではない。

「アジア重視にシフトしたオバマ政権は欧州に冷たく、『欧州パッシング』とでもいうべき現象が見られた。だがボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)の回顧録などを読むと、トランプ氏はまさに欧州を敵視し、ドイツなどとは敵対していた。欧州にとっては、本当に厳しい4年間だったと思う」

   バイデン次期大統領は、基本的には大西洋関係、つまり欧州を重視する姿勢を取ってきた。その点で欧州は心配していないが、むしろ対中、対イラン、対北朝鮮など複数の変動要因によって、足並みがそろうかどうかを気にかけている。遠藤さんはそう分析する。

   さらに来年までには英国のEU離脱が決着し、その後ドイツのメルケル首相が引退し、フランスでも1年半後の大統領選に向けてEU指導者の権力基盤が変化する。

   EU域内外の多元方程式をどう解いていくのか。コロナ禍が続く来年もまた、EUにとっては多難な一年になりそうだ。

ジャーナリスト 外岡秀俊




●外岡秀俊プロフィール
そとおか・ひでとし ジャーナリスト、北大公共政策大学院(HOPS)公共政策学研究センター上席研究員
1953年生まれ。東京大学法学部在学中に石川啄木をテーマにした『北帰行』(河出書房新社)で文藝賞を受賞。77年、朝日新聞社に入社、ニューヨーク特派員、編集委員、ヨーロッパ総局長などを経て、東京本社編集局長。同社を退職後は震災報道と沖縄報道を主な守備範囲として取材・執筆活動を展開。『地震と社会』『アジアへ』『傍観者からの手紙』(ともにみすず書房)『3・11複合被災』(岩波新書)、『震災と原発 国家の過ち』(朝日新書)などのジャーナリストとしての著書のほかに、中原清一郎のペンネームで小説『カノン』『人の昏れ方』(ともに河出書房新社)なども発表している。

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